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「あの……ご無沙汰しております! 小学生の時に同じピアノ教室に通っていた、長谷部です」
早口で名乗ると、お母さんはゆっくりと大きく目を見張った。
両手で口元を隠すように覆う。
「長谷部って……まさかリンちゃん!?」
「…………はい」
「まあまあ、何処かで見たことあると思ったら……大きくなって……」
感極まったようなお母さんの声を聞いて、私は胸がいっぱいになる。
その後、視線が折坂くんの方を向いたので、私はハッと彼を振り返った。
「あ、あの、彼は折坂くんといって、生前ちょっとだけ優くんと面識があったらしくて……」
「まぁ、本当に?」
「…………はい」
あながち嘘ではないのだけど、さすがにちょっと後ろ暗かった。
だからと言ってホントのこと言っても、絶対信じてもらえないだろうし……。
「初めまして、折坂といいます。……優くんが亡くなったと聞いて、お線香を上げさせてもらいに来ました」
落ち着いた様子で挨拶をした折坂くんを見て、お母さんは優くんそっくりの優しい笑みを浮かべた。
「ありがとう。どうぞ、上がってちょうだい」
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