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「リンちゃん。折坂くん」
「…………はい」
一人ずつ丁寧に名前を呼ばれて、私と折坂くんは戸惑いながら返事をした。
「あなた達は、ちゃんと今を生きてね」
「……………」
「優の分まで…って言ったら重く感じるかもしれないけど。あなた達はあなた達の人生を、思いっきり楽しんで生きてね」
言葉に詰まる私達に向かって、お母さんは涙を浮かべながら切なげに微笑んだ。
「………そしてよかったら、時々でいいから優のこと、思い出してあげてね」
────秋の始まりの、冷えた空気に。
優くんのお母さんの涙声が滲んで、溶けていった。
私達は言葉もなく、お母さんの顔を見つめ返す。
あまりにも深いその言葉は、素直に私の心を貫いて……。
そして、自分が今生きていられることの奇跡と有り難さを、教えてもらったような気がした。
「────はい」
同時に折坂くんと頷くと。
お母さんは最後に、心からの笑顔を見せてくれた。
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