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洗い物をしているとうちのシェフ様が厨房に入ってきた。
「えりちゃん、おはよー。あれ、何か作ってた?」
「お兄ちゃんが卵焼きって」
ふぅん、と鼻歌混じりに答えながら、シェフは朝の仕込みをしていく。いつ見ても無駄は最小限、華麗な手さばき、綺麗な盛り付け、楽しそうな笑顔で料理をしている。
とても真似できないし、基本的にワンマンタイプの人なので洗い物も終わったし、いつまでもここにいると邪魔になるだろう。そう思ってホールに出た。簡単な掃除や開店前の準備は私の仕事だ。
テーブル席が五つしかないこの店。二十人入ると満員だ。客席から厨房の中が少し見えて、シェフの手さばきの一部がチラッと見えたりする。
近所のおじいさんなんかは、わざわざ老眼鏡をかけてシェフの顔を見ようとするほど。美人過ぎるシェフはそんな視線に一回だけ笑顔を返す。そして私に押し付けるのだ。
とにかく、小さいと言えばまだ聞こえはいいかもしれないけど、つまりは狭い店内。厨房とホールがお互いにコミュニケーションがとりやすいのは、利点……。
厨房の床から大量の泡がホールに流れてくるのを見るまでは、そう思っていた。
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