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「そう、それ」
私は冷静な振りをして答えた。ここで動揺したらなめられると本能的に感じた。
「課長には見えるのですね。そういう人、あまりいませんが」
「それは一体何だね」
目の前に恐ろしい猛獣がいる気分で心臓が破裂しそうな位に動悸が高まっていたが、とにかく落ち着こうと必死に言い聞かせた。
「そうですね。私の本体というところでしょうか」
「本体?」
「ええ、私の今までの前世の記憶がここにあるんです」
彼女は平然と言ったが、私はこの言葉の意味を理解するのに少し時間がかかった。
「つまり君の脳がその浮いている物って事か」
「脳は体にあってこれは記憶です。思い出す時はこれから引っ張ってくるんです」
彼女の説明で漠然とその仕組みが想像できた。
「それじゃ君は生まれてからずっとその白い物を背負っているのか」
「生まれる…生まれたのはいつだったか忘れました。もう何百年も前なので」
私は右のこめかみを指で押さえた。
「それならもっとお婆さんだろう。だが君は若い」
「それは、この体が死体だからです」
私は思わず「えっ!」と叫んだ。同じフロアの社員達が一斉にこちらを見た。
「えっ…鉛筆は太くて丸い方が持ちやすいんじゃないのかな。ハハハ…」
必死にごまかして社員達の視線をかわした。周りの雰囲気はすぐに元に戻った。
「課長かわいいですね」
彼女がにっこり微笑んだ。
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