第一章

5/5

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
 「全く冗談にしてはきついな。そんな訳ないだろう。死体だなんて」  「いえ、本当です」  彼女の真顔での即答に私はまた叫びそうになったが、唇を噛みしめて口の中で声を押さえて軽く深呼吸をした。  「わかった。取りあえずこの話はやめよう。別に君の事を詮索する気はないから…。ただ教えてくれないか、なぜ私に見えるんだ」  ずっと抱いていた疑問を彼女に訊いた。  「よくわかりませんが特殊な能力らしいですよ。他の人に見えない物が見えた事はありませんか?」  「別にないな。霊感が強いって言われた事もないし…でもわからないなら別にいい。ありがとう。仕事に戻ってくれ」  彼女は「はい」と短く返事をして盆を持って給湯室に向かった。部下達が話しながら打ち合わせから戻って来た。  彼女の後ろ姿が白い球体でぼんやりと霞んでいた。  自分の体を死体だと言う彼女は血色が良くて全くそれらしく見えなかった。  だが彼女の背後に変な物が浮いている以上、私が想像している『冷たく青白い肌の死体』とはきっと違うのだろうとこの不可解な状況を必死に頭の中で整理した。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加