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私はハイヒールを脱いで出口に走り出した。女達も、崩れた天井で足場が悪いところを必死でついてくる。コンクリートの欠片が足に刺さって痛いがそれどころではない。そうしている間にも壁や天井がどんどん崩れてくる。一階の大広間に着いた。ここを抜ければ外に出れる。ラストスパートをかけて走り、扉を開け何とか一番乗りで脱出できた。後ろを振り返ると、まだ女達は遥か後方を走ってきていた。突如鳴り響く轟音。上を見ると、天井が崩れ、女達目掛けて落下してきていた。
「ちっ!」
指揮棒を取り出し天井の塊に向けて魔力を放ったが止まらない。さっき柱を壊すのに魔力のほとんどを放ったせいで、あれほど巨大で重たい物の落下を止めるだけの魔力が残っていない。駄目だ、死んだ。私が諦めた直後、信じられない物を目にした。天井の塊が、空中でピタリと止まっていた。止めたのは私じゃない。目をぎゅっと瞑ったアイリスが、震える手で万年筆を塊に向けていた。……魔女だ。そしてあの万年筆がアイリスの杖。他の女達は頭を押さえて床に突っ伏していたが、数秒後状況を理解し、すぐにまた走り出した。アイリスは止まったままだ。
「何してる! あんたも早く来な!」
「は、はい!」
アイリスは天井の塊から万年筆を外さないように、ゆっくりと後ずさった。安全地帯まで来たところで出口に走り出した。その直後、塊は落下し、それからまもなく館全体が崩壊した。
無事全員生存。アイリスがいなければ、私以外は全員死んでいただろう。女達は私とアイリスに何度も頭を下げた。アイリスは照れくさそうに顔を赤くしていた。
「いいかい? 言うまでもないと思うけど、今回のことは一切他言無用だからね。フォレストの奴らに何か聞かれたら、自分は何も知らない、急に建物が崩れてきたと言うんだ。魔女のことを喋ったら殺しに行くからね」
「も、もちろんです!本当にありがとうございました!」
女達はそれぞれの家路についた。無事に帰れるのかと思ったが、オークに攫われるだけあって美女ばかりだから帰り道はどうとでもなるだろう。誰かに拾ってもらえばいい。それよりも……。私は横にいるアイリスを見た。この歳で、あれほどの巨大なコンクリートの塊を空中でピタリと止める魔力。相当の才能が無ければ出来ない芸当だ。こいつならもしかしたら、私と共に……。
「あんたも魔女だったんだね」
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