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「そこまで面倒見切れないよ。さっさと乗りな。あんたは今日からうちで一緒に暮らすんだ。それと居候するからには畑仕事も手伝ってもらうからね」
「は、はい!」
この時アイリスは初めて笑顔を見せた。鍵を回すとエンジンがかかったが、ギアを変えなければアクセルを踏んでも前に進まないことに気付いたのは、それから二十分も経ってからだった。
*
「んー、我ながら実に美しい肉体だ」
無駄なく引き締まった筋肉。曇りのないツヤツヤの肌。俺はいつも通り、風呂上がりに全裸のまま鏡の前で自らの肉体美に見惚れていた。カサブランカ村の温泉には美肌効果があったようだが、なるほどなかなかの効き目だ。ただでさえ美しい俺の身体がますます煌めいている。ド田舎だからといって近くにあるのに放置してたが気に入った。また近いうち行ってやるか。そんなことを考えていると、誰かがドアをノックした。
「入れ」
「失礼します」
チェリーだった。俺が最も信頼に置いている部下だ。この暑い日に、布で顔全体を覆い隠している。まあ、俺が普段からそうするように命じたのだが。
「……着替えるのを待っていた方が宜しかったでしょうか?」
「かまわん。しかし随分戻ってくるのが早かったな。もう終わったのか?」
「はい。噂通り、バイオレット町に魔女が三人隠れ住んでいました。見つけ次第消しましたのでご安心を」
「ふふ、さすがだチェリー。やはりお前以上の魔女狩りの適任者はいないな」
「ありがとうございます。しかし、それよりもご報告しなければならないことがあります」
「何だ?」
「部下から相談を受けたのですが、ここ三日間オークと連絡が取れないそうです。向こうの通信機器が全く機能していないようで……何かあったのでしょうか?」
オーク、バーチ、メイプルには毎日の定期連絡を義務づけている。それが三日間も連絡が取れないだと? 仮に通信機器が故障していたとしても、三日も何の音沙汰も無いのは確かに妙だ。何か嫌な予感がする。
「仕方ない、直接見に行くぞ。馬を用意しろ」
「車の方が速いと思いますが」
「俺は車が嫌いなんだ! あの揺れといいエンジン音といい、吐き気を催すわ!」
「そうでしたね。かしこまりました」
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