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準備は整った。医師免許は思った以上に上手く出来ている。それぞれ私とアイリスの顔写真入りだ。名前は当然偽名。文字も材質もほぼ完璧と言っていい。魔法を使っても普通はなかなかここまではいかない。
「よし、それじゃ出発だ。これ、あんたの分」
白衣を投げてよこした。医者に扮するには免許だけじゃ駄目だ。
「あ、ありがとうございます。……でもちょっと大きいですね」
「そう?普通のサイズ買ったつもりなんだけど」
「……ロゼさんの基準だと、普通のサイズでもだいぶ大きくなりそうですが」
私がキッと睨むと、アイリスは視線を逸らしてそれ以上何も言わなかった。
*
列車に揺られて数時間。私達はバーチの拠点に到着した。警備員が、近付いてくる私達に気付き、警戒心を露わにした。アイリスはガチガチに緊張している。
「もっと澄ました顔をしてな。私達は往診に来ただけなんだから」
「わ、わかってます」
ある程度近付くと、警備員の方から歩み寄ってきた。
「止まれ。ここはバーチ様の拠点だ。部外者は立ち入り禁止だぞ」
「失礼。私達はそのバーチ様の往診に来ました。いつも診させて頂いているウィロー先生が体調不良で、急遽私が代任で来た次第です。それと彼女は私の助手です」
私達は偽造した医師免許を警備員に見せた。特に怪しんでいる様子はない。
「そうか、ご苦労。ついてこい」
警備員の案内の元、私達はまんまと侵入できた。あとは、上手いことバーチと二対一で対面出来ればいいが……。しばらく歩いた後、待合室に通された。
「ここで待っていろ。バーチ様が準備出来たら呼びに来る」
ソファーとミニテーブルが置いてあるだけの質素な部屋。私達はソファーに腰を下ろした。
「……」
「……」
「……遅いですね」
「……そうね」
確かに遅い。いつもこうなのか? いや、何か嫌な予感がする。私は指揮棒を持って立ち上がり、扉に向かった。
「どうしたんです? って、ロゼさん一体何を!?」
「大きな声出すんじゃないよ。あんたもこっち来な」
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