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翌日、村は慌ただしかった。無理もない。怖いからと言って家に籠もっているわけにはいかず、村人は皆、村の入り口に集まってウォルナットの出迎えの準備をしていた。横では祖母が不安そうな顔をしている。村人の中には、家族をフォレスト軍に殺された者もいるだろう。一体どんな気持ちで迎えるのだろうか。私も戦争で父を失ったが、父のことは割り切っていた。戦争はやらなきゃやられる殺し合いだ。父も国のために自ら志願して戦争に趣いた。それで殺されたからといって恨むのは筋違いというものだろう。だが、母は違う。母は一方的な殺戮によって殺された。殺されなければいけない理由などどこにもなかった。許すわけにはいかない。絶対に、だ。
「ウォルナット王が来たぞ」
村人の誰かが発した。遠くの方にその姿が見えた。大勢の護衛兵を従え、自身は馬に乗ってゆっくりとこちらに向かってくる。村人達は道の両脇に避けて、並んで跪いた。私と祖母もそれに倣った。
「ほ~う、ここがカサブランカ村か。聞いていた以上にド田舎だが、なかなかい?い所じゃあないか」
ウォルナットが馬の上から村を見渡して言った。
「おい、村長はいるか?」
「は、はい! 私です」
村長がおそるおそる前に出た。
「ここの名物は温泉だそうだな。俺はそれ目当てで来た。案内しろ」
「お、温泉ですか。かしこまりました。こちらへどうぞ」
村長を先頭に、ウォルナットと護衛兵が歩を進めた。こっちに近づいてくる。間もなく私の目の前を横切るだろう。奴の顔がハッキリ見える。
────コロス
心拍数が急激に上がった。血が逆流し、頭が熱くなった。
─────コロス、コロス、コロス、コロス、コロス!!
懐に手を入れた。指揮棒に指先が触れる。聞こえる。母の悲鳴、断末魔が。見える。焼け焦げていく母の姿が。ウォルナットの内蔵を引きずり出した。ウォルナットの鼻と耳をそぎ落とした。眼球を潰した。手脚を斬り落とした。顔面を踏み潰した。何度も踏み潰した。何度も何度も何度も何度も何度も。
「ん?」
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