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予鈴のチャイムが鳴り、そろそろ澤木君を起こさなくてはと思ったところに、
「真一を迎えに来ました」
と、教科書とノートを持った子が俺にそう声を掛ける。
青ネクタイは二年生。胸元のネームバッチを見ると木邑優と書かれていた。
彼が木邑君かと、澤木君には雰囲気が似ていると言われたが、よくわからない。
「五時限目は移動教室なの?」
「はい、ここから行く方が近いんでノートと教科書を頼まれたんです」
「そうなんだ。ちょっと待ってね。澤木君、起きて。木邑君がお迎えに来てくれたよ」
澤木君の肩を揺さぶれば、今起きるよと言って大きく伸びをし身体を起こす。
「ありがとう、優」
木邑君から教科書とノートを受け取る澤木君はとても優しい顔をしている。
そう、それは自分に見せる顔とは別のモノで、なんだかとてもうらやましい。
それがつい表情に出てしまったようで。
「そんな顔すんなよ、樹」
ぎゅっと鼻を摘ままれて、何をするんだよと彼を見れば、木邑君がいる前でちゅっと音をたててキスをする。
「なっ」
「ちょっと、真一!」
唖然とする俺に。
「ごめんなさい、加勢先輩」
顔を真っ赤にし、何故か謝る木邑君。
「なんでお前が謝る?」
やった本人はそんな調子で、木邑君が「先にいくから」と行ってドアへと向かう。
「待てよ優。じゃ、後でな」
もう一度、唇に口づけを落としてドアの向こうへと消えていった。
余韻の残る唇に、俺の顔はみるみるうちに熱をもちはじめる。
「なんなの、あいつは」
振り回されるだけ振り回され、俺はへたりと座り込んだ。
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