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だが、すぐに良かったんだと思いなおす。だって、真一の強引さに毒されちゃったら大変なことになりそうだ。甘い痺れをもたらす毒は病み付きになりそうな、そんな危険性を孕んでいるから。
「調べ物してくるから」
真一が身を離し、そのまま椅子に座らせられる。さりげない優しさを感じつつ、真一が戻るのを待つ。
本を数冊手に、戻ってきた真一は俺の目の前の席に腰を下ろした。
ずっと心の中に引っかかっていたことを、今なら聞けそうな気がする。
「ねぇ、真一は俺の何処に惚れたの?」
「確かになんでだろうな。あんなに嫌いだったのにな」
肘をついて俺を眺める。
「俺が無防備になれるのって、優達の前だけだったんだよ」
それじゃ答えにならないかといわれて、真一の言いたいことは解った。けれど……。
「無防備に慣れる相手なら、俺じゃなくたっていいって事でしょう?」
それこそ真一の事をよく理解している木邑君の方がお似合いじゃないか。
「駄目だ。樹じゃなければ駄目なんだ」
あの真一が必死だ。どうしよう、すごく嬉しい。喜びに身を震わせながらそのまま机に突っ伏せる。
「だからお前は俺の傍に居ろ。わかったな」
強引な物言いだが、俺の心は射抜かれた。
そっと顔をあげれば、真一の手が頬に触れる。そこに自分の手を重ねて、はいと頷いた。
「よし」
俺が真一の名を呼んだ時に見せた満足そうな笑み。また見ることが出来て嬉しい。
そうか、とっくに俺は毒されていたんだ。
これからも強引で俺様な彼に振り回される事になるだろう。だが、少し楽しみだと思える自分が居る。
「好き」
とつぶやいた俺の言葉に、当然だと真一が乱暴に髪を撫でた。
<了>
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