後輩の彼

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 澤木君はとても覚えるのが早くて優秀な子だった。  すぐに手順を覚えてしまったし、本の内容にも詳しいし暗記力もすごい。  良い子が入ってくれたのがすごく嬉しくて、調子に乗って馴れ馴れしい態度をとってしまった。それがいけなかったのだろう。 「話をしている暇があるなら片付けでもしてきてください」  大量の本を手渡される。しかも、冷たくそして威圧的な視線を向けられた。それが怖くてすぐさま本を片付けに行った。  その日からちょっとしたことで澤木君に睨まれるようになって、びくびくしていたら嫌味を言われる始末だ。  俺が相当嫌いなんだろうな。  そのせいか、委員の仕事がある度にこっそりと彼の顔色をうかがうようになり。話をしなくても何となく彼のことが解るようになってきた。  表情はいつも同じでわかりにくいのだが、今日は機嫌がいいなとか、ちょっと眠そうだなとか、疲れているのかなとか。  澤木君にそう話しかけたら睨まれそうなので、直接話しかける勇気はない。 「お疲れ様。缶コーヒー買ってきたんだ」  と皆に配って回ったり、 「本を探すついでに俺が片付けてくるよ」  返却済の本を持っていく。  でもやりすぎるとばれてしまい、迷惑だと言われかねないのでたまにするだけだ。  後は澤木君の視線に出来るだけ入らぬように委員の仕事が終わる17時までを過ごし、戸締りをして最後に図書室を出る。  他のメンバーには先に帰っていいよと言ってあるので帰りは一人だ。  それが図書委員のある週の俺の過ごし方となっていた。
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