後輩の彼

5/15
前へ
/19ページ
次へ
 そうやって、大好きな場所で気を使って過ごしているのだ。 「俺は、俺はっ!」  もう限界だ。  ぽろぽろと涙が零れ落ちて止まらない。 「加勢」  小崎が俺へとタオルを被せる。 「う、うう」 「ほら、涙を拭けよ」  肩を組むように腕を回し、タオルの端を掴んで涙を拭い取ってくれる。 「ごめん、泣くつもりじゃなかったのに」 「いいや。すまなかったな、真一がお前を泣かせるような真似をして」  静かな怒りを小崎から感じ、 「小崎、お願いだから澤木君には今日のことを言わないで」  これ以上、澤木君に嫌われたくない。その一心でお願いする。 「だめだ。お前を泣かせたんだぞ?」 「小崎、ありがとうね。でも、お願いだから」 「わかった。だが、この件に関して口を出さないのは今回だけだ」  解ったなと念をおされて俺は頷く。小崎って兄貴肌だよなぁと思いつつ。 「あのさ、なんで俺を嫌いじゃないと思ったの?」 「加勢は良い奴だし、傍にいると落ち着くしな」  だからだと言う小崎に納得できないという顔をすれば、タオル越しに頭を撫でられた。 「もし、辛いのなら俺がお前の代りに図書委員になるが」 「大丈夫だよ」  また辛くなったら話を聞いてよと言うと、いくらでも聞いてやると言ってくれた。  小崎の思いが嬉しかったから。だからもう少しだけ頑張ってみようと思った。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

189人が本棚に入れています
本棚に追加