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「なんでもなく、ないでしょう?」
顔を近づけられて威圧され、思わず後ろへ一歩下がり、
「えっと、あ、澤木君が居眠りしているなんて意外だなって思って」
と素直に言うと、怪訝そうな表情を浮かべる。
「嫌味ですか」
「違うよ。何となくなんだけど、澤木君って他人がいる所で居眠りなんてしないと思ってさ」
他の人に隙をみせるような真似をしなそうだと、これは前々から思っていた。
俺は澤木君の眼中にすら入らぬ存在だから気にせずに眠れたんだろうなとか、勝手に思って落ち込みそうになる。
眉間にしわを寄せて黙り込む澤木君に、俺なんかに言われて気分を害したのだと思い、
「ごめんね、変なことを言って」
仕事の続きを再開しようとカウンターへ向かおうとしたが、澤木君に手を掴まれてしまう。
「……なんでアンタなんか」
口調がぶっきらぼうなものとなり、そして強い視線を向けられて俺はビクッと肩を揺らす。
しかも腕をつかむ手に力が入り、ぎりぎりと締め付けられる。
「痛い、やめてっ」
怖いし痛いしで涙がたまる。それを見た澤木君が、目を見開きこちらを見た。
強く握りしめられていた腕の力が抜けてホッとした俺だが、すぐさまその腕を引かれて澤木君の腕の中へと納まる。
「え?」
一体、何がどうしてこうなったのだろう。
「澤木君」
困惑しながら澤木君の腕から逃れようとするけれど動けない。
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