秘宝伝説を追い求めて~オリヴェッティの奉げる詩~第1幕

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≪運命を預かった紡ぎ手は、朽ち掛けた夢を動かし廻らせる≫ 「え? あ……葬儀ですか?」 突然の話に驚いたライナは、寝るマリーを抱えて詳しい話を聞いた。 Kは、朝もまだ早い頃にライナを尋ねて宿に来たのだ。 実は、前日。 ライナを迎えに来たオリヴェッティは、ウィンツを迎えに来たKと鉢合わせしていた。 一応、Kにも宿の事を言って置いたオリヴェッティ。 それを覚えていたKは宿に、余計な説明を必要としないライナを頼った。 だが、その後…。 本来なら、これは意味が無い事だろう。 でも、死んだ人間より、生きた人間を考えるに…。 Kは、船へクラウザーも尋ねたのだ。 「クラウザー、先程にウォーラスが死んだ。 今から街外れで葬儀する。 来たけりゃ来い」 突然…。 それは突然すぎる訃報だった。 甲板の上でクラウザーがKに掴み掛かる、そんな姿を見たブライアンやカルロス。 普段のクラウザーでは、有り得ない姿だ。 ウォーラスが死んだと云う事で、何が起こったのか尋ねるクラウザーだったが…。 (ウォーラスは、ウィンツに思いを託せた。 アンタには託せ無い事だが、ウィンツには出来た。 兄弟子だったんだろう? 大っぴらに出来ない葬儀だが、静かに見送ってやってくれ) Kの囁きに、どうしようも出来なくなった気持ちだけが残り、膝を崩したクラウザーが甲板に居た。 さて、朝も大分に過ぎた頃。 街の中心では、今日にまた始まる劇を告げる花火が上がった。 まだこのバカ騒ぎも、数日と云う日数を残している。 天候の良さから、人々が昼を前に街中へと出始めていた。 そんな街中の喧騒が聞えてくるアハメイル北部の墓場。 人気の無いこの場所に何故か墓を用意してあるKで、棺と飾る花までが運ばれていた。 参列者は、クラウザーにウィンツと、それからウォーラスの従兄弟。 Kは、ウォーラスの着替えから全てを行い、棺に寝かせる。 レクイエムを歌い祈りを捧げるのは、マリーを近くに居るリュリュ達に預けたライナだ。 ウォーラスの遺体と直面したクラウザーは、噎び泣くままに涙を隠さず。 「・・・、ウィンツ。 お前ぇ、兄さんとなっ・何か・・話したの・かっ?」 「はい。 ウォーラスさんは最後まで、親方の事を頼ってました。 全てを親方に預けれた事も、罪など全てを引き受けた事も含め、自分に悔いは・・無い、と」 「あ・あにさん・・ゔぅぅ………」 クラウザーの口から、修行時代の頃の言葉が迸る。 棺に縋る様に身を崩すクラウザーに代わり、俯くウィンツの脇に来たのは、従兄弟の男性である。 60を過ぎた苦労人の様な顔で、涙の跡が残るままに。 「義兄(にい)さんから、鍵を預かったそうだね」  「はい。 朝方に…」 「そうか。 その鍵は・・・ウォーラス義兄さんがね、託す相手が居無いと…。 墓場まで持って行くしかないと言ってた、か・鍵だ。 今では病気を患い・・身体の悪い私では、その鍵で封された船は操れないと嘆いてた。 でも、クラウザーさんの弟子なら、貴方なら大丈夫だろう。 どうかっ、どうか・・義兄さんの代わりに、あのマピューラを復活させてくれっ」 「マピューラ? それは、あの・・・蒼い船体の船の事ですか?」 すると、棺に伏せて泣いていたクラウザーが顔を上げ。 「ウィンツっ! おっ、お・覚えとけ。 “マピューラ”ってのはぁ・・、在る場所の海で、満月が二重にもっ、三重にも・・映る現象だ。 海面に映る月が……海の青さを薄っすらと宿す。 あ、あにさんの一番好きな・・海の神秘ぞっ!!」 泣き声で教えてくれたクラウザーを見つめたウィンツは、再び鍵を握り締めて。 「はい。 心に刻みましたっ、親方」 ウォーラスの墓の管理は、従兄弟の男性とクラウザーが引き受けるという事に成った。 知り合いの多いクラウザーだ。 嘗てのウォーラスの部下だった船員にも、それなりに顔が利く。 それが一番いい事だろう。 多くの理由も聞かず、葬儀を取り仕切ってくれたライナ。 墓に納棺する前に、眠るウォーラスの死に顔を見て。 「とても・・安らかな御顔ですね」 と、だけ。 クラウザーは、葬儀を終えると従兄弟の男性と語り合い。 それから…。 「カラス。 年明けの後も、3日は逗留すると決まってる。 やるべき事がまだ在るなら、ウィンツを頼むぞ」 と、船に戻って行く。 その後、従兄弟の男性とも別れたK達。 思いの全てを最後に残した船が仕舞われた倉庫の鍵に託した、船長・航海士の異端児ウォーラス。 それを受け取ったウィンツは、鍵を見つめながらKに聞くのだった………その、意味を。 クラウザーと従兄弟の男性が墓場より去った。 墓の入り口の脇に広がった所には、溶けないままの雪が山に集められいる。 そこに立ち竦むウィンツは、預かった鍵を見て。 「なぁ・・どうしてウォーラスさんは、俺なんかにこの鍵を? 大事な、大事な・・船を預けてくれたのだろうか。 俺が、親方の弟子だからか? それとも、もっと大きな理由が在るのだろうか?」 と、Kに聞いた。 鍵をジッと見つめ続けるウィンツ。 そんな彼を、静かな眼差しで見つめるK。 クラウザーや手伝いの者を見送ったライナは、自分が此処にはもう不要だと理解し。 「ケイさん。 では、私はこれで。 マリーが心配なので、お先に皆様の所に行かせて頂きます」 そう言ったライナを見ずに、Kは頷き。 「ありがとう。 余計な詮索無くやってくれたから、滞りも無い。 本当に、助かった」 微笑むライナは、 「ま。 貴方からその様に丁寧なお礼が出るとは…。 少しだけ、助けられた借りを返せましたわね」 と、頭を下げて。 そして、墓地の外へと行く黒いバラを模ったアーチゲートを潜って行く。 さて、ライナが消えた後。 「………」 静けさで余計な者が居なくなったと察するKは、鍵を見続けるウィンツに。 「全てを語る時は、ウォーラスに無かったが…」 再び言葉を紡ぎ出す。 ウィンツは、Kに向く様に顔を起こす。 ウォーラスの意思を、少しでも多く知りたかったからだ。 腕組みしたKは、墓場の古い墓石などを眺めながら。 「ウォーラスの弟子にその船を預ける事は、現実の問題として様々な弊害を及ぼす。 船長、航海士として腕がとても良く、然もウォーラスと関係の薄い者。 そして、その鍵で封された船を預けるに足りる気持ちを持った男…。 それは、限られた出会いの中で、ウォーラスにはアンタしか居無かった訳だ」 「そ・そんなに・・・複雑な事情が?」 「あぁ」 「頼むっ、お・俺にも解る様に…」 ゆったりとした仕草でKは頷く。 二人は、墓の外側の遊歩道を歩く。 墓地の外周に植えられた樹木を巡る遊歩道だ。 道路は古いレンガを敷き詰めたもので、歩道の左右には木々が間隔を開けて植えられていた。 桜や、牡丹など様々な木々が、いまだに雪を被って歩道に並んでいた。 遊歩道を歩き始めたKは、雪に埋れかかった枯れ草と歩道の境を見下しながら。 「ウォーラスの家と、クラウザーの妻と成った女性の複雑な環境は、前に語ったよな?」 「あぁ」 「俺が事件の裏を暴く直前の事だ。 その頃のウォーラスは、大変な量の運航船を扱ってた。 恐らく、普通の船の倍の量が課せられていただろうか…。 ん、そう思ってくれていい」 「なんでまた、そんな量が?」 「実は、クラウザーの妻の実家である商家と、ウォーラスの実家の商家が統合を画策し始めていた。 より、効率的に。 より、一括した手広い商売。 要は、勢力拡大戦争みたいなものだ」 「では・・その両方が、ウォーラスさんを頼っていたのか?」 「そう。 仕事の過多で金は入る。 だが、金で新たに船を増やせど、厳しく過大な運行量により、船を任せるだけの腕前を持った船長を育てると云うか、後輩指導が行き詰まっていたみたいだ」 そこだけ聞いただけで、ウィンツにはそれが見えるかの様に解る。 幾ら仕事を覚えても、有能だからと一気に船長・・とは行かないのだ。 登録とか、そうゆう決まり事だけでは無く。 船長として行う仕来りも有るし、付き合う関係に顔見せの様な事も有る。 見切り発進の様ないい加減な判断では、それこそ、自分の様な者を増やすだけだ。 船長として船を預かると云う事は、動かす全てを半独立した立場で行う事なのだ。 更に、船を多く持てば持つほどに、その運行から管理も忙しく成る。 それを束ねる船団長ともなれば、船長として自他共に認めれるだけの見極めも無いままに、忙しいからと誰かに船長を遣らすなど行く訳も無い。 次々と船を出して輸送を行わなければ成らないウォーラスは、相当に神経を使った筈だろう。 Kの続ける話は、ウィンツの推察を裏付けしていた。 「アンタなら、その意味が解るだろう? 何せ、間違いが許されない日々の連続で、ウォーラス自身が精神的に追い詰められたんだろう。 酒の量も増えたらしいし、船員に必要以上の大声を上げる事も珍しく無かった…。 処が、逆に仕事を頼む双方の商家は、ウォーラスを自分の勢力下に取り込み。 そして、相手の足を奪おうとする根回しなども、その頃にし始めていたらしい」 「なんて事だ。 それではっ、ウォーラスさんは・・ますます板挟みじゃないかっ?」 「その通り。 俺が事を暴いて、両方の商家はバラバラに成った。 ウォーラスは、本音で清々した部分も在ったらしい。 開放と云えば、確かにされた形だからな」 「なんて事だ、くっ………」 思いを偲ばせるウィンツは、なんとなくその意味が解る気がした。 だが、納得が行くと云うよりは、何とも気の重い事だと思える。 Kは、ウィンツの持つ鍵を見て。 「アンタの預かった船は、ウォーラス本人が操っていた船だ。 それが故に、もし・・ウォーラスの直属の弟子だった誰かがその船に乗る事になれば。 事件前からの誼を伝に、事件でバラバラに成った商家の連中が言い寄って来るとも限らない。 ・・だろう?」 「確かに…」 「ウォーラスが一手に引き受けていた取引先を突っぱねる事は、ウォーラスの弟子にすれば不義と罵られても仕方ない。 ウォーラスの弟子で、それを上手くあやし切って船を動かせるヤツが…ま、見当たらなかった。 それが、大きな理由の一つ」 「ん、なるほど。 ウォーラスさんも、それは悩むな」 Kは、ウォーラスの身に成った様子で悩むウィンツを見て。 「でも、他にも理由が在るんだ」 「え? あ・・他にも理由がか?」 「あぁ。 まぁ、これはウォーラスの個人的な感情だが。 ウォーラスは、自分の師匠に言われてた。 “困ったら、クラウザーを頼れ”、と」 「あっ、それは…。 でも、それが理由なのか?」 ウィンツに、緩く笑むK。 ウィンツは、その笑みが解らなかったが…。 「アンタは、クラウザーの弟子だ。 壊れていても自分の船をクラウザーに預けるのは、過去の色々な事や、自分の嘗ての弟子が居る手前にも難しい。 だが、その弟子で無名のアンタなら、気兼ね無く頼れて納得が出来る。 自分が負けを認めた男の、優秀な弟子…。 遠回りにウォーラスは、師匠の教え通りにクラウザーを頼ったんだよ。 アンタは、今朝に死んだウォーラスから見ても、クラウザーに似た腕の在る船長って事よ」 そう言われたウィンツは、気恥ずかしさと共に、ウォーラスの気持ちを汲み取る思いから心が揺さぶられて俯き。 「かっ、からかうなよ。 俺は、そこまでは………」 Kは、更にからかう様に。 「んなら、鍵を捨てるか?」 と、投げ掛ければ。 ウィンツは、思わずパッと顔を上げ。 「誰がっ」 その怒った顔を見ると、Kは笑って。 「はは。 多分、捨てたらアンタはクラウザーにぶちのめされるゼ」 どこまでも気持ちを見透かされたウィンツは、やや不貞腐れた様に後頭部を掻く。 そして、鍵を見ると。 「とにかく、船を直す金を作らないとな」 此処で、大きく一つ頷いてKは立ち止まり。 「なら、作りに行こう。 疾風船マピューラ復活の選別ぐらい、俺がくれてやるさ」 簡単に言ったKだが。 同じく立ち止まるウィンツは、Kにムズムズと歪む不安な顔を向けて。 「おいおい、簡単に言うなよ。 あの船は、今でも最も高価な魔力高速船だぞ? 壊れた修理費を軽く見積もっても・・そう、100万シフォンは必要だ。 そんな金、何処に有る? 幾らアンタでも、数日で作れる訳が無いだろう?」 100万シフォンとは、凄い大金だ。 確かに、余程の金持ちでも無いなら、そんな金など持ち合わせる訳が無い。 処が…。 ニヒルな笑みを口元に浮かべるK。 「だから、俺に付き合え。 金ってのは、有る所には有るモンなんだよ」 ウィンツは、そんな金をKでも即座用意など出来るとは思わなかった。 (ウソだろ?) それしか、頭に浮かばなかった。        ★  昼。 またKと合流したオリヴェッティ達。 甘い物を食べさせる店に、全員が集まっていた。 「ひゃ・ひゃひゃひゃ・・・100・ひゃ・100………」 “100万シフォンを作りに行く” と聞き、ビハインツは気絶しかけて目を回していた。 そんなビハインツをツンツンするリュリュ。 そんな2人に代わって。 席に座り、甘いタルトとアップルティーの湯気を見るルヴィアは、大きなため息を出してから。 「…、で? 一体、何をして金を作るのだ。 100万など、簡単に作れる額とは思えないが?」 するとKは、腰のサイドパックを指差し。 「ホレ、このメダリオンと宝剣が在るだろうがよ」 ハッとするオリヴェッティは、吹き出しそうになった紅茶のカップを口から離し。 「あ・あの・・幽霊船で見つけたガラッドですか?」 「そうだ~。 あのメダリオンは、フツーの物じゃ~無いって言ったはずだ。 この街ぐらいのオークションに出せば、その存在価値や歴史的な価値を理解したアホウが居るからなぁ~。 恐らく、100万を軽く超えて来る可能性も・・在る」 と、紅茶に手を伸ばす。 Kの口から途轍もない額が軽く出たと思うウィンツは、首を捻りながら。 「そんなに凄いものだったのか…。 だが、そう上手く交渉が行くか?」 紅茶を軽く含んだKは、カップを置きながら。 「その筋に偉いマジなコレクターを知ってる。 そいつに、これから持っていこうと思う」 マリーを抱えるライナは、Kの人脈の広さに目を丸くしながら。 「その方は、そんなにお金持ちなのですか?」 「あぁ。 マジで、ふざけてるぐらいに金を持ってる。 何せこの街で、貴族や商人だけに開放する会員制の個人オークションを主催するプラーノだからな」 聞いた事の無い言葉にビハインツは、ルヴィアに声を小さくし。 (な、プラーノって・・何だ?) ルヴィアは、“そんな事も知らないのか”、と云う顔をビハインツに向けると。 同じく興味津々と云った顔のリュリュが居て、仕方ないと思いながら。 「オホン。 “プラーノ”とは、大っぴらに誰でもに物を売る者とは違う売り手の事だ。 特に、オークションや高級品などのみを扱うと云った感じで、限られた会員制商売をする秘密商人を指す。 ま、中には、小口の商人や仲買の上に立つ大商人も、そう自称する輩が居るがな」 ケーキを食べたKは、ルヴィアを指差し同意を示し。 紅茶でケーキを流した後に、話の後を繋ぐ様に。 「・・その通り。 他には、個別に特別注文を受けての個人取引をする商人も指す」 聞いていたウィンツは、なんとか理解の出来る範囲で情報を纏め。 「では、つまりは・・オークションを主催する商人に、そのガラッドを売り込もうと云う訳か」 「そうだ」 だが、ルヴィアは難しい顔をして。 「だが、知り合いと云う御主は、その商人と面識以上の付き合いでも在るのか? それだけの商人ならば、警備に当たる門番から用人や護衛する剣士なども多いだろうに。 真っ向正面から出向いて、面通しして貰えるのか?」 Kは、ルヴィアの意見などクソ喰らえとばかりに。 「さぁ~、本人とは結構な面識あるが…。 まぁ、咎められたり、面会拒否喰らうなら、ウゼーの蹴散らせばイイ話しだと思う」 と、またケーキを食べる。 リュリュを除く全員は、 “正面から強行突破もします” と、云ってるも同じKの言動に青褪めた。 面白そうと喜ぶリュリュは、Kにズイっと近寄って。 「ねねっ! それって、パァ~っと行くって事でしょっ?!!」 と、両手を大きく開く。 Kは、然したる事でも無いと云った感じで。 「うむ」 「わぁ~い、突っ込もう~」 喜ぶリュリュに、事態の危うさを直感したルヴィアが。 「意味が違うっ、何をする気だっ?!」 それに対して、やや安穏とした様子のK。 「大丈夫だろ。 どうせ、悪い事する訳じゃねぇ~し、盗みや奪いに行く訳でもねぇ~しさ」 そんないい加減なKの言い草を見たオリヴェッティは、背筋がガクガクと震える。 (あっ、あぁ……怖い。 貴方が強引に出向いて商談などっ。 この世で一番悪質な押し売りだと思いますわ………) そんな皆の驚きや脅えなど知らん顔のKは、紅茶を残すのみとなり。 窓で仕切られた外の大通りを見て。 「つ~か、売り込む相手は、ウォルターのアホゥだぜ。 業つく学者な貴族野郎ってだけで、大して凄いヤツでも無いぞ」 と、ぞんざいに言うのだが………。 相手の名前を聞いて、オリヴェッティは直に目を丸くして。 「え゛っ?!! た・尋ねるって・・ウ・ウウ、ウォルター・・アイゼンハワード・バスチューナ様なんですのっ?!!!!!」 と、思わずの大声。 仲間の皆や客の視線を向けられオリヴェッティは、“あ゛っ”っと思わず自分の口を手で塞いだ。 だが、オリヴェッティの驚きも、彼を知るならば頷ける。 ウォルター・アイゼンハワード・バスチューナ。 齢12歳で当主となった侯爵で、その若き頃の芸術的な才能は、紛れも無い天才と謳われた。 演劇・歌劇・指揮者に、リュートやピアノ演奏者・画家等等。 その才能の美的感覚は、更に食にも通じるとか。 20歳で、初の大掛かりな大舞台の全てを取り仕切り、〔マスター・ウォルター〕=“完璧なウォルター”と絶賛されたのである。 そんな彼は、30歳を過ぎてから美術品などの収集家としても頭角を現し。 金を集める為にオークションを主催する事にしたのだ。 だが、その目利きの鋭敏さから、数々の贋作を見破り。 贋作を売りまわる悪党組織から命を狙われた経緯も持つ。 オリヴェッティにウォルターの説明を受けたルヴィアは、Kにやや身を乗り出し。 「名前だけは聞いた事の在る人物だが。 そのウォルター殿とは、お幾つほどに成るのだ?」 「さぁ~。 70はとっくに過ぎたジジィだぜ。 ま、見た目は50過ぎにしか見えないだろうがなぁ~。 野郎のカリスマ性には、未だに美女が吸い寄せられるとか…。 愛人の数、幾ら居るか解らんね。 それこそ一夜を共にした女の数ならば、キラ星と言ってもいいんじゃないか?」 何でそんなウラ話まで知っているのか、ルヴィアが気に成る。 「随分とウラ事情に詳しいな。 一体、どうゆう関係なんだ?」 すると、 「フッ、気にするな」 Kのお得意が出た。        ★ と、云う訳で。 Kを先頭に、一同は大きな屋敷の正門前に来た。 貴族や商人の一部のみが住み暮らせる場所で、上流階級や成功者のみが犇く区域の一等地である。 「なんとっ! お・大き過ぎるだろうが……」 頭を抑えて言ったルヴィア。 その左右に見渡す限りに続くスカイブルーの外壁をした建物を見て、自分の育った立派な屋敷が掘っ立て小屋に思えた。 腕組みし、屋敷を見回すKは。 「ったく、金が有るよなぁ~。 毎度見ても、この屋敷のデカさはアホらしい。 人一人が住むのに、このデカさが必要か?」 Kの脇に居るリュリュは、もうやる気十分で。 風のオーラを仄かに漲らせるままに。 「ケイさんっ、蹴散らすってこのオウチっ?!!」 慌てたオリヴェッティは、リュリュに抱き付き。 「ち・違うのよ。 蹴散らすのは、オウチじゃないのよ。 はいはい、落ち着きましょうね」 ライナは、自分を拉致したジョンソンを思い出す様で。 「大きな家って、何だか嫌ですわね」 と、マリーをあやす。 ビハインツとウィンツは、似たり寄ったりに固まって突っ立つのみ。 (な・なぁ。 アンタ、100万できると思う・・か?) と、ウィンツがビハインツに云えば。 (わかっ、俺に解る訳無いだろうだがっ! 中に入るのも無理・・・の様な………) 屋敷を囲む外壁。 レンガ造りの低めな壁の上に、鉄格子調の槍を模った格子壁が積み上げられている様で。 レンガの壁から、更に人の高さを優に超えて伸びている。 雪が敷地内に敷き詰まり、外壁の縁に寄せられた雪が残るのが見える景観は、決して悪く無いのだが。 先ずは、と。 立派な屋敷を見学していると…。 覗いているのを気付かれたのか、屋敷の玄関が開き。 黒く正装した格好ながら、腰にサーベルを帯刀する大男が出て来た。 ビハインツよりも頭半分高く、逞しい肉体は、鎧を下に着込んでいるのではないかと思う程。 鍛え上げられた胸板の厚さは、圧巻と云うか流石である。 その後、背の低い背むした小男も出てくる。 「出て来た」 小声でルヴィアが云うと。 「お前達、何者だ?」 先ずは、お決まりの様な文句が聞え。 先に遣って来た大男が、門越しの向かいに対峙した。 Kは、物怖じをする気配も無く。 何処か謙っている様子も見せず。 「昔、“P”(パーフェクト)と名乗ってた男が来た、とウォルターに伝えて欲しい。 用件は、古いガラッドの買取を申し入れたい、とな」 大男は、ぞんざいな態度をする如何にも怪しい人物丸出しのKを睨み、ムッとした顔色に変わりながら。 「貴様、我が主を呼び捨てにするのか? 我が主は、この王国でも侯爵に在らせられる名家。 呼び捨てとは、無礼であろうがっ」 然し、大男の背後に来た背むしの小男は、Kを見て目を細めると…。 「ロズウェル、この男達を通せ。 その包帯を顔に巻いた男は、数年前に主を救った恩人ぞ」 威勢良く捲くし立て様としていた大男のロズウェルは、罵声を吐き出し掛けたままに固まった。 Kは、背むした小男に。 「トライド・・だったか? あの時以来、身体に変わり無いみたいだな」 シルクハットを被り、タキシードの正装した小男なれど。 髪は白く、鼻は潰れ、そして皺くちゃの肌。 どう見ても老人である。 ロズウェルと呼んだ大男の前に出る背むし男トライドは、格子門の鍵を外しながら。 「お恥ずかしい話しですが、あのままウォルター様に雇われましてな。 それ以来、この通り元気に………」 「ははっ。 ウォルターの命を狙ったアンタでも、義理人情は理解出来るってか? だから、前に言ったろう? ウォルターは、暗殺するに意味の有る人間じゃないってな」 執事か召使の様なトライドとKの会話に。 「え゛っ?!!!!!」 真っ先に驚きの声を上げたのは、大男のロズウェル。 だが、トライドと云う小男は、深く頭を下げ。 「御仕えいたしまして、その意味が解りましたよ。 ささ、中へ。 ウォルター様を特別扱いしない稀少な気狂いは、貴方ぐらいですからな」 開かれた門に進み出すKは、然して怒る様子も無く。 「言われたな、コイツは」 先に行くKとトライド。 その二人を見て、どうしていいものか解らぬままに立ち竦む一同。 Kが離れたので。 ルヴィアは、大男のロズウェルに。 「我々も・・入って良いのか?」 ポカ~ンとするロズウェルは、カクンと頷くのみだった………。 Kを先頭にしてその素晴らしい豪邸たる中のエントランスを見ただけで、ビハインツは気絶しかけた。 青を基調に、白を使って明るさを辺りに届ける石の柱、壁、天井と。 また、吹き抜けたロビーの上は、5階かそれ以上に突き抜けた開放感が望め。 床に描かれた絵は、泉や緑栄える森に戯れる天女や妖精達。 見た事も無い世界が広がって居る様で、理解が付いて行かない。 ロビーだけで、ひっそりとした屋敷一つが入ってしまいそうな広さが在り。 その左右の部屋に向かう扉は、水や氷を表す絵を描いた見事なもの。 扉を開いた次の部屋は、一体どうなっているのか・・。 初めて見る者には、胸高鳴る期待感すら思わせる。 「す・すげぇ…」 呻く様に言ったウィンツも、自分の価値感覚が崩壊しそうな趣を見て、もう只々に圧巻としか思えなかった。 さて、ロビーで内部を鑑賞しながら待つK達に。 「おぉっ、其処に居るのはっ!!」 と、低音な男性の声が聞えた。 その声はやや老いが含まれる様だったが。 響き、発声、アクセントのどれを取っても、思わず相手を見てしまいたく成ると云うか。 劇場で役者が言う台詞の様な感じがした。 声を辿る様に、ロビー奥の優雅な螺旋大階段を見る一同。 丁度、踊り場がロビーと対面で作られている場に、何者かが居た。 Kは、遠くに見える人物に向け。 「ウォルター、俺にそんな出迎え必要か?」 階段を降り始めたのは、白い正装に身を包む男性で。 「ははは、君は私の恩人だっ。 そして・・、ん~最大のライバルでもある。 その神々しい強さ、その水鏡の如き聡明で鋭敏な感性。 女性に数々愛されたカリスマ性に、冷たき凍るその気持ち。 そう、私がっ、例えるに芸術や美術的な神に近き者とするなら。 君は、戦う、流離う・・修羅・悪魔に近き神の様な男だっ! フフフ…。 君の顔を見る度に、私は常に驚かされる。 さあっ、今日は、私をどう驚かすのだっ?!」 喋りながらKの目の前に来たその人物を見るほかの一同は、70を過ぎた人物とは思えなかった。 白粉を塗ったような白くさめざめしい肌、気位が高く聳えていそうな気性を思わせる高い鼻、後ろに流す髪は真っ白の白髪なれど。 そのエメラルドの光を宿す瞳は、鋭敏な感性が溢れる様な、まだ鬼気迫る生気を宿していた。 斜めに上がった芸術的な目と眉、体型の崩れ一つ窺わせない身体。 ある意味、完成された彫像の様な人物が其処に居た。 Kは、一枚のガラッドを取り出し。 「大した事をしに来た訳じゃないさ。 アンタの身銭を奪う為に、コイツを見せびらかしに来た」 と、ガラッド硬貨を差し出すのである。 高い位以上に、天才と誉め称えられた貴族ウォルターは、そのガラッドを見て。 「ぬっ! ぬぬっ!!」 と、二段階に分けて踏み込み。 「おぉっ…、まさかこれはっ!」 派手な驚きと声を発しながら、Kの手からガラッドを受け取った。 金を基本に、純度の高い銀を隙間に鏤める様にして土台を形成し。 表に、魔法を扱う魔術師の勇姿を描き。 裏には、王国の紋章を元にした絵が描かれている。 魔術師の杖、服、帽子には宝石が使われ。 魔法の描きも、宝石で出来ている。 然も、裏の王家を示す絵にも、ふんだんに宝石が鏤められている。 「ウォルター。 これが何か、アンタなら解るよな?」 震える手つきでガラッドを見つめる初老姿の貴族ウォルターは、突然に横に向いて頭を抱える仕草を見せ。 「あぁっ、解るともっ!! 我が、同朋よっ。 これは・・幻の逸品と云って良いっ。 超魔法時代に作られた、我が国のキ・ネ・ンっ、硬貨だっ!」 一人で興奮したウォルターは、突然に劇場で演技をする様に体を動かし、ポーズを決める。 “キ・ネ・ン”の所は、指揮者がタクトを振る様な感じさえ見せた。 それを真似するリュリュは、 「この人おもしろ~い」 と、大喜び。 ウォルターに微妙な視線を送るオリヴェッティは、リュリュを捕まえて。 (ダメでしょ、変な人の真似をしちゃいけません) そのウォルターの様子に、何か気狂い染みたものを感じるルヴィアは、Kの脇に寄り。 (この御仁、あ・頭の具合でも悪いのではないか?) と、小声で言うと・・。 バッとルヴィアを見たウォルターは、ズンズンと踏み込みながら指を振り込む様に何度も向け。 「見た目の良さに関わらずっ、何たる口の悪さっ! 怪しからんっ、礼儀が成って無いっ、それが貴族の振る舞いかっ?!」 と、来たかと思いきや・・突然、紳士的に一礼をして。 「フンっ。 無礼者にでも、礼儀を弁えるのが真の貴族だっ」 と、様を見せ付ける。 Kは、見慣れても呆れる余りに。 「お前の劇場人生は、他人から見たら気狂いだって~の。 それより、フラストマドの硬貨がソレ。 後、マーケット・ハーナスのも有る。 それと、ホーチト王国の昔の王家筋の護身短剣が一振り。 3点で、まぁ100万は欲しい。 お前で出せないなら…」 と、Kが言うのに対し、ウォルターは“喋るなっ!!!”とばかりに、右手を翳した。 「よい、それで買おうっ。 だが買う前に、入手の経緯を述べよ。 これほどの品だっ、さも、さもっ、苦しき冒険の果てに手に入れたのだろうっ!! 我は、その・・その冒険譚が記憶に欲しいのだっ」 何処までも劇を演じる役者の様な動きで、会話を言うウォルター。 リュリュは、その真似が面白くて止められない。 ライナも、リュリュの動きに微笑むマリーを見て。 「あら、マリーも笑ってるわ…」 脇目でその様子を見ていたウォルターは、素早いターンでマリーに顔を向けると。 「あ、赤子・・だと? 冒険に、この様に未熟な赤子っ!! あぁっ、未熟でっ、幼稚なっ、赤子だとっ?!!」 と、大げさに驚く。 だが、Kは全く気にせずに。 「ウォルター。 話を聞きたいなら、何処かの部屋に案内しろよ。 それから赤子ってのは、考え様によれば最も神に近い存在だ。 俺達の様に、薄汚れちゃいないぜ」 「なぬっ?! こっ・このっ!! この赤子がぁっ?!!」 「お前もいっぺんぐらいは、認知でもして子育てでもしてみろよ。 純真無垢で、穢れを知らない頃の赤子は、女を強く変える要素を持つ。 男など、女を支えきれないなら只のお下がりだ。 お前が吐き捨てた女も、中には子供で立ち直ったのも居ただろう?」 「ぐっ、ぬぅぅ………」 「生命の世代を次に繋ぐのは、命だけさ。 その大切な命が、まさに赤子。 ウォルター。 命を育てる苦労でもすれば、今まで見捨てていた演目も演じられるんと違うか?」 カリスマ性高きウォルターは、Kから思いもせぬ言葉を投げられて静止した。 顔に包帯を巻いてからのKと深く語り合った事が無かったのだ。 彼の目から見ても、Kが変わったと思えた。       ★ 応接室に通された一同。 何処の大ホールかと思える広さは、もう想像の届く所では無かった。 紅茶を飲むKは、壁画が描かれる天井や絵ばかりの壁を見て。 「このムダ屋敷、貴族や商人相手の宿にし腐ったら、結構儲かるんと違うか? まぁ~ったく、無駄、無駄、無駄の限りだな」 と、平気で云う。 その時。 奥の扉を開いて遣って来たウォルターが、K達の居るソファーに辿り着くまでに少々の時を要した。 それ程に、この部屋の横は長かった。 「よしっ。 では、聞こうか!」 手を何故か意味深に仰ぎ上げるウォルター。 リュリュは面白がって真似するし、マリーは少し笑う。 もう慣れたとばかりに薄目を向けるKは、ウォルターに向かって。 「ウォルター、時間を取らせるのは構わないが。 夜まで世話しろよな」 すると、鋭い目をKにギラリと向けたウォルターは、当然とばかりに。 「フンっ、そうなるなら、当然だ。 そのぐらい、赤子の分まで含めて面倒を見るっ。 それより、経緯を話せっ」 全く老人っぽく無いウォルターに、だんだん慣れて来たビハインツは。 (世界で稀に見る狂人かもな…) と、思う様になり始めた。 話始めたKは、幽霊船の話しのみならず、オリヴェッティの追い掛ける秘宝の事まで語ってやる。 優雅に足組みし、やや斜に構えた態度で聞くウォルターは、実に静かなままに話を聞いた。 そして、話が終り。 紅茶を啜るままに余韻に浸ったと思いきや…。 「先ず、何よりも素晴らしきっ。 出会いっ、冒険っ、人の織り成す人生っ。 全て、全てだっ!! 嗚呼、全てに於いて、同朋よ。 君は、エクセレンッテッ!!!」 丸で、指揮者がタクトを振り上げる仕草をしながら喋るウォルター。 真似るリュリュは、何度も繰り返し。 オリヴェッティとルヴィアに止められていた。 だが、一方のウォルターは、もう自分の世界に入っていて。 「嗚呼…秘宝を探すっ。 何たる壮大なロマンだっ!! 海旅族は、古代史に残る反逆の海賊とも謳われる。 だがっ、各地に残るはっ、その彼等の崇めた神々の遺跡を壊してまたっ、新たな国家の同じ神々の遺跡を造ると言う矛盾っ!! 東の大陸に見られる古い遺跡の数々を見るに……。 一国の主張する事が正史と成るのは、強者の歴史が正しいと言う歴史の一面を窺う行為に過ぎん。 一つの手掛かり、一つの真実は、歴史を覆すかも知れない。 是非、是非に終わったら、私に旅の経緯をお聞かせ願いたい。 旅の成否に限らずだっ」 と、鋭い仕草でオリヴェッティを指差した。 「え?」 オリヴェッティは、突然に言われて驚く。 「あ・あのっ、ケッ・ケイさん?」 どうして良いか解らず、反射的にKを頼る様に見るオリヴェッティだが…。 「イイんじゃねぇ~の? コイツは金と暇を持て余してるし。 高い御代でも貰って、長々と聞かせたれよ」 その少し気の無い言い方は、何ともいい加減なもの。 「は・はぁ…」 判断が出来ないオリヴェッティは、コレしか言葉が出せなかった。 するとウォルターは、Kに手を差し伸べる様にして。 「然し、なによりも貴様だっ。 あの恐ろしき幽霊船を壊滅させ、その中に在った宝を持ち帰るっ!! 今、この世界に居る冒険者達でも、同朋よっ。 貴様と同じ事の出来る者は少ない。 ん~、限りなく、少ないっ。 また極悪人を始末し、こんなにも多くの人生を光へ導くとは……。 嗚呼、全く、全くっ」 感動しているのか、目頭を押さえて俯くウォルターは、何とも見ていて面倒な人である。 しれ~っと紅茶を飲むKは、カップを差し出し。 「それよりよ、お前。 一つまみ数百シフォンする紅茶を、此処で俺達に出すか? そんなに金が余って暇なら、冒険者にでも成れよ。 お前、カクトノーズで魔法の修行もしたんだろう? 魔想魔術と、“異端”使えるんだしさ」 その話に、ウォルターは即座に反応し。 「おーっ、貴様と云う男はっ!」 凄い高額な紅茶を飲んでいる事に驚く一同は、Kの言い方にウォルターが怒ったと思う。 処が、Kに伸縮可能な杖を伸ばし、ズィっと先を向けるウォルターは、ズバリと。 「其処だっ!!! 其処が、貴様は他と違うっ。 他の者なら、私の才能に敬意を払い、そんな事は言わないっ!! 冒険者っ、はっ! この私がっ、70を超えて今にっ?!!! よし、それも良かろうっ!! ならっ、明日に斡旋所に行こうではないかっ!」 一気にとんでもない話に飛び火し、大慌てで一同が混乱。 「おいおいっ、話がどうなってるっ?!!」 と、ウィンツは驚き。 「いえっ、そっ・そそ・・そんな滅相なっ?!!」 「真に受けるのは止めてくれっ!!」 と、慌てるオリヴェッティとルヴィア。 やんや、やんやと嬉しそうなのは、リュリュとキャッキ笑うマリーのみ。 さて、生来の気質か、人の話など聞いちゃ居無い様子のウォルターは、今度はウィンツを睨む様に見返し。 「それにしても、あのウォーラス殿から鍵をっ? その手に託される者が、この私の前に金を求めに来るとはなっ! フン、実に愉快、真に愉快っ。 100万など、ガラッド二つ交換でくれてやるわっ」 このウォルターの態度に、今度はKやリュリュ以外の皆が時を止めた。 Kは、事情を全て知るだけに。 「そういや……。 アンタは、どっちとも知り合いだったな。 クラウザーとも、ウォーラスとも」 初めて聞く話に、2人を交互に見るウィンツ。 ウォルターは、天井の壁画を見上げ。 「そうさっ。 私は、2人の師であるサミュエル船長と昵懇の仲だった…。 嗚呼、我は・・若くして姿を隠しっ、魔法学院へ入学し。 また時には姿を隠しっ、別国の姫君との恋愛っ!! ん~~私の青春の忍び旅は、あの船長によって成し得たと言って良かった。 そう、良かった…」 最後に何処か、沁々と偲ぶ様子を窺わせるウォルター。 ウィンツは、朝のウォーラスを思い出し。 「貴方は、俺の親方やウォーラスさんとも?」 「そうだ。 その大きく広き心…。 クラウザーとはっ、称してその通りの海の様な、山の様な男よっ。 代わって、その突き進む気持ちっ、時代を切り開く行動が風の如きウォーラスっ!。 二人は、確かに一時代の海に似合う男だったっ!!」 此処でウォルターは、素早く指先をウィンツに差し向け。 突く様に何度も指し示し。 「その2人が認めた君っ!!! 金は遣るが、名を汚すなよ? 良いな、良いなっ?!」 その最後の言い方は、貴族のソレそのままであり。 脅迫と云うか、何処か強く約束を申し付ける、そう思わせる言い方だった。 「はい。 肝に……」 一礼をしたウィンツは、これまでの自分が狭い世界で動いていた事を見せられる様だった。 確かに、これ以上自分を粗末には出来ない気がした。 そんな様子を見せられるルヴィアやオリヴェッティは、ウォルターと云う人物が。 “只の狂ったジサマ” では無いと解る。 (変わった老人だな、オリヴェッティ) (えぇ。 でも、仲間になんて…。 嗚呼、どうしたら良いか解りませんわ) (嫌なのか?) (ルヴィアさんっ。 リーダーは、私なんですよっ?!) (フッ。 ケイ殿が居るチームだ。 それぐらいの苦労は、必要であろうに?) (んっ、もうっ。 からかわないで下さいませ…) オリヴェッティは、ルヴィアにまでからかわれて困る。 ウォルターの様な人物が加わってしまったら、自分はどうしたらいいか更に困るのは明らか。 リュリュだけでも大変なのに、クラウザーに加えてウォルターなど居たら・・と思うと。 もう想像を絶してしまう。 一方のルヴィアは、困るオリヴェッティを見て微笑んだ。 予測の付かない今が、他では味わえない特別な今の様な気がしたからだ。 ビハインツは、紅茶を遠慮する事も恐れ多いし、飲み切るのも勿体無い気がして、カップを持ったままに思案のしっ放し。 ウォルターの真似をして喜ぶリュリュと、それを微笑み見るライナや笑うマリー。 どうやら、動き出す冒険の船に乗る面子が決まりつつ在った。 さて、然し。 冒険とは予測の付かないドラマの連続である。 然も、最強のトラブルメイカーにして、処理者のKを伴い。 オリヴェッティの旅は、一体どうなるのだろうか。 明日の風は、どう吹くのだろうか………。 オリヴェッティの奉げる詩~第1幕=完=
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