特別番外編 「魔剣を捨てた者 それを拾う者」

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特別番外編 「魔剣を捨てた者 それを拾う者」

   プロローグ 北の国の山に囲まれた平野を抜ける、或る街道。 ついひと月ほど前は、この左右に壁を築かせ、大地を白一色に染め上げていた雪。 然し、それが溶けた。 今は、春の風が北の大陸を吹き抜ける。 春を迎え、様々な草花が息を吹き返し。 街道を往来する馬車の移動が心無しか勢い良く見え。 旅する冒険者や旅人も、厳冬を越して装いも薄く為っていた。 「お、珍しい蝶だなぁ」 「キレイな蝶々ぉーっ」 若い冒険者達の一団が、花も咲く草原をヒラヒラと舞っている紅い蝶を見て。 春の訪れを感じ、会話を弾ませている。 春は、人に気分の解放を齎す時期でも在るのだろう。 そんな、四方に山が見えるこの街道。 道端には、春の草花が咲き誇り。 遠目には、山を覆う新緑が栄え。 更に、遠くの山を眺めれば、残雪が山の中ほどまで見えている。 また、間近に見える花へ、生命を謳歌するように虫達が集まり。 山や森の中には、桜や遅咲きの桃などが花を咲かせる。 春の色とは、こうゆう景色そのものを云うのだろう。 処が、だ。 そんな生命の息吹が溢れる世界の中を、似つかわしくない人物が歩いていた。 包帯を顔に撒き、悪魔の如く漆黒の黒づくめな服装をした男で有る。 髪まで深く底無しの様に黒い。 その男は、何故か。 これから立ち寄る山間都市の方を見て、ピタリと立ち止まったのである。 その時。 「………」 一陣の強い春風が吹き付けて来た。 襟を立てた長いコートをその風にはためかせながら、包帯顔の男は徐に空を見た。 (誰だ? 奴を俺に近付けるのは?) その目は、鋭く。 天高く輝く日輪すら、射抜く強さが在った…。  【壱・カタナを負う者】 北の大陸の真ん中辺りに在るホーチト王国と、世界最大の領土を持つフラストマド大王国。 隣国同士となる両国の国境を、のらくらと走る大街道が在る。 ある程度北上した所で、その道は二手に別れ。 どちらもスタムスト自治国の大都市へ向かう。 その分岐点とは、山岳の少ない平野に作られた衛星都市〔アジュ・ソヤナ〕の街中で別れるのだ。 そのアジュ・ソナヤの街に、内陸の農村などを抜けて来る街道から辿り着く男が居た。 見た目は、全身黒。 だがよく見れば、深い藍色の上半身鎧を着て、全身をプロテクターなどで武装している冒険者風体の男だ。 長い髪を無造作に束ねては、背中に流し。 傷んだマントが、何気に似合う。 更に。 日に焼けた肌、精悍な顔付き。 無駄の無い動きに、視線の使い方…。 それなりに実力の解る者が観るならば、一目で剣術か何かに秀でる人物と見て取れる。 只…。 だが、普通の冒険者ならば、然して珍しいと云う事も無い。 処が、その黒尽めと成る人物は、歩いているだけなのに、何故か他人の眼を惹く。 その理由は、どうやら背中に背負う黒塗りの剣が原因の様な…。 背負う剣とは別に、造りの良い白い柄の長剣が腰に佩かれているのに。 その男は、何故かやや弓形に反る剣を背中に背負う。 そして、アジュ・ソナヤの街へと入る南西側の門を潜ったその男。 その男を後ろから見た、別の冒険者が二人在り。 その中の魔法遣いと思わしき、ローブ姿の中年男性が。 「おいおい・・、マジかよ」 と、呟きを漏らす。 無骨な印象の太った仲間が。 「どした?」 すると、魔術師風の中年男が。 「アレを見ろ。 恐らく、“カタナ”だぜ」 大型の戦斧を背負う太った男は、その男が背負う剣を見て。 「うぉっ、マジだ。 ・・アレ、本物かな?」 「いや、ど~だろな。 貴族が好むから、飾り物(レプリカ)も多いって話だぜ」 「本物ならスゲェ~な」 「あぁ。 東国生まれの本物ならば、一本でン百万シフォンの値打ちさ」 「ひょえ~」 二人組の冒険者は、そんな話をしながら街中に入った所で右の通りに曲がった。 さて。 “カタナ”と呼ばれる異国の剣を背負う剣士は、何故か辺りをそれとなく警戒しながら通りを直進する。 脇を過ぎてゆく馬車や、擦れ違う人。 立ち並ぶ石造りの家の窓にも眼を遣り、相当に警戒していると云っても良かった。 アジュ・ソナヤの街は、岩盤が剥き出した山間部の台地に出来た都市である。 岩盤の大地の地下を流れる水が豊富で、大昔は水場の在る野営所だったらしいが。 移動商人がキャラバンを始めると、周辺の町や村より人を集め。 何時しか、利便性に目を付けた貴族の誰かが此処に街を築いたとか。 夏場になると、すり鉢状の地形から猛暑に襲われるのだが。 綺麗な水が湧き、街のあちこちには風穴が空く特殊な特徴から。 昼間に猛暑となる街中だが、深夜は底冷えしそうな程に涼しいらしい。 然し、この避暑を齎す風穴は、地下の奥底に繋がっているらしく。 その出来た原因は、なんとモンスターである。 地面の堅い岩盤を喰い割る大型の天牛(かみきりむし)のモンスターが原因で。 〔アジュヴォス〕と云う怪物の幼虫が這い出でて来た穴が風穴なのだとか。 白い身体のブヨブヨした幼虫は、深夜に地表へと這出てきて。 肉と成る生き物を喰らっては、成虫に成る準備をするらしい。 一番の問題は、その這い出て来る周期で。 悩む事に不定なのだ。 今では、這い出でてくる余兆は解っている。 風穴から吹き上げる風が生臭くなり。 吹き上げる勢いが、異常な程極端に落ちるからだ。 過去には、この街はホーチト王国領土ながら、隣国フラストマド大王国から幾度も援軍を貰ったり。 時には大勢の冒険者がそのモンスター討伐作戦に参加し。 そして、命を散らした過去が在る。 また、近年も40年程前にその現象が起こり。 前の時からたった20数年で這出てきた、と学者や国を驚かせた。 その当時の爪痕は、今でも街中の古い建物に残る。  この都市にホーチト王国に在る軍隊の内、約6分の1が駐屯している理由の一端は、その所為で在った。 さて。 あの、異国の剣を背負った独り身の冒険者は、往来の流れに紛れながら、都市の中心部に栄える商業区域に入った。 すると。 「おいっ、いいモン仕入れて来たじゃないか」 「おう。 此処じゃ~野菜は、高値で売れる。 品質も守らにゃ~可哀想だ」 「有り難いね」 春の日差しが降り注ぐ下で、行商が引き連れて来た馬車の隊列が開けた公園に留まり。 集まってくる商売人相手に、仕入れてきた作物を売る光景が目に余る。 岩盤の上に作られた都市は、それなりに利・不利が在る。 その最たる不利は、作物を育てられない事。 四方を囲む山間部も、木々を切り開くと水を保つ事が出来ず。 過去に大規模で行った伐採計画のその結果、この街は長雨が続く時期に水没した過去が在った。 その為、この都市の生活は、少し離れた農村や町に頼りきっている。 農耕大国のホーチトだが。 自国の周辺だけでは、このアジュ・ソナヤの街に居る人々の胃袋を満たせず。 結果として、協定を結び。 周辺国の国境地域にも、食料供給を頼んである。 一方で。 或る宝石店の店の中で。 「なんと・・、これほどに美しい琥珀が或るのか。 此方は、乳玉じゃな?」 行商の老人が、他国で裁く物品を求めて入った店で。 他国では中々お目にかかれない宝石や、薬石を見る事に成る。 採掘場も多いこの地帯では、太古からの遺産として。 宝石として珍重される琥珀や瑪瑙(オニキス)が産出され。 特に虫が入り込んだ琥珀や、美しく黒に染まった黒瑪瑙、縞模様の縞瑪瑙は、此処の物が世界一と謳われる。 更には。 「此処の岩塩や薬石は、体にイイし。 美容にもイイ。 ホント、商売人の為に在る様な都市だな」 「そうかい? だがよ、此処だけの話。 この街出身の女に、そんな美人は居ないぜ」 「あははは、それは云うなって」 店先で、別の行商人が荷馬車一杯に商品を買い。 旅立つ前にと、店の主人と下らない雑談を交わしている。 彼等が冗談混じりにこう言っているが。 この場の土地の地下で採れる黒塩と緑塩は、薬として珍重される品である。 薬効成分の強い土に含まれた強い塩分が、専用の塩田にて結晶化される物である。 また、一部の土や石には、病気に効く物も在る。 行商人は、此処で農村や海沿いの街で仕入れてきた食料品を売り。 その金で、この土地から産出される物を買って行く。 売り買いの目まぐるしさは、辺境都市・国境都市にしては珍しい勢いが在る。 ある意味、ホーチト王国と、周辺国を山で繋ぐ大切な街で在った。 では、あの冒険者にまた目を戻そうか。 「………」 あの異国の剣を背負う冒険者は、賑わい溢れる繁華街を見て歩いていた。 時には。 「お~い、兄さん」 武器屋の主人が、店頭から声を掛けて来て。 「………」 黙って向いたその男に。 「その背中の剣、ちぃ~っと見せてくれないか? 本物なら、店の有り金を全て出してでも高く買うよ」 と、言ってくる。 男は、どう隠そうにも、独特の形状などから直ぐにカタナと解るこの剣に、黄色い声を幾度と無く掛けられて来ていた。 「……蛆虫が」 自分を呼ぶ商人に対し、小さく侮蔑を吐き。 無視する様にして歩みを早めて行く。 この男が向かったのは、宿屋の集まる場所だった。 身形から安い宿に入ると思いきや、構えの大きい立派な豪邸の様な宿に入った。 美しく手入れされた庭園を抜け、黄色い外壁に開いたロビーに入る入口へと踏み込む。 すると、 「いらっしゃいませ」 蒼の礼服に身を包む、礼儀正しい紳士が彼を出迎える。 そんな支配人の様な紳士を見た男は、唐突に。 「……此処は、口は堅いか?」 冒険者の男の一声は、これだった。 片目にガラスの眼鏡を填める紳士は、首を少し傾げて。 「と、仰いますと?」 男は、背中の剣を横目に見て。 「この背中の剣は、ちと珍しい剣でな。 煩い商人が、剣を買い叩く商談を持ち込む為に宿を聞きまわる。 安い宿では、愛刀が面倒に巻き込まれるのでな。 信用の於ける宿を、こうして何時も探すのだ」 仕様を弁える紳士は、静かに会釈し。 「左様で御座いますか。 それならば、是非にこの宿へ。 他人に何を聞かれても、他言するような事は致しません。 お客様がこの街で悪事を働いたと有らば、話は別ですが。 それ以外で、話すことは無いでしょう」 すると冒険者の男は、スッと金袋を取り出し。 「一夜の値段は知らぬが、二日程泊まらせて貰いたい。 部屋は小さくて構わぬから。 外から見られぬ部屋が良い」 「畏まりました」 一礼する紳士に対し、男は金貨を渡し。 「足りない分は、出る時に請求してくれ」 紳士は、金貨を受け取り。 「これで十分で御座います。 今は、昼時ですが。 仰って頂ければ、風呂の御用意も出来ます」 「個室で、か?」 「はい。 お部屋の別室に在る、固定の湯殿で御座います」 「そうか。 なら、利用しよう」 男は、紳士が呼ぶ中年のメイドに案内され、角の木々に隠れた部屋へと向かった。 そして、幾らか時が過ぎた…。 その日の夕方である。 夕日が木漏れ日と成って差し込む、黄昏時。 少し薄暗くなった男の泊まる部屋が、ノックされた。 肌着の黒い6分丈の黒いズボンに、半袖の白いシャツを着ただけで椅子に座る男は。 「誰だ?」 すると。 「支配人のサイコムで御座います」 その声は、昼間に応対した紳士の声だ。 「…どうぞ」 男の声の後にドアが開かれ、受付に居た紳士が入ってきた。 「済みませんが、宿帳簿にご記入を願います」 一人部屋にしてはやや広い白い壁の部屋に、紳士はゆっくりと入って来た。 「解った」 申し出を承知した男は、宿帳簿を差し出す支配人の方に向かう。 “ルイ・アシザセノード” そう名前を書いた男。 その時、支配人の紳士はそっと顔を近づけて来た。 「昼間に、二人程聞きまわりに伺いました。 喋ってはいませんが、周囲にも聞き込みをしている様子です。 お出掛けには、お気を付け下さい」 支配人の紳士を見た男は、静かに頷いた。 部屋に戻った男は、遠ざかる支配人の気配を見計らってから。 「………」 部屋のベットに立て掛けた二振りの剣に近付いた。 “カタナ”と呼ばれる異国の武器を見る男の目は、鬼鬼迫る強(きつ)い目。 人殺しも出来そうな気配で、近寄り難い雰囲気だ。 だが。 その男の見つめるカタナが、突然に。 『ドウシタノダ? 同朋ヲ斬リ、興奮シテイルノカ? ソレトモ、後悔カ?』 剣から低く不気味な声がする。 すると男は、 「違う。 その様な、生温い気持ちでは無い」 と、腰に下げていた方の長剣を取り上げる。 だが、“カタナ”と呼ばれる剣からは、会話をする様に声が聞こえ。 『ホゥ。 ダガ、悩ム必要ハ、無イ。 オマエハ、ドノ道モウ死ヌノダ。 モウ直グニ、ナ』 長剣を持った男は、椅子に向かう途中で止まり。 「決まった事では無いだろう? お前の云うその強い男を、この俺が斬り倒せば良いだけだ」 すると、カタナからは。 『無理ヲ云ウナ。 オマエノ様ナ、見エル腕デ勝テル訳ガ無イ。 見テナイオマエハ、自分ニ勝テル要素ガ少シ…。 イヤ、幾分カ有ルト思ッテ居ルダロウ。 ダガ、何度モ云ウ。 我ガ持チ主ハ、オマエナド相手ニモ思ワナイ、神ノ如キ強者ダ。 万ニ、一ツノ可能性モ、オマエニハ無イ」 すると男は、明らかに不快を感じた目を向け。 「今頃に為って、随分な云い様だな? この前までは、分が悪いとしか言わなかっただろうに・・」 すると、カタナからは…。 『ウハハハ。 私ハ、独リデ移動スル事ガ出来ン。 寄生虫ガ、本当ノ宿主ヲ求メテ、次々ト寄生スルノト一緒ダ』 此処で男は、睨み付ける様な鋭い眼をカタナに向けたままで。 「貴様・・、騙したのか? 俺より前にも、誰かに…」 『フフフ・・、ドウカナ。 ダガ、寄生モ、御主デ終ワル。 我ハモウ直グニ、真ノ主ノ手ニ戻ル。 オマエハ、ソノ餌食ニ為ロウ。 イヤ・・、コノ我ニ、斬ラレルヤモシレン』 不吉な話に、男は怒りさえ漂う表情で。 「フンっ。 そうなるとは、まだ決まっていない。 俺が、その運命を変えて見せるっ」 と、云う。 本気で在る。 だが、カタナと云う剣は、更に。 『愚カナ。 我ヲ持ッタ時点デ、御主ノ運命ハ決シテイル。 ソノ証拠ニ、我ノ予言通リ。 御主ハ、人ヲ初メテ斬ル結果ニ成ッタデハナイカ』 「………」 カタナに言われた男は、言い返す言葉を失った。 その後、何事も起こらぬままに夜を迎えた。 そして、消灯が終わる深夜の入り頃。 あれから何処にも出かけぬまま過ごした男は、ベットに座り。 “カタナ”と云う剣を下に隠し、暗がりの中でテーブルを傍に持って来ていた。 もう部屋を照らしていたランプも切り。 窓から木漏れ日の様に差し込む月明かりだけを頼りに。 「………」 静かに自前の剣を鞘から抜いた。 暗がりながら、剣の刀身は黒ずんでいた。 金属特有の光沢が、月明かりを受けても見せず。 生臭い異臭を仄かに湧かせる。 (俺も、遂に完全な人殺しか。 だが、今まで斬ったのは、何れも悪党だ。 然も、手加減の出来る人数でも無かった) 言い訳をする様に、心に言葉を吐き出す。 テーブルの上には、温くなったお湯が桶に入れられている。 水を通さない泥を焼いた桶で、布を無造作に切った手拭いが浸されている。 「…」 男は無言ながら、動作は早く。 水を絞った布で、長剣を丁寧に拭う。 布は、黒ずんた色に汚れ、血液特有の臭いが部屋に漂った。 これは、仕方のない事と云えば、仕方ない故の所業故で或る。 今日より、二日前…。 南方の都市から北上したこの男は、カタナを目当てにする賊に尾行されていた。 野宿と成ったその夜に、遂に襲撃を受けた。 相手は、総勢8名だと思われる。 “カタナ”が先ず、襲撃を予知した。 直に、殺気や異音で襲撃を察知した男は、襲撃を受けても動じなかった。 森に逃げ、夜の闇の中で一人、一人と闘って殺して行った。 このカタナを手にしてから、不思議と男の恐怖心は消え失せ。 凡ゆるものを斬る事に対して、全く迷いが無くなった。 だが。 それまでモンスターだけでは無く。 人を相手に闘った事も在る男だが。 一度として、直に命を奪おうとは思わなかった。 他人を見棄てることは幾多と重ねど、直に手を下したことは無かった。 処が。 そんな彼の内面が、少しずつ変わり始めた。 “カタナ”を持ってから、殺さずに事を済ませる考えがなくなった。 それでも、この不気味な剣を手放す気は無い。 いや、寧ろ、そうまで自分を変えられるこの剣の魅力に、完全に取り込まれているのだ。 まるで、昔の言い伝えに出てくる魔剣の様な剣だが。 魔剣を自分で扱える様に成れば、今まで出来なかった事が全て出来る様な気さえする。 (あの剣は、恐るべし魔剣だ…。 だが、あれほどの剣だ、魔剣でもおかしくは無い。 これから俺が成長するには、揺るぎない逸品が必要なのだ。 死闘の度に剣を壊しては、話に為らぬ。 あの剣は、俺に導かれた物だ。 誰の物でも無い…。 誰の物でも………) この“カタナ”に関わってから。 人を斬る時、何故か急所が解る。 急所ばかりに狙いが定まり。 且つ、一撃で殺す事しか決められなく成った。 元から使っている剣を見つめる男は、不気味な気持ちを込めた瞳をしていた。 悪党がする濁った瞳に近かかった。 そうさせたのは、魔剣なのか。 それとも、この男自身なのか…。       ★ その同じ日の夜。 街の盛りも過ぎた頃合い。 店が犇めき合う繁華街の外れの、佇まいも小さく店内も狭い飲み屋で。 バーカウンターの表面が随分と剥げ、木の色が剥き出しに為り。 其処に、使われた汚れが染み込んでいる。 そんな、微妙な凹凸を生むカウンターにて、二人の男が飲んでいた。 「なぁ、明日はどうする?」 そう云うのは、大柄でやけに胴長の男だ。 30代と見える印象で、少し伸びた髪が雑草の様に四方八方へ散っている。 座る椅子の脇には、使い込まれた感の有る大剣が立て掛けられいるし。 黒いマントの下に、鎧でも着込んでいると思えるガタイで在る。 「そ~さなぁ・・」 そう言って、緋色の酒が入ったグラスを傾けるのは、痩せた四十男だ。 背は高くないが、麻色のマントは年期を感じさせる痛み方で、学者か・・狩人の様に動きやすい冒険に適した格好である。 腰周りの膨らみは、サイドパックであろうし。 皮製の篭手や、膝あてを付けている。 武器は解らないが、経験豊富な年配冒険者と思えた。 大柄の男は、昼間に斡旋所を訪ねた事をフッと思い出し。 「なぁ、昼間に話をしてた男居るだろ?」 年配の男は、少し禿げの見える前髪を掻き上げながら。 「あ? “キング”の事か?」 「おう、そいつ。 そいつを仲間に加えて、仕事しないか?」 と、提案をする。 すると年配の男は、眉間に皺を寄せ。 「馬鹿云え。 奴は、天性の“はぐれ”だ。 俺達なんかと長く組む奴じゃ無いぜ?」 大柄な男は、遅くに飲み始めたので。 今頃に丁度酔いが回って、大分に気持ちが大きい。 「なぁ~に、長く組む必要は無い。 一回か、二回のみでいいじゃないか」 処が。 話を受ける年配の方は、頗る渋い顔で。 「お前、本気で言ってるのか? アイツは、正直な処で普通じゃない。 腕は確かだが、組むには適さない人間だ」 「そうなのか? でも、昼間には、奴の事を随分と褒めていたじゃないか」 また、グラスを傾ける年配の男で。 「ん~。 それは、奴の今までしてきた事が、それだけの事だからだ。 だが、アイツの別名を知ってるか?」 「いや。 俺が聞いたのは、“孤独狼の王(はぐれおおかみのキング)”ってだけだ。 別の異名なんて、知らないな」 「そうか。 なら、覚えておくといい。 奴の別名は、“残存奴”」 「ざんぞんど?」 「ん」 「どうゆう意味が在るんだ?」 「ん。 キングの本名は、ルイなんたらって云うんだ。 奴は、冒険者に成り立ての頃から、剣の腕が冴える若者だったらしい」 「ほう。 んじゃ、幼い頃から、それなりの修行をしてたのかな?」 「かもな。 俺が、まだ若い頃さ。 アハメイルで奴を見た時は、冒険者…。 いや、剣士として一旗挙げる為に、冒険者として生きる事を決意したばかりの頃だ」 「アンタが若い頃? 何年前だよ」 「そうさな・・、12・3年以上前の事だかな」 「んじゃ、俺と組む5年以上も前って事か」 「あぁ」 お互いにグラスを空け、御代わりを老人バーテンダーに頼んでから。 年配の方が口を開き。 「キングは、冒険者に成る最初の入り方が悪かった」 「“悪かった”って、人の道を踏み外したのかい?」 「あ~、いや。 まぁ、聴いてくれ。 ・・ん、俺の目から見ても、奴は人付き合いの上手そうな人間じゃなかった。 無口で、必要な事しか言わない若造だった」 「そうか。 でも、そんなのは、皆似たようなものだと思うが?」 「かもな。 だが奴は、それに輪を掛けた様な感じだった」 「ふぅん」 「頭数を揃える意味で奴を誘ったのは、煮ても焼いても喰えない下衆でさ」 「嫌な奴は、何処にでも居るからな」 「ん」 此処で、新たな酒が出された。 二人は手に取り、各々口を付ける。 「んで?」 と、大柄の男が話の催促をした。 「ん。 請け負った仕事が、幽霊船が近付いた時に居残ったモンスター退治でよ。 街の南西に在る灯台の近くに、夜な夜な出没するゴーストを始末する仕事だった」 「ほう。 僧侶か、魔法遣いは必要だな」 「あぁ。 だが、その問題は無かった。 リーダーが、財宝や冒険を愛する遊興神の信仰者だし。 駆け出しの女魔術師も居たと思った」 「なら・・」 「そう。 仕事は、上手く行った。 だが、上手く行き過ぎて、取り分で揉めた」 「そりゃ~最悪」 「キングの奴は全く活躍が無かったから、とリーダーに言われてな。 全く分け前無しで、チームから放り出され掛けた」 「汚い遣り方だな」 「だが。 別の誘われた戦士も同じ境遇でよ。 然も、その戦士が、女に優遇したリーダーに逆上して、諍いがてらに殺しちまったのさ」 「なぁ~る。 たまに在る話しだ」 「所が、その現場にキングも居てよ。 役人に捕まった挙句、戦士の男に濡れ衣を着せられた」 「マジか?」 「おう。 ま、女の魔法遣いだかが、後から証言して濡れ衣は晴れたが。 その時の事が遺恨に為って、奴は“はぐれ”の道を選んだ」 「ま、腕は確かなら、それも有りか」 すると年配の男は、渋い顔をして。 「馬鹿云ぇよ。 その御陰で、奴は死地に飛び込む仕事ばかりを遣る羽目に成ったんだぞ?」 「そうなのか?」 「“はぐれ”や“独り狼”なんて云われる奴は、ろくでもない野郎か。 若しくは、捨て鉢に成るかのどちらかさ。 生じ腕が達(たつ)だけに、弱いチームだけじゃ~任せられないと思う仕事に、斡旋所の主の薦めで加えられる。 今まで、アイツに箔を付けた仕事は、どれもアイツ以外のチームは全滅。 若しくは、再起不能と成る奴ばかりが出てる」 「でも、キングは生き残った訳だろ? それは、実力じゃないか」 「あぁ。 確かに、生き残った…。 そうゆう意味で云うなら奴は、幾度も危険な仕事を成功させて。 結果、“孤独狼の王”と異名を取るまでに成った。 だが、裏を返せば、それだけチームを見捨てて来た過去でも在る」 大柄の男は、そう言われて少し気味が悪く思えて来て。 「ん~~…、なるほど。 そう言われれば、そうかもなぁ~」 「キングのこなした依頼の中には、見捨てられて村人なんかの住人に助けられる冒険者も居た。 その話では、キングは仲間を助けず。 足手纏いに為った手負いの仲間は、下手をするとモンスターに差し出したって噂だ」 「………」 「ま、大方は、モンスターが怪我人に狙いを定め。 キングの方は、その隙を狙って戦っただけなんだろうがさ。 仲間を見殺しにされた様なチームの面々にしてみればよ。 奴は一人で生き残り。 まだ助けられた筈の他の奴を無視して、さっさと引き上げる。 そんなキングには、憎しみしか湧かないさ」 「うーん、過去の事が原因とは云え。 そこまで行くと、怖いな」 「当たり前さ。 何でも、大昔の“傭兵”ってのは、冒険者じゃなく。 モンスターや国家間の戦争で雇われ、戦う兵を指した。 その中には、キングと同じ行動をして。 貰える報酬を大きくした奴も居たと。 そして、そうゆう奴を、生き残る事しかせず、金の亡者と云う侮蔑の意味を込めて、“残存奴”と罵ったらしい」 「んじゃ、別の異名はそこから持ってこられた訳だ」 「あぁ。 だから、さ。 アイツと組むなんて、それこそ命取りだ。 名前が勝手に売れている上に、最低限の成功しか保証しないキングだからな。 斡旋所の主も、ヤバくて、捨て鉢の様な仕事しか回さない。 全滅在りきを最初から念頭に置く遣り方なんざ、それこそ命が幾つ有っても足りはしないさ」 「なるほど」 グラスの酒を呷った年配の男は、お代わりを頼んでから。 「奴と組む時は、奴を身代わりに突き出す気持ちで遣らないといけない。 背中も任せられない奴と組んで、何時に見捨てられるかも解らない中で仕事なんざ、流石の俺でも無理だよ」 「そうか…。 今まで、俺以外に長く組んだ仲間が居ないアンタだからな」 「あ~。 然も、昼間に聞いた話じゃ、キングの奴“カタナ”を持ってたとか。 そんな高価なモン、商人や金に汚い輩からするなら、宝か大金にしか見えねぇさ。 襲われる様な物を持つ奴と、ホイホイとチームを組めるかよ」 そう。 あの宿に泊まる男の事は、昼過ぎに斡旋所でも噂に成っていた。 “カタナ”などと云う異国の奇妙な武器など、隠さなければ眼に付いて仕方が無い。 目撃した冒険者がチラホラ集まり、噂から人物が特定されたのだ。 一歩遅れで、グラスを空ける大柄の男は。 「なるほどな。 腕は、惜しいがなぁ…」 すると、また出された緋色の酒が入るグラスを見つめる年配の男は、緩やかに頭を左右へと振り。 「いや。 あの程度の腕なら、そんなに惜しむ事でも無いさ」 老いたマスターが注ぐ酒を見ながら聞いた大柄の男は、大きく出たなと思い。 「ほ~ぅ、言い切ったな」 すると、年配の男はニヤリとして。 「あぁ。 だって、考えても見ろよ」 「ん?」 「キングは、一度だって上級の依頼をこなした訳じゃ無い。 一般向けの依頼に、強いモンスターなんかの突発的な悪い要因が重なって。 其処に行かせる丁度いいチームが無く。 仕事に緊急性などの切羽詰まった条件が重なって、仕方無い事情だったり。 斡旋所の主が最低限の報酬で、最低限の結果を求めたから、そうなっただけさ」 新しいお代わりを出された大柄の男は、グラスを引き寄せながら。 「なる程な…。 言われてみると、確かに」 「恐らく、キングの奴にはな、それぐらいしか価値が無い。 強いって言ったら、俺達ぐらいの実力からしたらば、確かに強いが…。 本当にもっと強いなら今頃は、仕官の誘いや、世界的に有望なチームから誘いが来るさ」 「ふむぅ、確かに」 「アイツは、最初の駆け出しの時で酷い目に遭い。 そして、自分の勝手な考えで、羽ばたく機会を棄てたんだ。 最低限の結果しか出せない奴が、今、世界を羽ばたくチームや。 あの美人剣士ポリアみたいに、羽ばたこうとするチームと比べるに値しないのがイイ例だろ?」 グラスを口に付けた大柄の男は、頷くのみ。 年配の冒険者は、続け。 「多分な。 世界に居る剣士をチームからバラして、キングと同じ境遇から冒険者を遣らせても。 キングは、ずぅ~っとあのままで。 他の剣士は、またチームとして名を馳せて羽ばたく。 その違いは、きっと剣術にもある程度の差を生む筈だ」 「なるほど、そうかもな」 「俺はよ、思うんだ」 「ん?」 「キングは、周りが作り出したもので。 本人は、それほどに強くない・・と」 口の中で舌を動かし、その答えを頭の中で探す大柄の男。 年配の男は、更に。 「人を抱えられる強さは、個人の腕を超える。 キングに、その強さは無い。 だからアイツは、キングのままで独りなんだ。 俺もまた、今までチームらしいチームを築けなかったのは、同じ理由だと思う」 その話を聞いた大柄の男は、口に近付けたグラスを離すと。 「だが、俺とは長いじゃないか。 俺は、アンタに背中を預けてるゼ?」 鈍い自虐的な笑を浮かべる年配の男は、 「あぁ、解ってるさ。 ・・それでな、ものは相談なんだが」 と、話を濁す。 「あ?」 大柄の男が、何を言いたいのかハッキリ聞こうと彼を見れば。 「その・・何だ。 スタムスト自治国のウォルムか、エルル・ルカ・ナンデまで行って。 正式なチームを創らないか?」 大柄の男は、その申し出を聞いては、キョトンとした丸い眼をし。 「おいおい、本気…か?」 年配の男は、グラスの残りをグッと呷ると。 「ん゛ん゛~、キクぜ」 と、酒が染みるのを喉に感じながら、更に話を続け。 「キングの事を話してるウチに、自分の今までが怖くなってきた。 引退するまでには、奴とは違う何かを掴みたい」 「ほぅ。 アンタでも、自分をまだ磨く気力が在るんだな」 「馬鹿にするな。 ・・ま、今しか、もう見直せる時期は無い。 別のチームに加わってもいいし。 バラの誰かを誘ってもいいさ」 此処で年配の男は、仲間で在る隣の大柄な男を見て。 「運が良ければ、お前みたいな気の合う奴に出会えるかも知れん。 そして、イイ女にも…、な」 大柄の男は、相方の年配をマジマジと見て。 「それが目当てなんじゃないかぁ?」 年配の男は、苦笑いをしてみせて。 「勝手に言えよ」 と、酒代をカウンターに出した。  【二・魔剣との邂逅】 異名を〔キング〕とか、〔残存奴〕・・と云われる男、ルイ。 彼は魔剣を手にして、何故か逃れる様にこのアジュ・ソナヤに来た。 逃げる様な理由の一つは、“カタナ”と呼ばれる剣を狙って襲撃して来た盗賊を、全員返り討ちにして殺した御陰である。 だが、この街に来た本当の目的は、他に在る。 では、何故に此処まで来たのか…。 彼の今までの生い立ちと合わせて、振り返ると…。 彼は、商業大国マーケット・ハーナスで生まれた。 世界最大の商家オートネイル家が有名だが。 それと同等の大商人が古き昔から財力を誇示する為、永きに行なってきた慈善事業が在る。 その一環と成るのが、孤児院だ。 最低を超える教育、武術から魔法に到るまで。 本人の才能に沿う道が開かれ、過去にこの孤児院の出身からも有名な冒険者を幾多も輩出して来た。 そんな孤児院の一つに引き取られたのが、ルイだ。 別の大店の跡取りが、娼婦にのめり込んで出来た子供であり。 娼婦もまた堕胎は偲びないが、育てるのも面倒と云う理由で出したのだ。 幼い頃から無口な子供だったルイ。 だが、それでも引き取り手が有り。 引き取られたのは、兵士を束ねる軍幹部の家だ。 細かい話をするならば、彼の父親で在る大店の血筋と親戚に成り。 病気で一人娘を無くした夫婦が、慰めに身請けしたのである。 だが、これはルイの人生を変えた。 10歳に満たない頃から剣術を習わせて貰えた事である。 太刀筋の良いルイは、一生を掛けて縋るモノを少年の頃から見つけられたのだ。 ルイが剣術に打ち込む様になって直に、彼の義理の親に新たな実の子供が出来た。 処が、両親は彼を粗末にする事は無く。 あくまでも家督を継ぐ長男として育てた。 17歳に成ったルイは、義父の跡を継いで軍人として生きる事を望んだ。 また、両親もそれを望んだ。 18歳に成り。 ルイは、正式に軍人の仕官学校に入った。 だが、此処に運命の岐路が用意されていたのである。 それは、若くして入隊希望をする若者の中に、ルイの本当の父親が愛する息子が居た。 詰まりは、ルイとは異母兄弟に成る。 実力で仕官の道を掴み取ろうとするルイに比べ、向こうは金の力だった。 そして…。 ルイの実父が、軍事物資を扱う部署とする不正が発覚する。 軍部の一部を巻き込んだ不正に、軍部高官となるルイの義父も容疑者として拘束されたのだ。 処が此処で、不思議な事が起こった。 ルイの実父は、何故か微罪と為って罰金刑に成った。 然し、一方の義父は、実刑を着せられて北に流される。 これに絡んで、ルイの実弟は決してエリートではないが。 安定した出世の出来る部署に、役人として採り上げられた。 なのにルイは、義父の不正を理由に兵士にも成れず。 養成学校を途中退学させられたのである。 巷の噂では、何か汚い事が捜査する者に在ったと…。 だが、それも直ぐに聞こえなくなる。 ルイの実父から金が出たとも、首謀者の幹部が箝口令を使ったとも…。 ルイは、義母が義理の弟を連れ実家に戻ると云う事を受けて、家族と離れる事にした。 義母は無口なルイだが、実子の様に思ってくれていて。 一緒に来て欲しいと懇願したのだが。 ルイは、此処で新たなる夢を見た。 どこの国でも、剣術等の優秀な者を仕官に採る制度が在る。 かなりの腕前を必要とされるが、その採用者の未来は明るい。 冒険者に成って、腕を磨き。 義父の無念を晴らすべく、その採用に受かる事を夢としたのだ。 処が。 運命は、ルイを冷たくあしらう。 最初に組んだ相手に翻弄され、冒険者と云う全てを信じられなく成ったルイ。 更に追い打つ様に、二年後には義母が病死し。 その一年後には、義理の弟が首を吊る。 どうやら実家で、陰湿な虐めに曝されていたらしい。 自分の一家に付き従った従者が、ルイを探し回って。 弟の死より半年も遅れて、ルイはその事実を知った。 孤立化した中で剣の腕を磨こうと躍起に成り。 遂には、 “生き残る中では、犠牲も必要” と、非情さを以て割り切ったルイ。 そらからの彼は、仲間意識と云う協調性や人間性に欠けて行く。 個人の生き方を強めた処に向かう彼には、チームと云う団体に馴染めず。 斡旋所の主の提案で一時加入するチームの駆け出しは、 “足で纏いに成り助けるに値しない” と、割り切った。 自分を助ける者は誰も居ないと決めつけた事で、独りよがりの意思に固執して行ったのだ。 それでも、生き残って最低限の成功を収めれば、一人でも報酬が貰え。 そして、生還することで、周囲が自分を認め出す事に救いが見えた気に成った。 然し、何時も何時も、ルイの闘いは孤独であり。 また、強く成る中で困るのが、武器だった。 壊れては新調し、より高い武器を求めては、捨て鉢の様な環境で仕事をこなす。 生活に不自由はしないが、決して高価な剣を買える訳では無い。 そんな冒険者人生が、長く成った。 そんな半生を歩んできたルイだが。 決して彼が思うほどに世知辛い認識は、周囲に無かった。 時には、組む事でチームに居続けて欲しいと願ったリーダーが何人も居たし。 不器用なルイの幼さを受け入れる、そう云った素振りの女性も居た。 つまりは、独りの考えに固執した彼は、それが見えなかった。 それを感じられなかったのだ。 彼は、剣術の成長以外の自分の成長を、自分から完全に止めた。 その時点で、本当に強く為る事を止めたと云っても良かった。 その未熟な心は、あの妖しげな魔剣に魅入られる隙を生んだ結果に繋がる。 彼からするならそれは “遂に在る出逢いが…” と、云う感覚であろうか。 さて、彼と魔剣の消息が表に香ったのは、実に三ヵ月程前の事だ。 宗教王国クルスラーゲの辺境都市にて、或る事件が起こった事から始まる………。 冬の頃。 〔宗教王国クルスラーゲ〕 慈愛・優愛(友愛)・母性などを司る〔女神・フィリアーナ〕を信仰する教徒に由って治められる国だ。 他神信仰者も許容し、王都や地方の大都市にも、様々な神々を祀る寺院や神殿が存在する。 この国の北西で、賭博で国家の成り立つ国との国境付近に、領土と云う区切りでの最北限当たる土地が在る。 其処は、モンスターの多さから放置された場所で。 古えの時代の頃に滅んだままの都市遺跡が在った。 “古都ロベラムス”と云う名前で、石造建築国家としては最古の部類に入る。 巨大神殿を始めに、モンスターの襲撃を逃れる意味で築かれた〔地下都市クノックラー〕は、地上部のロベラムスを凌ぐ広さを持っている。 このロベラムスは、不思議な都市だ。 初めて行く者は、その国家の領域に踏み込んだ瞬間、歩く地面が土から石に変わる事に驚く。 北の呪われた大地ダロダト平原とも遠くないこの場所は、嘗て“カオスゲート”(呼び名は様々な“悪魔の口・悪魔の道”とも)の開いた場所で有り。 その穴を地中深くまで掘り下げ、魔法で石を置いて封じた場所でも在るらしい。 その為。 封じて監視する意味で都市国家を築いたのだが。 その穴から溢れる瘴気(イビルオーラ)がモンスターを産み。 都市に住まう人々を追い出してしまった。 過去数千年・・。 いや、それ以上に渡り。 この都市遺跡は、盗掘や遺品漁りをする盗賊の温床であり。 また、駆け出しの冒険者などが挑戦と称して挑み、無数の命が散らされている。 毎年、隣接する両国の斡旋所がモンスターの全体数を減らすべく、討伐の仕事を出して居るのだが。 意外にも帰らぬチームが良く出る。 そんな場所に、雪が舞う冬の真下。 荷馬車に乗った一団がやって来た。 外の景色は、荒廃と云うか、荒涼とした雪景色が遠くまで見える。 所々に盛り上がる岩や、雪を被った低い木が有るだけ。 荷馬車が向かう先。 雪が敷き詰められた街道の遥か彼方には、滅びた跡と解る巨大建造物の姿がうっすらと見えて来ていた。 荷馬車の御者をするのは、大柄の肥えた男性で在る。 フードの縁に動物の毛が付くオーバーの様な防寒着を着て、この寒さに耐える対策をしている。 荷馬車を引く馬も、冬の道に耐えられる足の太い他国産馬数頭で。 大きな荷馬車を引きながら、白い雪に染まる廃墟の大遺跡へと近付いていた。 馬車の行く街道とは、地面剥き出しの荒れ果てたモノで在り。 途中に大岩が転がっていたり、枯れ木が倒れていたりする。 荒野との境が曖昧に成っているので、その道幅と思える領域は広い。 荷馬車の中から。 「もう、そろそろ~?」 と、少し低めで、大人びた女性の声がした。 肥えた中年の御者は、荷台車の方に顔を向け。 「後ちょっとだ。 遠目に、ロベラムスが見えてきた」 すると、荷馬車からトーンの高い別の女性の声で。 「しっかしさぁ、アンタも盗掘を冒険者に依頼するなんて、呆れた商売魂だね」 寒さで顔が固まる御者の中年男性だが、これには苦笑いが出て。 「“盗掘”とは、聞こえが悪いなぁ。 死んだ冒険者の遺品集めだ。 大元の依頼主は、斡旋所なんだぜぇ」 「はぁ?」 その生半可な問い返しを聞いた御者は、 「途中で合流した手前、良く事情を理解して無いらしいな?」 と、横に向いて言った。 幌の一部分には、話す相手方が外を覗く穴が有り。 聞き取り易くと、自然に顔が動いたのだ。 「マジなの?」 「あぁ。 遺品回収は、時々行われるんだ。 ま、殆どが壊れてる上に、持ち主の解らない武器だからな。 回収後は鍛冶屋で鍛え直したりして、自由市場の商人に捌かれる」 荷台車の中に居るまた別の女性から。 「何で、遺品回収なんかするんだろう」 と、質問が湧いた。 風と共に雪がフードの中に入る。 御者の中年男性は、フードを深く被りながら。 「遺品をそのままにしておくと、盗賊なんかがそれを盗んでいく。 モンスターが居ないなら、それでもイイらしいがなぁ。 生じモンスターの巣窟なだけに、盗賊が殺されてモンスターに変わるらしい。 その量が増えると、溢れ出る様に近くの国境都市に向かうみたいだ」 やや間延びした若い女性の声で。 「それは、チョ~不味いじゃんよ」 「んだ。 しかも、冒険者が腕試しと観光を目的に、興味だけでロベラムスに向かう。 その冒険者を目当てにした追い剥ぎや、騙して盗掘の手数に悪党が加えさせる事も珍しく無いらしい」 「マジなのぉ?」 「マジもマジ。 オイが今回の手伝いを請ける前までは、別の商人がこの仕事を請けてた。 所がその商人は、盗掘に来ていた盗賊の集団に襲われてよ。 冒険者が迎え撃ってる間に、奇襲を仕掛けてきた別の賊に殺されちまった」 「うわっ、生々しい」 「おう。 戻った冒険者の話では、相手方に腕の達つ奴が居たらしいよ。 盗賊達とは少し違う雰囲気で、冒険者と思える感じだったってさ」 「うはぁ。 同業者なのに、何か感じ悪ぅい」 間延びした若い女性の声で感想が出た後。 今度は、少し低い声の男の声で。 「何で、冒険者って云えたんだろうな」 御者の中年男性は、一度だけ聞いた話を思い返し。 「確か・・、背中に珍しい剣を背負ってたってさ。 弓形に反った剣とか」 「おいおいっ、そりゃ~“カタナ”じゃないか? 凄い高価な剣だぞっ?!」 すると、最初に会話をし始めた女性の声で。 「でも、何で背負ってるのよ。 んじゃ、戦ってた時に使った武器は、別物って事?」 「さぁ~、其処まではオイにも解らんよ~」 荷馬車の中と外でこんな会話が続けられていた時だ。 一面雪景色の荒涼とした平原の様な所々に有る低い木々や、盛り上がった岩場の影から何かが飛び出して来た。 「あぁっ?! 何だァっ?!!」 遠目だが、御者の男も何か動く黒いものがハッキリ見えた。 馬車の中に居る冒険者達は、急に御者が大声を上げた事で一気に緊張し。 最初に喋った女性の声で。 「どうしたのっ!?」 別の男の声で。 「何が有ったっ!?」 轡を引き絞る御者は、 「何だか解んねぇーがっ、来るどぉぉぉーーっ!!!!」 と、馬を強引に止める。 白銀の世界の中で蠢く黒い何かが、馬車の行く手を塞ぐ様に街道の上に出て来た。 「野郎どもっ!! 武器を奪えっ、女は拐えっ!! 死ぬ事にビビるんじゃねぇぞぉぉぉぉーーーっ!!!」 「うらぁーーーっ!!!」 二十人ぐらいの大人数の声が上がった。 盗賊の襲撃が起こったのだ。 街道の先に、雪を黒く染める様な盗賊の姿が浮かんだ。 御者は運転を止め、逃げる様に荷台の方に向かった。 盗賊たちは、冒険者が一緒に居るのを見越して襲撃を仕掛けた。 これは、旅人などよりも、冒険者の方が金目の物を多く持っている事を知っていての事だ。 大抵、冒険者チームなどと云うのは、2・3人から、5・6人。 多くても7・8人位。 盗賊達は、倍以上の数で押し切ろうと云う魂胆である。 武器に毒を塗り、相手に女が居れば拐って犯し、売り飛ばす。 それぐらいしか、もう頭をを掠めない輩達。 だが。 「よしっ、早速出番だよっ」 「解ってるゼっ」 「前の奴らの敵討ちだっ」 盗賊達が馬車に近付く頃。 馬車の前には、武装した冒険者が壁を作って待ち構えて居た。 紅い髪に片目の眼帯をした剣士風の女性が、白いマントを風に吹かれながら。 「みんなっ、とっ捕まえろっ!!! 打ち首の奴らでも、生きて突き出せばずっと金に成るっ」 「おーーーっ!!!」 「やったるでぇっ」 その掛け声に反応する者は、10に届いて居た。 ファランクスチーム〔レネイデロ・エルフェナイン〕。 クルスラーゲ国内を中心に、博打王国にも顔を出し。 “根下ろし”の冒険者を絶えず数名加えている、多人数チームだった。 今は、冬で畑も出来ない季節。 賞金稼ぎや出稼ぎかてらで仲間が増え、18人と云う大所帯に成った一団が彼等である。 「ミュィール。 周囲は任せろ。 奇襲は、全てこっちが潰す」 魔法を扱える4名の男女の一人が、荷馬車の脇や後方に散って行く仲間を見ながら言った。 この遺跡周辺に出る盗賊は、無条件で賞金首だ。 奪った物を売り捌く所から、もう大体の面は割れている。 この遺品回収では、腕が有るなら盗賊を捕まえた方が金になる。 然も、同じ人。 然も、同業者を食い物にする盗賊など、普通の冒険者からするなら敵でしかないのは当然だ。 雪が舞う白銀の世界で、大激戦が巻き起こった。 それから、10日後。 凶悪な盗賊集団が処刑に成った。 ミュィールと云う女性が率いる冒険者のチームに、盗賊の集団が丸々全員が捕まった。 取り調べの際に、御者とミュィール等のしていた話に出た事を、観念間際に誇張して語る賊が数人居た。 どうやら彼等に殺された商人を護衛していた冒険者達は、命からがらで逃げた訳だが。 更にその前にも、別の冒険者2・3人が、やはり違う仕事を請けてロベラムスへと向かっていたらしい。 これは、裏を斡旋所で取りハッキリした事なのだが。 3人の男だけのチームが、確かに雪が降り始める頃に仕事を請けていた。 そして、その依頼が少し変わっていて。 遺品回収では無く。 何かの目的で遺跡に向かった骨董屋が居て。 その老人がもう、ひと月近くも戻らず。 家族から “遺体だけでも回収して欲しい” と、こんな特別な依頼だった。 先ず。 その消えた骨董品店の主であると云う老人は、何かを人伝に買ったらしい。 その後、立て続けに家族へ不幸が襲ったとか。 周囲へ詳細を勿体ぶって話さなかった老人だが。 不幸続きからか、何かに怯え出したと云う。 そして、いきなり…。 “ロベライムに行く…” 家族に伝言を残し。 店を放り出して消えたのだ。 この行方を捜す仕事に、その3人のチームが選ばれた。 たった3人だったが、腕に覚え在る者達で、主も安心していたらしい。 機転の利く魔法遣いをリーダーに、怪力の戦女神を信仰する神官戦士と、傭兵の腕も確かな背の高い無口と云う3人で。 下手な頭数だけ多い駆け出しよりは、ずっと頼りに成る者達だったとか。 処が、遺品回収の仕事を請けて、途中で盗賊に殺された商人トルバンと云うらしいが。。 彼は、先に行って消えた老人が、何を買ったか知っている話しぶりだったと云う。 また、ロベラムスに到着した後の遺品回収の時。 遺跡で、先に行った3人の冒険者の容姿をそれとなく語り。 まだ錆び古していない武器もロベラムスに在ると、目の色を変えて遺骨や遺体を探し回ったとか。 そして、極めつけに。 トルバンなる商人と一緒に依頼を請けた冒険者達が、盗賊の奇襲より何とか生き延びて逃げ帰った。 この冒険者達の話に因ると…。 “盗賊の狙いは、商人が掻き集めた遺品だったが。 奇襲を仕掛けた目的は、寧ろ商人だったと思えると云う” と、役人へ語ったとか。 また、処罰を受けた盗賊も、独りで旅する剣士が“カタナ”を持ち。 何故か、遺品の強奪に力を貸すと言ってきた事に、ある種の違和感を持った事は確かだった。 だが、その“カタナ”を背負う剣士は、盗賊の心を読み。 神懸かり的な要素を見せたので、彼らも戦って勝てる気がしなかったと。 覆面で顔を隠し、上等な別の長剣を腰に佩いていたのが印象的だったと言った。 結局、その異国の武器である“カタナ”を持った何者かは、賭博で成り立つ王国に消えたと云う報告で、消息は追えなかった。 これが、事件の表舞台である。 では、裏はどうだったのか。 此処で出てくるのが、ルイだった。 この事件の少し前までルイは、賭博で成り立つ国に入り、名剣を探していた。 “稀代の名剣、揺るぎない豪剣”。 他の有名な冒険者や、有名人が持つ様な剣が欲しかった。 “自分には、もうそれを持つ腕が在る。 持てば、高みに突き抜けられる” と、思うように成り始めていた。 だが。 こんな彼に、多くの知人が居る訳でも無い。 そこで、賭博で成り立つ王国に入ると、遺品回収を行う商人を訪ね回った。 嘗てルイは、この国で数多くの遺品回収の依頼に際し、助太刀に加わった経緯が在った。 その伝で、後にルイ自身が手を掛ける事に成る商人と会った。 晩秋の夜。 木枯らしも吹く頃。 ボロい店の裏部屋でルイは、その中年の商人と会った。 「久しぶりだな。 こんな夜更けに訪ねてきて、済まないと思っている」 と、ルイはその商人に言った。 商人の名は、トルバン=グラントス。 店の名前も、“トルバン商店”。 盗掘品から、正規の遺品回収で払い下げられた中古の武器や防具を扱う商人で。 その意地汚さから、〔ヴェルゼィバーブ(死蝿)のトルバン〕と裏で云われる男だった。 遺品回収から死体探しまで引き受ける男で。飲み屋の女に対しては、金をチラつかせての強権な態度をし。 依頼で組む冒険者に対しては、面従腹背の姿勢でヘコヘコする人物だったとか。 遺品回収を請け負う商人の中でも、クルスラーゲと賭博で成り立つ王国の両国に跨って依頼を請ける商人は、この男が筆頭株。 大都市の斡旋所では、彼も不正はしずらいのだが。 地方都市に成れば、金の力が効いてくるのを知り得ていた。 俗に言う“裏金”・“袖の下”と云う金を遣い。 遺品回収の仕事を率先して請けていた。 その意地汚い一面を知るのは、同業者のみと云う。 冒険者に対しては、至れり尽くせりに近い好意的な態度で本性を隠していたとか。 意外に、それを知らず、彼を訪ねてくる冒険者も居るらしい。 さて。 このトルバンに、剣を探し求めるルイが訪ねた。 この時のトルバンは、半年程前から売り手を探さない名剣の持ち主を知っていた。 「それは、誰か」 ルイも、剣術の形の様に撃ち返す間合いで問い返せば。 「この賭博で成り立つ国の中でも、10指には入る大店の若い娘ですよ」 「娘だと? それは、装飾剣の部類ではないのか」 女性で名剣を持つと成れば、軍人やら冒険者が当たり前だろう。 商家の娘となるならば、護身用の装飾剣辺りが普通に感じられる。 密談の様に、戸締まりをしたトルバンで。 「これは、噂なんですがね。 何でも、その娘の操を強引に奪った或る男が居て。 その男が持ってたと云う、黒塗りの鞘をした異国の剣を持っているとか」 「だが、何故にそんな男の剣が娘の元に在るのだ。 剣を形見代わりに譲り受けたならば解るが…」 「それがですね。 別の国で投げ売りの様に売られたその剣は、誰も抜く事が出来ず。 その剣を目にした娘が発狂的に欲しがり。 父親に自殺すら匂わせる様な、我儘を言って買い取らせたらしいですぜ」 「名剣を投げ売り・・な。 抜けないのならば、使えぬ。 大体、それでは買うのも難しい」 「いや、ルイさん。 抜けないのは、まぁどうしようも出来ませんがね。 この娘の父親は、美しい娘を早く一人前の妻にしてやりたいと願い。 邪魔なその剣を、そっと誰かに売ろうとね。 秘かに、買い手を捜して居るらしいですよ」 この時のトルバンは、その剣が喉から手が出る程に欲しかった。 絶対に、桁外れの値段で売れると思ったからだ。 然し、このトルバンは、その大店の主に毛嫌いされていた。 商人の中でも意地汚さに掛けては、他に比べる相手を悩む様なトルバンである。 格式の有る大店の主からするなら、一番付き合いたく無い人物がトルバンだったからだ。 結局、トルバンは指を咥え、剣が誰かに譲渡されるのを見ているしか無いと諦め掛けていた。 そこへ、ルイが訪ねた。 この時に、ルイには仕事の誘いが在った…。 金の蓄えを増やす為に、ルイは先に仕事を優先した。 ルイが冒険者として、数日ばかり仕事をしていた。 この間に話題の剣は、クルスラーゲとの国境に有る都市の、骨董品店の老人店主へと譲渡された。 トルバンは、この剣が諦めきれず。 半ば悪党の道に片足を突っ込んだ者を金で雇い。 ずっと探りを掛けて、経緯を調べていた。 娘の事を心配した大店の主は、自分と親し過ぎる大きな店の商人に売れば、娘がまた買い戻すと思い。 隣国の、商売上で幾らか面識が有る程度の者に売ったらしい。 そして、この剣を売る条件は、二度と娘に渡さない様にする事であった。 依頼を終えてまた、ルイがトルバンを訪ねれば、夜に二人でサシとなり酒を呑む。 トルバンは、グラスを呷りながら。 「ダンナ」 「ん?」 「イイ剣ならば、やはりあの剣以外に無いですよ」 「前に云っていた、“抜けない剣”の事か?」 「はい。 ただ、バカみたいに金が無いと、到底買えませんよ」 ルイは、“イイ剣”と聞いては、何とも気に成る。 「処で、それは如何なる剣なのだ?」 「へい。 東方の国で造られる、“カタナ”と呼ばれる名剣だそうです。 ただ、今まで誰も、鞘から抜いた事の無い剣だそうで。 相当な腕前の誰かじゃ無い限り、無理なんじゃないかと云う噂でさぁ」 その話を聞いた時にルイは、電撃に撃たれる様な衝撃を受けた。 (か、“カタナ”だと? あの・・カタナかっ。 然も、相当な腕前の剣士………。 これは、俺の事ではないか?) ルイがこの国に来る前。 西の大陸の北に有る国で、凶暴なモンスターを次々と倒したばかりのルイ。 組まされたチームが見捨てる程に弱いチームでもなく。 一緒に斡旋所へと戻った彼等から、 “キングの剣は、無敵だ” こう云われ、上機嫌でこの国に来た。 また数日前も、凶悪なる剣士を打ち負かして兵士と一緒に捕縛した。 かなりの手練れだったが、ルイは勝った。 自信に満ち溢れるルイは、自分ならその剣を抜けると思う。 「なぁ、店主よ。 その剣の持ち主を教えてくれないか?」 酔い始めたトルバンは、眼を坐らせ。 「無理ですよ。 ダンナが、世界有数のチームに与する冒険者ってなら、話は別ですがね。 一匹狼の剣士なんざ、異名が広がっても斡旋所止まり。 チームの名前も付随して有名に成らないと、商人ってのは腕を信用しません」 「ゔむっ」 力んで唸るルイ。 そんな彼を、細めた横目で見るトルバンは…。 「そんなに、欲しいんですかい?」 と、低く探る様に聞いて来る。 「欲しいっ」 小さく拳を握り、声を吐き出したルイで。 それを見てまた呑むトルバンは…。 「なら・・そうですねぇ。 2・3日ほど、待って貰えませんか? 宿は、ワタシが手配しますから」 ルイは、そう言ったトルバンをハッと見て。 「手立てが有るのかっ!?」 邪気の無い顔をして、酒を呷るトルバンで。 「・・うぃ~。 さぁ、一応……考えてみまさぁ」 「おぉっ、そうかっ!」 人を信じれずに、一人で動いて思い上がる彼なれど。 こうゆう所では、まるで子供騙しに引っ掛かりそうな純粋さを見せる。 それが、彼の人生を狂わせている事も知らずに…。 この直後。 大店より剣を払い下げて貰った骨董品店の老人店主が、言動をおかしくさせて行く。 それを聞いたトルバンは、ルイを引き連れてクルスラーゲの方に移動した。 老人店主を知り合いに見張らせるトルバンは、老人が一人で旅立つのを知る。 雪が舞い出す夜中、何故か逃げる様に、荷馬車で旅出す。 “老人一人だ。 街より出てしまえば、付け入る隙がある” トルバンは、剣を奪う可能性を見出した。 ルイも、トルバンも、老人店主がどうしてしまったのかは解らない。 だが、これはまたとない機会だった。 雇った知り合いに尾行させたトルバンは、荷馬車で追う時にルイへ。 「ね、ダンナ」 「なんだ」 「ダンナに馬を貸しますんで。 一人で追い掛けて、剣を奪ってはどうでしょう」 「何ぃ?」 「だって、相手はあんな老人ですよ? 人の来ない遠くまで行かせて、雪の中に放り出せば何れ死にますゼ。 ダンナはジジィに手傷でも負わせて、放り出せば宜しいんでさぁ」 と、誘惑を掛けた。 剣に目の色を変え、欲望の拗れから焦れて来ていたルイは、その口車に乗った。 処が、だ。 トルバンは、裏で別の一計を実行した。 盗賊上がりの者を遣って、地方の遺跡に潜伏する盗賊集団と連絡を取り。 老人とルイの始末を依頼したのである。 自分の名前が全く出ない様に、偽名を遣い。 その盗賊上がりの者も、繋ぎが出来上がると悪徳冒険者を雇って始末する。 そして、半月後。 何も知らないトルバンは、老人の始末は出来たと云う話を受け。 遺品回収で、依頼に由り老人を探しに行った3人の冒険者達の持ち物。 ルイの装備品。 そして、老人の持ち出した剣。 全てを回収すべく、何も素知らぬ顔で回収依頼を請けたのだった。 だが、このトルバンの誤算は大きかった。 あの剣が、意思を持った〔インテリジェンス・ウェポン〕だと云う事を知らなかったのだ。 それ故に、口封じで返り討ちにされたのである。        ★ ルイが剣を手に入れた詳細を綴ろう。 北の大陸は、世界でも雪が降り始めるのが早く。 そして、その期間も長いのは当然だ。 まだ、晩秋の〔魔の月〕。 その中旬。 (雪の中をあの馬で行くと為ると、そうは早く行けないな) 地方都市を出た老人を追うルイは、脚の細い馬で出た馬車を見てそう思った。 だが、雪はまだ降り始め。 交易路として主要街道の間で襲えば、何かと自分に不利益が生じると読んだ。 そこで。 老人が馬を休める為に、野営所で休憩している時を狙って声を掛けたルイ。 老人は、一人で孤独な旅立ちをした上に、従者すら雇わないままだった。 少ない語りだが気遣いを見せたルイに、老人はロベラムスまでの護衛を頼んできたのだ。 (やはり、話し掛けて正解だった) 渡りに舟と思うルイは、態と自身の懐の寒さを露呈し。 多くない金を要求した。 冒険者に何かを頼む以上、金無しで頼むのも悪い。 然も、金と云う物が絡めば、一つの契約が成り立つ様に思える。 老人は、戻ったら大金を払う事を約束する。 この契約は、互いに手を握った一つの証で在り。 達成すべき目的が出来た共同体に成った、と云う事に近い意味を生む。 疑い深い者は、疑うだろうが。 助けが出来たと思う者は、安心を得る。 剣を隠し持って出た老人は、安心を得た。 馬車を一人で動かす老人の脇にルイは座り、街道を行く日々を過ごす事に成る。 行商人や輸送する馬車が行き交う街道で老人を殺せば、ルイがこれから生きる上で大きな重荷を背負う。 老人が死んだ事、それを出来うる限り表沙汰に成らない様にしなければ成らない。 今、向かっている古代遺跡ロベラムスには、街道の途中から別の街道に入る必要が有り。 其処までは、 “素直に付き従うままに居る方が良い” と、ルイは思った。 老人は、馬車の何処かに剣を隠していると思えた。 だが、野営をする時でも、老人は剣らしき物を見せず。 また、ルイを荷馬車の中には入れなかった。 さて。 一緒に旅をし始めて2日目。 小雪が時々チラつく街道を行く馬車の上で。 猫背で、衣服に埋もれている様な厚着の老人は、毛糸で編まれた耳当ても有る帽子を被り。 「然し、御宅さんも若いね。 鎧なんかの武装はしてるが、マントだけでこの寒さを何とも思わないなんて」 老人がルイに云う。 ルイは、朝に霜で凍る道端の草が、雪をうっすら被る景色を見ながら。 「故郷を捨ててから、もう10年ではきかない。 幾度も寒い冬は越したからな。 冬の入りでは、寒いとも思わない」 頭に着いた雪が溶け掛けたままに凍る。 その氷を拭くルイは、通り過ぎる馬車に眼を移す。 「そうかい。 流石に、若い」 こう言いながら、馬の走る速度を遅くした老人。 街道を行く他の馬車の上に積もった雪が、街道に落ちるので、車輪を滑らせない様にとの配慮だった。 今の老人と行くルイは、のんびり旅の様で。 “死にに行く” と、老人が云ったのが嘘に思えた。 大体、死にに行くなら、払う約束の報酬がどうなるのか。 普段はあまり人と話さないルイだが。 「御老人。 処で、何の用でロベラムスに? 彼処は、盗掘を目的に来る賊と、腕試しや観光に来る冒険者しか用しか無い場所だと思ったが」 すると手綱を握る老人は、徐に俯き。 「ある物を棄てに行きます」 と、か細い声で云った。 「? “棄てに行く”?  それなら、死にに行くのとは違うではないか」 ルイは、用向きが依頼の名目と食い違うと思う。 然し、老人は少し警戒と云うか、躊躇いを見せながらルイを見て。 「もう巻き込んでしまったから、余計な隠し事はしない事にしよう」 「ふむ」 ルイは、剣の事で何か曰くが在るのかと思った。 老人は、時折に擦れ違う馬車や旅人などを気にしながら、旅立つまでの経緯を軽く語った。 老人は、或る知人筋から素晴らしい武器を払い下げられた。 だが、これには幾つもの不可思議な事があったとか。 その武器の本当の値段からするなら、恐らく数十分の一ぐらいの価格で払い下げて貰ったと思われる。 更に、その知人は、 “剣を、何処か遠くに売り払って欲しい” と、要望をして来た。 「何故に、その様な要望が?」 ルイが尋ねれば。 “その要望の真意は、近々結婚する娘が探しても、決して見つからない様に” との事ならしい。 この後にルイは、老人より質問は控えてくれと言われてしまったので、質問はしなかった。 だが、内心で。 (トルバン殿の云う事と同じだな) と、認識した。 だが。 話続ける老人の様子が、此処から暗く成る。 老人は、その剣を一目で気に入った。 異国の珍しい武器で、噂に聞く処にこの武器を扱うには、剣術に特に秀でた腕前が必要だと聞くのだが。 正しく、その噂に似合う妖しい魅力を湛えた武器だと思った。 密かに保管し、世界に羽ばたく冒険者に進呈し。 商人として、一生に一度の名誉を求めてみたいと思ったらしい。 聞いているルイも、その話が馬鹿らしいとは思えなかった。 昔から語られる冒険者の伝説には、時として武器を譲る商人や鍛冶屋の話も多い。 運命に引き寄せられた様に脚色されて伝わる話だが。 世界に名を馳せる冒険者に武器を譲れる名声は、武器を扱う商人には誇れるものと言われていた。 処が、だ。 老人がその武器を保管しようと仕舞う時、声が聞こえたらしい。 『我ヲ、何処ニ隠スノダ? 我ニハ、確カナ主ガ居ルノダ』 それは、とても不気味な声だった。 何も無い宙を這い蹲る様な声の聞こえ方で、老人は地下の保管庫で腰を抜かしてしまった。 剣を地下に隠した老人だが、不気味な声は夜な夜な老人を悩ませた。 “呪い殺す” と、言われたり。 “剣を誰か、世を渡り歩く人の手に渡せ” と、聴こえたり。 そして。 武器を手に入れ、声が聴こえる様に成ってから、直ぐに不幸が立て続けに起こった。 老人の妻が、保管庫で死んだ。 足を滑らせる様な所では無いのに、頭を強く打ち付けてで有る。 悲しみに暮れ、葬儀も終わった直後。 今度は、息子夫婦の二人が、暴れ馬に蹴られて大怪我をする。 更に、急な不幸続きで慌ただしい中。 老人の大切な孫が、原因不明の高熱を出して寝込んでしまった。 これが、たった半月足らずの間に降りかかって来たのだった。 老人は、方々に不気味な武器の事をそれとなく聞きまわる。 大店の事も、武器の詳細も語らず。 只、聞かれた側からするなら、そんな喋る武器が在るのかと聞き返される訳で。 周りの商人や知人からするなら、老人が立て続けに起こる不幸で、気がおかしく成ったのではないかと噂した。 此処まで聞いたルイは、〔インテリジェンス・ウェポン〕の事を少しだけ知っていたので。 (なる程。 これは噂に聞く、〔意思を持った武器〕と云う奴か。 持ち手を選び、気に入られなければ、何百年でも扱われ無いままに在ると云う物だ。 誰彼に抜けないとは、理由が見えたぞ…) ルイは、愈々まだ見ぬ武器を思って身震いをした。 その武器を扱える様に成り、世界で自分が有名に為る。 その姿が、瞑る瞼の裏で見える様だ。 自分が今まで受けた仕打ちが、全て報われると思える。 この間も、老人の語りは続く。 老人は、武器を誰かに売ってしまいたかった。 だが、人に仇を成す武器なら、おいそれと誰でもイイと云う訳に行かない。 この老人店主は、流石に大店の主が認めた人物だけ有り。 人を犠牲にしてでも、自分が助かろうと云う心を拭い棄てた。 信用を保ちながら、この武器がもう誰も祟らない様にするには、何処かに棄てるしか無いと思ったらしい。 ルイは、もう途中から老人の話を聞いてなかったが。 老人は、危険な武器だと云う事を懇懇と話し続けた。 武器は、 “自分を棄てるなら、老人を呪い殺す” と、脅しを掛けてきた事にも触れた。 街道に望める景色が、冬景色と変わる時期。 老人の話は、何時しか終わり。 が、ルイの妄想は更に続いた…。 ルイと云う狼と、死を受け入れた老人の旅は、更に数日続く。 冬の入りで、寒さに慣れ切らない身体に冷たさは容赦ない。 老人の決意を聞いたルイは、老人が剣を棄てた時を見計らう事にした。 トルバンは、“殺して奪え”と云ったが。 今まで足手纏いを切り捨てて来たルイも、幼い頃から叩き込まれた教えの断片がプライドとして残る。 “見捨てる”のと、“手を掛ける”のは違う。 どちらの行為も、された側からするなら同じ様な事なのだが。 それでも、する本人からするなら、守るべき掟が有る分だけ大きく違う。 ルイも、自分を育てた両親の事や培った教えなどを考えると。 やはり手を掛けると云う最後の一線を超える事は、なかなかどうして出来ないと思いに至る。 現に。 「御老人。 ロベラムスまで、もう少しだ。 馬車を扱う意味でも、体調を壊されるな」 こう声を掛けるルイは、老人を殺す必要は無いと思ってから、奇妙な緊張が解れた。 それ処か、旅に慣れぬ老人へ細かい世話を焼く。 凍った干し野菜や肉を、慣れた経験から少ない水で食べ易い様にしたり。 雪が積もり始める街道上で、馬車の停める場所を夕暮れに探したり。 今までのルイなら、此処までしなかっただろう。 だが老人を殺さずに家へ返し。 こっそりと剣を奪い。 何事も無かったかの如く、この国から逃げる算段を考える内に、老人の世話を自然としていた。 恐らく、この老人の気質が、育ての親である義父と似ていた部分も在るだろうし。 この老人に疑われては、殺すしか無くなる事が嫌だと思う処も在る。 剣を棄てる者と、拾い奪う者の間に、不思議な関係が出来上がった。 然し、この関係も長いものでは無い。 その終焉は、突然に襲ってきた。 それは、二人が一緒に成ってから、八日目の夕方である。 ロベラムスへ向かう街道は、もう何処の国の管轄でも無い。 モンスターの巣窟で在る広大なダロダト平原や、その周辺の山間部に分け入る玄関口で在る為に。 この街道は石造りだったのだが。 今となっては石材も殆ど壊れて剥げ、戦争でも在った様に荒れ果てている。 更に。 街道の一部には、丘から雪崩て来た土砂が盛り上がっていたり。 転がって来た岩が街道のど真ん中に在ったりして、所々で街道の道幅を狭める。 偶に見掛ける丘以外では、街道の周囲に見られるのは荒野の様な周囲の草原地帯。 背の高い枯れ草が残り、其処に雪が降って白い壁を作っていた。 さて、夕方に成ったので、寝泊りする場所を探し始めるルイと老人。 老人が馬車を引く馬に餌を遣りながら、街道沿いに落ちている枯れ木などを探し。 ルイは、ポツンポツンと街道沿いに生える低い木を見たり。 何処かに馬車を隠せる場所はないか、と歩くのだが…。 この薄暗い中でルイは、奇妙な感覚を覚えた。 強いて云うなれば、危険を察知したと云えば良いか。 「御老人、周囲には気を配られよ」 注意を促す意味で、そう云った。 もう、街道を警備する兵士なども居ない領域だ。 何が起こっても不思議では無い。 「はいよ。 此処で死にたくは無いですからな」 老人は、薪と為る木を拾い上げながらそう云った。 そして、それは突然に起こる。 『強者ヨ。 我ガ声ガ聴コエルカ?』 枯れ草の茂みや右側に見える丘の上を見回すルイの耳に、不気味な声が聴こえて来た。 「ん?」 声に気が向いたルイ。 だが、この時に右手側の丘から、人影が飛び出して来る。 「あぁっ!」 その蠢く人影を見て、老人が驚いた。 そう、野党の襲撃が起こったのだ。 だが、ルイの耳には、また声が聞こえ。 『強者ヨ、我ニ従エ。 襲イ来ル賊ヲ、殺セ』 その声を聴いた時だ。 「………」 ルイは、自分の身体の中に、何かが取り憑く様な違和感を覚えた。 別の何かが、自分の中に入って来る様な…。 野党の襲撃に驚いた老人は、大慌てで馬車の下に潜り込む。 一方のルイは、野党の襲撃の先陣を切って丘を駆け下りてきた長身の者に向かう。 夕暮れの暗がりで、彼にはその野党の姿が見えていたのだろうか。 走り寄り、抜き打ちで掬い上げた剣は、長身の賊の喉笛を斬り裂いていた。 (見える…、感じるぞっ) ルイの全身は、一気に興奮した。 今までに無い感覚だった。 夕方の暗がりに紛れて襲ってくる賊が、何処に居るのかが解るのだ。 然も、夜目に慣れ切ったかの如く、シルエットとして人の形まで解る。 そして、何よりも。 (何という手応えっ、これが人を斬る感触かっ!?) 手に伝わる斬った感覚は、今までにモンスターを斬って来た充実感を凌駕するものだった。 人を斬る事に対して感じる充実感は、或る意味で性的な快楽に近い。 剣の一部が肉体を斬る瞬間、電撃に撃たれたかの様な手応えを得る。 「野党共っ、俺が相手だぁぁっ!!!!!」 大声で吼えたルイは、半無心の様な状態で野党を倒した。 その斬って倒した数は、15人。 初めて人を斬る事に成ったルイで在り。 また、斬る快感を覚えた瞬間でも在った。 全身に返り血を浴びて黒く成ったルイは、野党が居なく成った処で老人を探した。 が…。 「あっ、御老人っ」 馬車の下からダラリと伸びる、皺枯れた手が有る。 馬車に飛び付こうとした野党の一味が、二人ほどその近くでルイに斬られて死んでいるのだが。 その片方が持っていたと思われる手製のボロ槍が、馬車の車輪の間から馬車の下に突き刺さって居た。 「御老人っ、しっか…」 老人の腕を頼りに、体を引っ張り出そうとしたのだが。 既に老人は死んでいた。 腹部に槍を受け、ルイが野党を斬っている間に息絶えたのだろう。 処が。 『強者ヨ。 我ハ、此処ダ』 また、声が聴こえる。 「………」 ルイは、老人に謝罪を内心で述べ。 それから、馬車の下に手を伸ばした。 馬車の荷台の裏に、何かが在る。 皮のズタ袋と思われる物に、何か硬く長い物が入っている感触がした。 ルイがその一端を握った時、その硬いものは剣の柄と思われた。 その何か剣と思われる物を引き摺り出したルイは、死体の転がる場所で皮の袋を剥ぎ取る。 すると。 「お・・おぉっ」 真っ黒の鞘に納まり、弓形の反りを見せる剣が在った。 それも、やや淡い漆黒のオーラに包まれながら。 (やったっ、俺は遂にっ!!?) ルイが思う時。 剣からまた、声が聴こえたのだった…。
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