「秘宝伝説を追い求めて~オリヴェッティの奉げる詩~第3幕」仮

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「秘宝伝説を追い求めて~オリヴェッティの奉げる詩~第3幕」仮

《何かを求めて、南西へ。 自由の半島セクタス・アイランド≫ さて。 たった一瞬の出逢いから、包帯を顔に巻いた男の新たなる旅は大冒険へと変わる。 新たなる一時の仲間オリヴェッティと、それに手を貸したKの物語は、魔法学院領土から南西に下る。 其処は、〔水の国ウォッシュ=レール〕からの西の、この辺りを良く知らない者からすると“無法地帯”と認識された半島を含む森林地帯に向かって行く事から始まる。 海旅族の秘宝。 それは、一体何なのだろうか。 そして、逃げた者達の目的は………。        【1】 今、世界は、“余白の5日”と呼ばれる日に居る。 新たな年として〘始まりの月〙から、その次の〘土の月〙に入るまで。 今年は、数年に一度来る閏日に当る、余白の5日の最後の日を向かえた。 東の大陸の北部に在る国と位置付けられる魔法学院自治領。 だが、その南端地帯は“世界の腹”と呼ばれ。 真冬でも、高知や山岳地帯以外は半袖に為れる程の温かさが有る。 この辺りを魔法学院自治領から国境を越えて、南に下った所に広がる大国となる“水の国ウォッシュ・レール”へと向かう街道は幾つも有れど。 何故か、大陸の左、西側では此処を抜ける街道は唯一つしか無い。 そして、今。 晴れた空の下。 土が剥き出して補修と云う整備もされぬ名ばかりの街道を、土煙を上げて走っているものが在った。 それは、幌が付いた大型の荷台を引く、4頭立ての馬車で在る。 その馬車は、明らかに普通の街道を走る馬車の早さに非ず。 土煙すら上げ、まるで何かに追われているかの如く。 然し、馬車の後ろ、遥か彼方まで他の馬車の姿も無い。 何故か、見えぬ何かに追われて急ぐ様に走る馬車だが…。 その荷台には、様々な格好の者達が乗っていた。 衣服がみすぼらしい、移民らしき家族連れの者を始めに。 武装らしい様子もなく、楽器をそれぞれに持つ旅芸人らしき者達。 僧侶、魔術師、剣士と、分かり易い格好をした冒険者達に。 昼間から酒をカッ喰らう様なナラズ者と云うか、悪党風体の男達なども乗っていた。 総勢、二十数人と見える荷台内では、 「あ~、あ~」 と、手を伸ばしたりする子供を抱き寄せながら。 「お母さん、まだ走るぅ?」 と、10歳ぐらいの素朴な感じの少年が居て。 「もう少し、よ。 明日には・・・ね」 これまでの生きてきた苦労の滲む、目尻に皺が出始めた顔をする母親が、気力少なく子供へと声を掛けた。 ガタゴトと揺れ動く馬車の荷台で、何故か会話の声が何処も小声に為っていた。 その理由は、荷台を見回すと直ぐに解る。 荷台の奥、馭者の居る辺りに近い一角には、怪しい目つきで乗客を睨み付けている悪党風体の者が数名居る。 荷台で身を寄せ合う移民達などは、彼等に目を付けられたく無いのだろう。 だから誰もが小声で、然も前をあまり見ないのだ。 そんな人々の居る荷台の後部に、冒険者の一団と思しき数名の目を惹く者達が居る。 この者達の集まりへは、荷台の上に乗る人々が一度は何らかの機会。 いや、興味を惹かれて目を遣ったことだろう。 先ず、その冒険者の一団と思しき者達の中で、特に悪党面の男達から見られている者が居る。 幌馬車の幌が擦り切れた紐の所為で風を含み、膨らみ解け掛かった場所の内側に居る。 青い絵柄の入ったスカーフで顔を隠し。 目元から下を見せている女性が、窺う様に幕の隙間から外を見ている。 右手に、銀色の伸縮可能なステッキを持ち。 新しい淡く黄色のブラウス、翠色のややタイトなスカートを穿く。 その女性は、見るに目を惹く立派な胸を始めに女性らしいラインを身体に魅せている。 褐色の肌、落ち着き座る様子から、大人びた貴婦人とも見れた。 この人物の事は、馭者の間近に座る悪党みたいな輩達がギラギラとした欲望に染まる眼で、幾度となく舐め回す様に見ていた。 1人に成ろうものならば、直ぐにでも攫われてしまいそうな危険さがこの場に漂っている。 この黙って外を窺い視るスカーフを巻いた女性の右隣には、このボロい幌馬車には到底似つかわしくないと思える高貴な衣服を纏う老人が座る。 微かに浮いた鞄の上に座り、顔にシルクハットを被せ黙っていた。 手には紳士用の手袋を嵌め、織り目正しいオーダーメイドの紺色のズボン穿き。 上着の礼服は身体にピタリとし、下に着る白いシャツの袖にはフリルまで付く。 容姿的には、見てからに50代。 だが、少し見える顔や首の皮膚は、もっと老いた様子を窺わせる。 黒塗りのステッキの柄をして持つ手上の先端部分には、銀で象った球体が付いていた。 その、高貴な衣服を着る老人の右隣には、目を瞑り腕を組む長身のやや大柄な老人が居る。 仕立て直したのか、綻びも見えない紫紺の生地に海の女神の刺繍が背に入った、立派なバロンズコートを着る老人だが。 襟の開かれた首筋、腕捲りした手首を見るに、日に焼けた肌をしていて。 その身体つきや座る様子からも、かなり鍛え抜かれた身体を持つ人物と一目で解るぐらいで。 腕や太股などは明らかに筋肉質で引き締まった太さが窺える。 腰には、軍剣仕様の長剣を佩き。 開かれた上着の襟の隙間からは、ベスト型の着込む胸当てが覗けていた。 また、スカーフで顔を隠す女性の左隣。 荷台の最後尾で、荷台の入り口を斜め半分だけ閉める様に掛かった幕の所には。 フードで顔を隠す、少年と思える背格好の者が居る。 スカーフで顔を隠す女性の脇で、鼻歌を歌いながら外を眺めていた。 真新しい鞣し革の黒いズボンに、新調された白いボタン留めの長袖の上着を着るだけ。 武器も装備していないし、防具も装着していない。 旅人か、只の仲間か、知り合いなだけなのか…。 この者達、集まって居る処からして仲間らしい。 前に乗る悪党面の男達を無視しながら堂々と過ごす様子は、不思議と頼もしさも在り。 最初、荷台の中ほどから前に乗った移民の家族が後方に移動した。 だが、この一団には、まだ仲間と思える者達が居る。 この荷台となる車体の真ん中には、荷台の奥から手前までに渡って木の板の腰掛けが在る。 スカーフで顔を隠す女性の対面、荷台の中に渡された木板の腰掛けには。 顔の上半分を隠す仮面を被り、金髪の麗しい男装をした剣士が座る。 この仮面の人物の背後にて。 (この人、男の人? それとも、女の人?) こう思っているのは、脇に吹き鳴らす銀色の楽器を抱えた。 旅人芸人の若い青年で在る。 幌の掛かる荷台の端側に腰を下ろし揺られながら。 この男性か、女性か、初見からには解らない人物の金髪が見える背中を見詰めていて。 自分の隣で、洗い晒しの白いマントに身を包む、化粧の濃い旅芸人仲間の女性に。 (ねぇ、この目の前に居る格好イイ人さ。 男かな、それとも女性かな) すると、やや眠そうな眼をする化粧の濃い女性は、そんな質問は愚問だと呆れて。 (良く見な。 明らかにオンナ) (え゛~っ) 驚く若者は、そぉ~っと少し離れた横からその人物を視た。 然し、この青年が不思議がるのも、確かに無理も無い。 仮面以外から窺えた肌は、化粧っ気も無い割に白く瑞々しいし。 長い艶やかな金髪を、まるで知恵の輪の様に結って垂らす。 妙に人目を引くこの人物は、態度もやや気取った様子なのに、それが当然と思えるほどに格好が付き。 服装も、一見するに男装の様なれど。 艶やかな赤いコートには、花の刺繍が素晴しく。 金属製の上半身鎧を纏い、細剣を腰に佩いて。 金属製の具足、腰宛などと武装した様子は、明らかに冒険者と窺えた。 が、全体的に見れば、確かに女性らしいと見える。 また、この男装の麗人の左隣。 鍔広の帽子を被る、やや大柄な老人の前となる腰掛けの木板には。 この一団を護る様に、全身鎧を着た大男がどっかりと座って居る。 太い首筋に見える日焼けした肌は、筋肉質に引き締まり。 ちょっと面長の顔ながら、細い目や大きい鼻などが、顔の潰れた様な印象を与える老け顔の人物だ。 幌から通る鈍い日陰の光で見えるブラウン色の髪は短く、素朴さも窺える顔から剛直な気性を窺わせる。 背中には、剣の刃が、鉈か斧に似た刃先となる。 通称、“ハンドマチェット”と呼ばれる武器を、何故だか三振りほど背負っていた。 然し、その武器に刃こぼれも無ければ、使い込んだ様子も無い。 恐らくは、極最近に新調したと見えた。 この不思議な一団をも乗せた荷馬車は、何層もの地層が剥き出した断崖の様な断層が、向かう方向の左手の片側に沿う街道を行く。 その断層の上には、生い茂った森の側面が延々と道に沿って続く。 また、断層の断崖と反対側、右側には。 荒野が少し伸びた後、広く広く開けた空の先に向かって延々と続く広大な緑海の森が広がっている。 この幌馬車の走る街道は、俗称が“旧大街道”と言われる。 その昔には、普通に“大陸横断街道”とも呼ばれた大街道の一部で。 森林地帯の広がる山の低い一部を、わざわざ人手を遣って削り作られたものらしい。 処が、この西側を行く街道だが。 今は、何処の国の物でも無く。 従って安全が保たれておらず。 水の国の国境都市“ウォール・シャシャ”まで、完全な無法地帯と云える場所に成る訳だ。 この道、世界の様子を紹介する冊子で見ても、世界でも指折りに危険な街道と書かれてある。 南北の国境の街まで、乗り合い馬車にして大体概ね4日で行くのだが。 途中で寄るのは、自由市場が昼間にだけ開かれるキャラバンの在る拠点の街にだけであり。 毎年、此処を通る馬車が頻繁に強盗や野党に襲われている。 この拠点の街は、最近になってから冒険者協力会と魔法学院自治政府が協力して開いている所で。 此処を襲えば、魔法学院自治政府や冒険者協力会と事を構えると悪党達も知っているらしい。 世界にどれほどの冒険者が居るか。 冒険者協力会を敵に回せば、世界に多数と居る冒険者の賞金首に成る。 そうなる事を恐れてか、この拠点の街だけは諍いは有っても襲撃は無かった。 それでも、この拠点の街を離れたが最後、国境の街まで安全では無くなってしまう。 だが、近年の2・3年ほどの事に限って云えば、襲われる頻度は十中八九の高さとまで恐れられていた。 “何故、こんな街道を、危険を承知で不定期な運搬馬車が出ているのか” その答えとは、他の街道は通るのに通行料が掛かるからだ。 賊を警戒して、絶えず警備隊が街道を守り。 道の途中には、警備隊が守る簡易共同宿泊施設まで在る。 その整備、警備の費用は、“通行料”として徴収される。 従って、その金の都合が付かない者だけ、この危険な街道を行くのだ。 この無法地帯を行く馬車は、昨日に拠点の街に立ち寄った。 然し、“無法地帯エグゼント”と呼ばれる、緩衝区域の森に近い拠点だ。 此処で物を売る商人の面(ツラ)構えは、誰もが一癖も二癖も有りそうな者ばかり。 また、その拠点の街に来る女性も、多くは一筋縄では行かぬ雰囲気を持った女達だった。 そうでない女性は、死人の様な顔色で。 悪い奴の奴隷に成り下がった為、此処へ来させられた者と相場が決まっていた。 さて、荷馬車を動かす年配の馭者の判断では、馬が走り続けても夕方までは何とか疲弊程度で収まる急ぎの足で、この街道を逃げ行く筈・・だったが。 昼下がりの街道上。 馬車の左側に高く有る地層の見える断崖の上で、何かが光った。 それから刹那して。 - キン - 馬に目掛けた筈の矢が、どうしてか宙で弾かれる。 「・・・」 危険な乗り方だが、幌の付いた荷台の屋根に人が寝そべっていて。 その何者かが、軽く手を動かしては小枝を投げ飛ばし。 飛んで来た矢を正確に撃ち落としたのである。 馬を操る、みすぼらしい格好の年配男性となる馭者が。 「おいっ、なんか音したよな?」 と、荷台の幌の上に寝る人物に声を掛ける。 顔に包帯を巻き。 黒く襟のやや高いコートと黒いズボンに身を包む痩せた男は、幌の付いた荷台の屋根に寝転がりながら。 「あぁ、上の森から打ち込まれた矢を、俺が弾き落としたのさ。 どうやら野党ども、襲ってくるみたいだな~」 年輩と見えるヤさぐれた感じの男性となる馭者は、その返答に驚き。 「ひぃぃッ!! 最近の野党は、問答無用で皆殺しするんだぁっ!!」 と、馬に鞭を入れた。 この時、包帯を顔に巻く〘K〙〔ケイ〕と云う男は、削って有った枝の一番長いものを投げた。 投げる手を見せず、軽く手を動かした様な神業で…。 速度を上げた馬車の先頭が通過した後。 幌の付いた荷台の間近に、人が崖の上から落ちてきて転がった。 「うわっ、人が落ちてきたぁっ」 後部の席や、荷台の床に座る客が驚く。 はためく幌の隙間より見えたのだ。 その騒ぎに合わせ、荷台の一番奥に固まって座る悪党風体の数人が一斉に客を睨んだ。 そこへ。 「オリヴェッティ。 荷台の前に居る奴らは、野党の一味みたいだ。 フン捕まえて、荷台から捨てろ」 と、屋根からKの声がする。 悪党風体の一団はその声に驚き。 慌ててナイフや細剣を手にする。 この様子に、荷台の客達が悲鳴を上げたりするも。 顔を隠す者達の中で、一番身の丈が小さい少年が立ち上がるや。 「わぁぁる~い人はぁ~~~、ぶぅ~~っとばす~~。 まほ~で、こぶっしで、ぶっとばぁぁす~~」 こう歌いながら身体に蒼翠(そうすい)の色に輝くオーラを現したのである。 その風の力にて浮き上がったフードの下には、見事な美顔の美少年が、好奇心に溢れた双眸を輝かせていた。 更に、その少年らしき者の脇で。 真っ直ぐ立てないながらに、全身鎧を着る大男が屈んだ態勢の中腰で。 「お前達、自分で飛び降りるのもいい。 それとも、魔法で細切れに成るか?」 と、悪党風体の男達を睨んだ。 その直後である。 少年の声で。 「ケイさぁ~~ん、右に寄ってぇ」 荷台の上に居る包帯を巻いた男は、云われる前に寝そべりながらも、既に馬車の右側に寄っていた。 そして。 「おいおい、荷台を壊すなよ」 と、その包帯男の声と共に、風圧が荷馬車の幌の一部を突き破り。 悪党風体の男数人を外へと吹き飛ばしたのである。 完全に思惑とは正反対の事に成った悪党風体の男達は、悲鳴の様な声を上げて道の上へと吹っ飛ばされた。 馬車も風圧に引っ張られてか、大きくグラついた。 だが、この時だ。 包帯を顔に巻いた男は、最後に声を上げて吹き飛ばされたハゲ頭の男の胸倉を何と、無造作の仕草で掴んだではないか。 「・・・」 「・・・」 二人の眼が、噛み合っていた。 口を空けて唖然とした男に、包帯を顔に巻いた男が言う。 「落とされたら真っ直ぐに、上の森の奥の塒に戻れ。 今夜、俺がその塒に、闇討ちに行くからよ」 禿げた頭のゴロツキが、いきなりの事にまた驚く。 宣言して、“闇討ち”と云うのだろうか。 包帯を顔に巻いた男は、パッと手を離してその男を地面に落とした。 「うわ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁ………」 地面に身体を打ち付けて、激しく転がった男。 この幌馬車への襲撃は、この奇妙な一団に因って免れたので在った。 夕方まで走った馬車は、天然の地下道を利用した洞穴に入り。 このまま朝まで、此処に隠れる事と成った。 夜に成れば、昼間に襲って来た野党達の捜索が始ると。 この辺りの事をよく知る年配男性の馭者が解って居たからである。 さて、隠れる時。 包帯を顔に巻いた男は、この馭者の年配男性や怯える客に向けて。 「此処に隠れてろ。 俺の仲間が一緒に居れば、先ずは大丈夫だ」 と告げて、森の中に消えてゆく。 年輩の顔を強張らせた馭者は、顔を隠すKの仲間に聴いた。 「おいおいっ、アイツは何をしに行くんだ? アイツがもし野党に掴まって此処を喋られたらっ。 隠れてる我々は、直に殺されるぞっ」 だが、包帯男の仲間は、誰一人としてそれは有り得ないと解って居た。 そして、乗客と馭者には、眠れぬ夜が始まった。 仲間、家族で肩を寄せ合い。 煮込んで作ったスープすら、なかなか喉を通らない程に怯えた。 一方、包帯を顔に巻いた男の仲間達は、さほどに怯える様子も無く。 また、乗客達に何を命令するでも無く。 入り口に近い辺りで、壁に凭れていた。 夜に成る。 殆ど雲の無い夜空には、月夜に二つの月が浮かんでいる。 太陽と似た経路を辿る“白銀の月”と。 やや斜め下で、森に入るや見えなくなる“金の月”。 離れている二つの月が、森を明るく照らしていた。 時が過ぎ。 夜が深まって少し冷える真夜中だ。 野党に襲われないかと、馬車に乗っていた客は脅えて眠れず。 穴の中の広い場所で、更に固まっている時である。 「ひぃぃぃぃっ!!!! い・命だけはっ!! ぎゃぁ!!!!!!!!」 男の滾る様な断末魔の叫びが、夜の静寂を破って辺りに木霊する。 洞窟に隠れていた者は、皆が驚いて飛び起きた。 一方、瞑目していただけの屈強な身体つきの老人が、まだ少し被り慣れないツバの広い帽子を直し。 「どうやら、終わったか」 と、立ち上がって歩き出す。 意味が解らない馭者の男は、顔を隠す女性の仲間を捕まえ。 「お前達っ、何者だっ。 何をしに…」 と、抑えた声ながらに問う。 すると、オリヴェッティと云う名前の女性は。 「今まで隠していて、ごめんなさい。 実は、私の仲間の一人がですね。 山賊の退治と、捉われた女性の解放を請け負ったの」 これを聞いた馭者の年配男性は、逆上する程に驚いて。 「な゛っ、バカなっ!!! 女を攫う山賊ってのはっ、ここいらで今一番の勢力を誇るコローダの一味だぞっ!!! 軽く見積もっても3千人以上も手下が居るヤツの所を、一人で襲撃したのかよッ?!!!!!」 この年輩の馭者が驚くのも、実際には無理も無い事なのだ。 此処いら一帯の森に潜む野党の中でも今、最も厄介で。 “暴力と殺戮を一味の総意の旨” こう公言する山賊コローダ一味。 同じ野党等からも恐れられ、この無法地帯でも手に負えない最大勢力だった。 だから馭者の男性は、そんな奴等を退治に一人で行ったなど、俄かには信じられなかった。 だが。 外に出て行った帽子を被る老人が。 「おい、戻ったみたいだ。 それに、客が増えたぞ」 その声に、岩壁に引っ掛けた松明を手にして持つ馭者。 入り口を照らす彼の瞳には、殆ど裸同然の女性がゾロゾロと入ってくるのが見えた。 (と・とと・・取り返してきたぁ・・・。 マジかよ) 合わせて16人の女性達を取り戻してきたKは、最後に洞窟へと入って来て。 松明を持つ馭者を見つけると。 「朝に成ったら、この女達を国境の街まで届けてくれ」 目を丸くする馭者の年配男性は、急に言われた事が呑み込めず。 「“送り届ける”って、どっ何処に? 山賊の女をカッ攫って、どうする気だよっ」 だが、Kはやや気の無い様子のままに。 「安心しろ。 この女達を捕まえていた山賊一味は、完全に潰したし。 上の森の南側を占めてるサロザスは、今日から数日、街道を通る荷馬車には絶対に手を出さないそうだ」 「ま・・マジでか?。 だがっ・・、何処で降ろせばイイんだ?」 「国境の街ウォール・シャシャに着いたら、斡旋所か、役人の居る施設に届ければいい。 全て、どっちにも話が通ってるさ」 と、こう云った。 (ななにぃ、何者だ・・コイツ) 日に焼け痩せた年輩の馭者の顔が、Kを見て混乱を来たす。 今、Kの口から出た“サロザス”と云う名前は、この山の上の森を近年まで占めてきた一大山賊の親玉の名だ。 もう老年で80を超えている上に、何でも身体を壊して病気がちのサロザスが為。 若く凶暴なコローダの台頭を、先頭に立って抑える事が難しかった。 然し、このサロザスと云う盗賊の頭は、何処か律儀で義理堅く。 手下の野党にも、殺し、犯し、拐かしを禁止させていた。 荷馬車を襲っても、馬車と命は必ず戻すと。 一度として、刃向かう相手を除く、それ以外の誰一人とも斬った事の無い山賊として有名だった。 そんな男だから、手下の面倒見が良いサロザス。 嘗ては、大勢のゴロツキが寄り添う事と成る。 然し一方で、サロザスの堅い掟を嫌がった悪党も当然多い。 掟に窮屈さを感じていた腸(はらわた)まで腐ったゴロツキ達は、サロザス陣営の内情を手土産にし。 “何でも有り”なコローダに寝返ったヤツも、実際には多かった。 話を聴いた年輩の馭者は、身震いをする。 (コイツ・・、サロザスの旦那を知ってやがるのかよ。 女達を隠してた塒なら、きっとコローダの野郎も居た筈だ。 奴の塒を壊滅させたなら、そりゃぁ・・・サロザスの旦那も、今夜は動かねぇだろうがよ。 何なんだ・・・、コイツは) 若い頃は、悪党に近い生き方をしつつも。 理由が在って足を洗い、この街道を行く馭者になったので。 この事態には、ほとほと驚くしかない馭者の年配男性。 オリヴェッティと落ち合ったKは、 「朝に為ったら、俺達は此処から西側の森に行くぞ。 エルフやドワーフやホビットの棲む場所は、暗黒街が横並ぶ森の帯を一つ抜けて。 その先、アマゾネスの統治する森の縁を行った更に奥だ。 この辺りは、色々と部外者や侵入者を嫌う地帯だから、面倒事は多いと思え」 と、こう云う。 一方、オリヴェッティは、助けられた女性達に焚き火の前を譲りつつ。 「ケイさん。 救出は、これでもう終わりですか?」 と、尋ね返す。 何故ならば今、助けられた女性達を見てみれば、聞いていた数よりずっと人数が少なかったからだ。 心身をボロボロにされた女性達が、Kの後ろを入ってきて。 そのまま洞窟の隅に行く。 性格の破綻した様な、凶暴な悪党に拉致されたのだ。 売れる女性以外は、もう使い捨ての私物としか思わない悪党達。 そんな奴らにどう扱われても、身体も、心も、傷しか残らないだろう。 先程、断末魔の声が上がった通りに。 Kが、コローダの残党すらも狩っていたのは。 その凶悪さの酷さから、“始末”と云う選択を選んだからだろう。 口には出さないが。 この先、この女性達の行く末まで責任は持てないKだ。 その出来る事は、確かに少ない。 だが・・。 洞穴の広い場所に、放置されたままで残る焚き火燃え残るの跡。 そこに、まだ残っていたスープの入った金鍋を運ぶのは、女性の身の上に何が起こったか良く解ってない少年リュリュである。 「よいっしょ」 無言でリュリュの後に続くのは、旅の僧侶と言っていた中年の男性であり。 火打石で、手際よく火を熾した。 「よ~しっ」 枯れ木を軽々と砕いて、燃えた炭へくべたリュリュは、その火を風の力でほど良い強さまで一気に高める。 その様子をそぉ~っと盗み見るのは、洞窟の違う隅まで移動した馬車の客達。 半裸、または全裸に、剥ぎ取ったかの様なボロ布を纏うだけの女性達を見て。 皆、“何が起こったのか”と覗うのみ。 「・・・」 熾された火を見る女達は、寄り添いながらも何かに酷く脅えていた。 その汚れの目立った陰りの濃い顔のどれも、希望や期待の欠片さえも見当たらない。 獣と成った男達の行う蹂躙と云う過程は、こうも人の輝きを奪い去るものなのか・・。 そう思わざる得ない様子だった。 だが、そんな女性達を前にしたリュリュは、誰と差別はせずに。 大して美味しくも無いスープを、荷馬車付きの木の椀を取って中へとよそう。 その場に、Kも赴き。 朝に為ったら馬車で運んで貰い。 その後は、斡旋所と役人の指示に従えと、連れて来た女性達に教えた。 ずっと後には、自分達も水の国へ向かうので。 “扱いが悪けりゃ文句でも言ってくれ” と、付け足した。 何処か、事務的の様だが。 何処か、サバサバとしている彼だった。 さて、洞穴に入った女性達を護る様にして前に立つ女性が居る。 それなりに歳の行ったその女性は、傷の付いた痕が生々しい痣だらけの胸をボロボロの布で隠しながら。 「他にも、女性は大勢居たわ。 何処かに売られて行ったと思うけど、彼女達はどうするの?」 枯れた木の枝を折るKは、 「ねっ、ね。 はい、はい」 と、一人一人の女性達に対し、スープを差し出そうとするリュリュを見て居ながらに。 「俺が請けた仕事の内容は……」 “囚われている女性達のどれだけでもいい…” 「と、な」 その前に立っていた年配の女性は、仄かな期待が壊れた絶望的な様子で。 「そう…」 と、黙る。 焚き火を見つめ続けるK。 その彼を見る仲間達。 連れ戻された女性達。 そして、その様子を傍観する乗客と馭者。 どれほどの間が流れたか。 時にすれば、短い。 だが、黙った皆には、長い感覚だったが…。 木の燃える音が、洞穴を支配し尽くした・・と。 誰もが思ったが。 「まぁ、大きく期待をされちゃ困るが。 他の女が売られた方面の大方は、聴き出せたから解ってる。 その国外となる方面は、国のやつらが遣ることだが。 ここから西側の森の中に在る暗黒街の一つや二つくらい、こっちも一応は適当に回ってみるさ。 其処にまだ女や子供が居るならば、遣れる範囲で助ける」 と、Kが呟く様に言った。 女性達の前に立つ年配の女性を始めに。 何人かの女性達が、Kを見に少し前へ出た。 家族を囚われ、売り物として引き渡されたのが、街道から西側の森の中に点在する暗黒街。 悪党達が支配する点在拠点だ。 明らかに助けを願う様子を察したKだが。 「何度も言うが、無用に期待をするなよ。 高が冒険者の出来る範囲は、適当に回る・・そんなものさ。 所詮は、風来坊の人だからな」 聞けばいい加減な物言いであり。 助けられた筈の女性の中には、嫌悪に近い視線をKにする者も居る。 そんな彼女達へ。 「大丈夫だよ。 ケイさんは、チョ~~~強いから。 他のオネ~サン達も、助けてくれるって!」 自信に満ち、全く淀みない純真な目を向けそう断言するリュリュが居る。 今、此処に居る訳では無いが。 攫われる前は家族として子供も居た女性も、この中には混じっているらしい。 無邪気なリュリュには、微かな笑みを見せる女性も居た。 さて、女性達の前に立ち、庇う様にしている年配と思しき女性は。 横に居る栗色の髪をして、終始泣きそうな容姿の悪い若い女性を心配しながら。 「それなら、向うの都市で待たせてもらうよ。 悪党達に引き渡された女の中には、アタシの娘も居たし。 此処に残る女達の、大切な家族も居たからね」 すると、女性達を見たKは、短く。 「一応、聞こうか。 名前は?」 と、・・・問うたのだった。 【2 特別話】 «その神の如き強さを持つ者は悪魔か。 悪の蔓延る地へ死神が舞い降りる。 無法地帯の粛清は、急激に発達した無慈悲なる嵐の如く» 南北の縦に長い、東の大陸。 その中で、どの国々に属さない場所が何ヶ所か在る。 その中でも特に有名な1つは。 “自由の半島と古より残る大森林地帯、セレータス・アイランド” この半島には、3つの小国家が並んで存在するが。 この半島3国は、世界の国々から認証された正統国家では無く。 嘗て住んでいた国から離れた貴族や商人が勝手に支配宣言をして、私兵を動かし占住した土地となるものの代表と云える1つが此処だ。 貴族や商人だった者が世界の混乱期に半島を3分割し占領して、勝手に〘国家建国宣言〙をしたのが始まりで。 もう数百年以上も経過して、自治政府としてみなし国家と成ってしまった所。 此度のKの旅は、この半島を含む大森林地帯で繰り広げられる。 “海旅族”と呼ばれた古代の民の遺産を探すのが目的となるが。 その前に、少しばかりこの半島と森林地帯の事を綴ろう。 この場所は、世界の一般的な認識として“無法地帯”と呼ばれて居る事も多い。 世界の民の多くの共通認識として、無法地帯は3国自治政府が支配する半島を含む、その奥の内陸側に広がる広大な森全域と思われている処が在るが。 実際には、半島とその内陸側となる大森林地帯、その全てが無法地帯と云う訳ではない。 今回、Kが或る依頼を請けて壊滅させた断崖上の森に住む悪党の勢力。 また、無法地帯と呼ばれるほどに悪党から世間のはみ出し者が集まる場所は、魔法学院自治領土、水の国ウォッシュ=レールの国境から、半島3国自治政府領土となる半島に向かって森に入った限られた一部で。 セレータス・アイランドの全域から見れば、10分の1にも満たない狭い場所となるのだ。 もう少し厳密に言うならば、この半島の中で悪党に因る最も危険な地域は、半島3国自治政府とは国境ですらなく。 魔法学院自治領土と水の国の国境となるのにも関わらず監視が届かない。 オリヴェッティ達が馬車に乗って移動していた“旧大陸縦断街道”と、その街道の左右に面する国境付近一帯の森だけなのだから。 それなのに、良く事情を知らない世界の国々より、この半島全体が“無法地帯”呼ばわりされるのには、実は古くからの歴史が関係していた。 理由の1つは、やはり今も在る国を裏切り、離反した貴族や商人が勝手に創った国、と云う点だ。 これが大前提となる。 然し、それだけならば、他の国々は無関係でも良い。 そこで、挙げる理由の2つ目は、半島3国自治政府以外と極一部の国を除く、他全ての国に属する商人や国家の船がこの半島の海域を通る時に、普通の国の交易都市で課せられる税の10倍以上は取られる事だ。 そして、この半島は元々、水の国ウォッシュ・レールと東の大陸の南端に在る古代3国と呼ばれる国々の共同管理地だったのに。 その古代3国と呼ばれた国々から離反した貴族と商人がこの地を奪った。 その為、最も距離の近い水の国ウォッシュ・レールからは、一時ばかり完全に敵対勢力地域として公言されていた。 今、水の国ウォッシュ・レールは、世界の各国と概ね良好な国交を結んでいる為。 世界の国々の大半は、この半島3国とは中立の立場として幾らかばかりの距離を置いているのが現状と云う訳だ。 だが、過去から今に至るまで、この半島3国自治領が平和で安定していた訳では無い。 古代3国と水の国より敵対された為に、200年ほど前には、北の大陸では商業大国マーケット・ハーナスが。 また、20年ほど前は、今も戦争をしている西の大陸の中央に位置した国が。 そして、犯罪組織の大手となる悪党組織が、悪どい海賊の一派と一緒に攻め込んで来た事が幾度と在る。 それでも、そう易々と攻め取れない事情が在る。 何度も述べるが、世界の国々からは正式に国家と認められていない半島3国の自治政府領土は、半島として海側に突き出した部分だけで在り。 その内側に広がる広大な森林地帯と、水の国や魔法学院自治政府領土と国境を接する処までの荒野は支配していない。 それは、どうしてか。 実は、この森林地帯の大半は、大昔よりエルフ、ドワーフ、ホビット、エンゼリア等の亜種人や秘境に住む人間部族が集落を創る特殊な領域となる。 この秘境ともなる大森林地帯は、太古の神魔戦争の後に、エルフやドワーフなどの亜種人に、知識の神・自然神など、神々が住む事を提示した場所の1つで。 国々として国家の認証をされた国の法律として、こうした場所を奪っては成らぬと定められた。 その為、この辺りを侵攻して奪うならば、魔法学院自治政府、冒険者協力会、自然信仰王国モッカグル、フラストマド大王国、神聖皇国クルスラーゲから敵対勢力と見られる。 過去に、海賊の中でも悪辣非道となる者達が。 また、悪党組織が、新興国として勝手に国家を創ろうとした者が。 この自然豊かな大森林地帯を含め半島3国自治政府を攻めた過去が在る。 彼等が亜種人達の住む大森林地帯を攻めた時には、半島3国自治政府が。 また他の国が、それを阻止すべく軍事行動を起こし。 正式な国家として承認されていない半島3国自治政府が攻められらば、平和・協調協定を結ぶ亜種人達が協力し。 そして、要請を受けた冒険者協力会や自然信仰王国が軍事協定の元で助力をした。 この複雑な関係が、今にして半島3国を守る壁の様なものを生み出していた。 また、他国が攻め込むに理由とする事は、言い換えればどの国へも当て嵌り。 それを赦せば、自国へも侵略を赦す1歩となる。 自国を守りながら、他の国から助けを得たい国は、彼等を守る側に回る事で自国の優位性を保たせたり。 冒険者協力会政府、魔法学院自治領と良好な関係を築き。 その他の支援国とも関係を築く事を狙って協力している背景が在った。 或る時から平和維持を国家理念として示すフラストマド大王国と神聖皇国クルスラーゲが協調して軍事行動を起こす事で。 他の国への侵略への抑制効果も在る。 そして、冒険者協力会、魔法学院自治政府は、基本的な国家の姿勢として、こうした侵略・争い事には中立を守るが。 大森林地帯セレータスは、神が直に許した亜種人の生活圏。 また、この地は何か理由が在るのか。 それは護るべき理として、この中立を前面に出す2国も戦いに加わる。 この存在が、セレータス・アイランドへの見えない防御壁の効果を高めていた。 セレータス・アイランドの大まかな歴史は、大体こんな所に成ろうか。 では、そんな場所の一部がどうして悪党の巣窟と成ったのか。 大森林地帯より更に内陸へ入る旧大陸横断街道、またそれと二大国家とも国境を接する森と荒地が、本当の“通称・無法地帯エグゼント”と呼ばれ。 悪党の中でも、世界を大手を振って歩けない者、悪党組織には支配を受けたくない極悪人、何らかの理由で世間からはみ出した者が集まる場所だ。 この辺りには元々、森の深部に住み暮らす亜種人族と旧大陸横断街道で行き交う移動商人が物々交換を主とした、キャラバンの拠点が何ヶ所も在ったのだが。 その利益を奪う為、勝手に商人の拠点を占領した悪党達が、攫って来た人を遣って建てさせた建物が次第に増え。 悪党達の立派な生活拠点に成って行った。 それでも、悪党達の元々は、はみ出し者や盗賊集団等で、楽しんで殺戮を行う者は本当に極一部の者だけだった。 だが、この数十年でそれが劇的に変わった。 世界の人口が増えるに従い、更に悪党達が増える。 その事で、狭い旧大陸横断街道の場所に悪党やはみ出し者が溢れた。 そうなると、森の中に入った所で小さな集落を築いていた自然の生活をする人の生活圏を悪党が脅かす。 その内、その集落が乗っ取られて。 盗賊やはみ出し者では無く、移動商人を相手にするのでもない。 本当に、殺す、奪うだけの悪党の集落が生まれた。 殺して奪い、人や亜種人を攫ってモノとして商品にし。 薬物や盗品を奪って金を得て。 その金で悪党を子分として飼い慣らし。 更に人を脅して連れて来ては、死ぬまで集落を築く奴隷にする。 こうして、街道から森に入った辺りに無数の暗黒街が築かれたのだ。 この暗黒街は、確認される推定の見積もりで20拠点を超えると思われていた。 それでも、野盗や盗賊やはみ出し者は、人間としての心を持った者も多かった。 サロザスと云う野盗の首領を始めに、それなりの掟を作って勢力を維持しなから、一方では悪党の横暴を抑えていたのだ。 処が、近年になるとそれが看過できない大問題を呼び込む。 外から来たコローダの様な本当の極悪人が増えた事で、亜種人達の住まう領域。 国境から近い各国の内側の集落が襲われて。 女や子供が攫われ、刃向かった者でなくとも見つかった者は全て殺される。 それが眼に余るも、大々的に討伐行動を起こすとなれば、大森林地帯にも踏み込む事になるだろう。 そうなれば、事前に亜種人達や半島3国自治政府にも承認を得なければ成らない。 もし、この争いで無用な犠牲を出そうものならば、同族の仲間意識が強い亜種人達の恨みを買いかねないし。 半島3国に被害が及べば、これを機に何らかの争いが起こることも考えられる。 その面倒を省く為、パスカよりKは相談を受けて。 また、オリヴェッティから頼まれ、それなりの譲歩を依頼主から貰う代わりに手を貸す事にした。 その手始めと云うか、報酬の支払われる条件を満たす証が、悪党コローダの率いる野党一味の壊滅と彼等に囚われた女性達の救出と言えようか。 然し、断崖の上の森を占拠する悪党達の集落からの救出だけでは、明らかに条件を為したとは思われないだろう。 だから、旧大陸横断街道の西側。 街道の周りに広がる森にK達は踏み込む。 この大森林地帯の内陸側となる縁の森の中には、幾つもの隠れ里と言える悪党集団に支配された暗黒街が有る。 売り物として女性達や子供が運ばれるのは、この辺りが最初となるのは当然だろう。 そして、今やこの無法地帯エグゼントに潜む悪党や野盗達の数は、実際の数として相当なものだ。 推定で3万人を超える。 集まる時は、5万を超える事も在るとか。 この推測は、强ち多く見積もったものでも無い。 広大な森の中心から広範囲の森の奥には、エルフの隠れ里だったり。 ドワーフやらホビットと呼ばれる亜種人が、人と同等の立派な地下都市を築いていたりしている。 また、その亜種人族のテリトリーの外側を囲む様にして、森を支配する武装勢力種族が在る。 有名な種族として挙げられる有名な部族は、女だけの武装集団アマゾネスだろう。 この亜種人やアマゾネスの暮らす森林一帯は、中立地帯として存在している。 だが、支配欲の強い動物で在る人間だ。 然も、その中でも最も身勝手で悪事を生業にする悪党達が居るのだから…。 当然、この中立地帯へは、野党等や悪党達が寄って集って攻め入った事が無数に在る。 特に、エルフ、エンゼリア、アマゾネスの女性は美しく、欲望の強い男達からは目を惹く。 アマゾネスは、まぁ独自の文化を除けば人間の女性だし。 エルフや天使種族のエンゼリアなども女性は皆、美女・美少女ばかり。 性欲を満たし、金を産む道具として狙われ、幾度と悪党の集団より攻め込まれたか。 今だに、誘拐を目論む悪党達は多いし、その攫われた女性を求める世界の人の闇も在る。 これまで、このそれぞれの種族達は、悪党達との戦いには、種族が滅ぼされるほどに破れた事は無い。 エルフやホビットを始めに、ドワーフやエンゼリアなどは魔法が遣える。 人間と同じく、全ての種族が魔法が遣えるのだ。 また、自然信仰の強い亜種人族やアマゾネスだから。 その有事の際に見せる結束力は、非常に強く。 統制もクソも無い悪党達とは、実力が違っていた。 それに加えて、森の中の亜種人が集まる街にも斡旋所が在り。 冒険者協力会は、この地帯の各部族とも強調協定を結んでいる。 悪党達と戦いに成れば、斡旋所に撃退依頼が即座に立てられるのだ。 処が、最近はアマゾネスを始めとする武装部族の砦となる小さな集落が壊滅させられる事例が報告された。 悪党達の数が著しく増えた事や、悪党の中に元冒険者として生きていた者が多く混じり。 魔法を扱う者も比較的多くなり。 数百人から千人を超える兵隊みたいに悪党が組織化し、大勢で襲撃をする様に成ったためで。 不死モンスター等が居なければ、悪党達に森林地帯が占拠されるのではないか……と、懸念が魔法学院自治政府に届けられた。 更に、懸念はそれだけでは無い。 精霊の力と強く結び付く傾向の亜種人が大量に殺害されると。 この大森林地帯の中に在る幾つかの遺跡は、恐ろしいモンスターを封じている蓋の役割も在り。 その亜種人の怨念や精霊の力に暗黒の力が結び付き。 短期間で〔悪魔の穴〕と呼ばれる魔界と繋がる道も開ける可能性が有る。 ほぼ全ての国家や勢力と中立を護る魔法学院自治政府、冒険者協力会、半島3国自治政府など。 北の大陸からは、神聖皇国クルスラーゲが。 また、フラストマド大王国が。 東の大陸では、自然信仰王国が心配をし。 近々、この森林地帯を護る為の軍事的な行動を起こすのではないか、と噂が出ていた。 さて、話を今に戻そう。 “コローダ”と云う大悪党が率いる悪党一味の塒に居た女性達が、包帯を顔に巻いた悪魔の手により解放された後。 無法地帯と成る街道沿いの森の中、方々に点在する様に散る“隠れ里”と成る暗黒街が朝から何者かに襲撃され。 捕まっていた女達が、次々と奪い返されていた。 暗黒街が、次々と大混乱に陥る。 暗黒街の首領や人殺しを平気で行う極悪人が何者かに惨殺され。 囚われていた女性達が解放される。 人攫いの商人が女性達を国境のまちへと運び出す様に、包帯や布を顔に巻くKから脅されて言われて居る間。 その罪故か、人の姿の原型を留めぬ殺され方に怯えた悪党達は街を逃げ出し。 刃向かう者は良くて半殺しか、時に瞬殺された。 だが、奪還と殺戮の連載は留まる事は無い。 一部の暗黒街から逃げてきた悪党が逃げ込む暗黒街に、また包帯男が現れる。 1日・・2日・・3日と。 その奪還劇は続いた。 Kに金を渡すからと命乞いをした者も大勢居たが。 悪党の罪を何故か見定めるKで。 彼の裁量で死ぬ者と逃げ惑う者が択り別けられた。 また、荷馬車に積まれない女性や子供達は、主に亜種人の者だ。 森に住む人の民やアマゾネスや亜種人の女性は、解放されると子供達を守って裸のままでも戦ったり、逃げたりする。 Kは、そこには姿を現して手を出さず。 影に回る様にして、彼女達を守り逃がす。 初日、荷馬車にして5台。 2日目は、荷馬車にして8台。 最後の3日目は、荷馬車にして6台が街道に出た。 最後の1番大きな暗黒街を残し、逃げ出した亜種人やアマゾネスや原始的な生活を臨む集落の女性や子供達は、500人を超えていると思われた。 逃がした荷馬車に積まれた人の女性も含めると、1300人は超えて居ただろうか。 暗黒街が襲われて3日目に成ると、奪還の目的は女性達と理解され。 捕えた女性や子供を人質にして待ち構える暗黒街も在ったが。 本気に成ったKにそんな事は通用しない。 過去、Pと名乗って居た頃は、時に5000人を超える衛兵や軍隊の護る王城へ踏み込み。 狙った王族だけを暗殺した事も在る。 その他、情報が露見して守りを固めた拠点へ侵入し、目的の人物だけを始末するなど何度やったか。 今回も、悪党がオーラ感知を頼んで魔術師を多様しようが。 そんな事を覆す術は知っている。 例えば。 とある暗黒街の外壁となる所で、爆発的に土が空へ削り飛ばされた。 大地のオーラが巻き上がる事で、オーラの質が違うKは感知をされ難くなる。 この直後、見せしめとして最初に殺される筈だった街の中央に集められた人質。 処が、それをを囲む悪党達が瞬殺されてゆく。 絶対的な立場を瞬時に覆されて、大混乱を来す魔術師が魔法を撃てば、それを尽く弾き返して魔術師が半殺しか、殺される。 こうなれば、もう混乱は最高潮だ。 然も、幹部や首領が殺害されてしまうと、司令塔は居ない。 逃げるか、戦うかの単純な2択が真っ先となり。 女性や子供を盾にしようとすれば、もう遺体など原型を為さないものが出来上がる。 短い間にこれだけの事が起これば、もうどうしようも成らない。 その他の暗黒街では、全く誰も認識しない中で真っ先に首領が殺され。 その遺体を確認する間に、新たな犠牲者が出る。 目に見えない形で行われて、どうして良いか悪党達が混乱する間に、女性や子供達が救出されると悪党達は怯えて勝手に四散する。 そして、Kの襲撃で最も酷い例は、生き物を使われる事。 自然の事を理解するKは、特定の臭いに興奮する生物、〘アリ、ハチ、ムカデ、ゴキブリ、ネズミ、ダニ等〙を襲撃に使い。 その方で混乱させると、女性達を逃がして悪党達だけを街に残し。 首領を始めとした殺す者だけを執拗に、然も確実に仕留める。 殺されない側の悪党が、見えぬ何者かの仕業と判る時。 逃げるか、立ち向かって死ぬかの選択をするしかない。 だから、逃げた悪党が他の暗黒街に知らせようが。 魔術師が居ようが。 人質に刃が突き付けられて居ようが、Kの行う奪還の嵐は収まらない。 先に人質を傷付け様ものならば、突如Kが現れ。 首領と幹部へ地獄の苦しみを与えながら皆殺しにし。 人質に傷を付けた者から惨殺する。 自分達のやった事が子供の様に思える事で、悪党達の方が毒気を抜かれて唯の人と化す。 〘悪魔・死神〙 死体の数々が知らぬ間に出来て。 それを確認するやこう叫んで悪党達が怯え。 或る小さい暗黒街では、情報が伝わるとKが来る前、先に悪党達が四散した。 “ヤバいッ! 冒険者協力会が本気に成った!!” “殺される前に逃げようっ! もうこの無法地帯も終わりだ!!” そんな噂が湧き上がる程に、Kの見せつける仕様は恐ろしく迅速だった。 そして、その奪還劇の最終地点は、悪党等に支配される暗黒街の中でも、ここ数年で急成長した一大拠点だ。 夕方を少し前にして、悪党等の支配する最大の暗黒街の筈なのに。 その街の片隅では死神か、悪魔と思しき者に因る、静かなる裁きが行われた。 『“人買い”と“人売り”の市場が、最近に為って異常なほど頻繁に開かれる』 と噂になる暗黒街で。 悪党等の惨殺事件が起こったので在る。 “悪党達に因る”、ではない。 狙いは、この街に集まった、無法地帯の中でも取り分け悪辣な悪党達だ。 実は、Kの暗黒街襲撃の2日目の時点で、何者かが人質を奪還していると、この最大となる暗黒街にも伝わった。 その何者かの襲撃に備え、とてつもない厳戒態勢が敷かれたのだ。 3日目の昼間、緊張感が張り詰めたこの暗黒街では、物々しさで辺りの森から生物の気配が消えたほど。 それなのに…今は、その物々しさは消え失せる。 夕陽の陽射しが暗黒街に射し込む頃には、静けさが暗黒街を支配する。 或る石造建物の裏側には、何人もの悪党らしき者が死んでいた。 攫われ売られた女達を人とも思わない扱いをする業者の中でも特に一番汚い部類に入る売人の男数名が、それは丸で赤いボロ布の様にズタズタにされ。 その流れ出た血が、裏路地となる石を貼った地面を赤く染め上げる。 毎日毎日、泣き叫ぶ女性や子供達の声がして。 それが音楽の様になっていた街だったのに。 今、カラスや肉食の鳥が屍肉を漁る以外、人の声はしなくなった暗黒街。 もう、誰も居なくなったのか。 いや、まだ誰か居る。 それは、魔が降りると云われし夕方の、とても人気の無い路地にて、だ。 最後の人売りにやって来た売人が、売り捌く為にかき集めて来たはずの女達を一人残らず奪われ。 「ひっヒィィィっ! あっ、悪魔だっ! 悪魔が出たぁぁぁぁぁっ!!!!!!」 周りに元の姿の解らない遺体が散乱するのを見て、這い蹲って逃げようとするのだが…。 「あ゛ぎゃっ」 滑ってその場に転ぶ男。 顔やら背中に、立派な自分の顔となる刺青を入れ。 上半身を裸に、襟首に動物の毛が付くジャケットを羽織るだけの悪党だが。 腰の小剣を抜く事も無く、とにかく逃げようとしたのに。 「あ゛っ、あ゛っ、あああ………」 転んで地面に着いた手足には、べったりと赤い血が着いた。 戦慄に強張る口が、身体が、云う事を利かず。 逃げようとした先の建物の物陰を見れば、衣服や髪の毛のお陰で人間と判別が出来た死体が幾つも転がっていた。 「あ゛ーーっ! あ゛あ゛あ゛あ゛、う゛わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーーーーーーーー!!!!!!!!」 これまでに此処へ来て、恐らくはあり得ない光景だっただろう。 暴力で黙らせ女性や子供達を此処に連れてくれば、後は大金を得てホクホクになり。 何をしようかと考えるのみのはずだったのに…。 漆黒の影の様に佇むKは、女達を殴り、蹴って黙らせていたその悪党へ。 軽く放る様に、何かを投げた。 - ズバッ! - 空気を振るわせる音が、棚引く物陰で起こった。 跪くその男の身体が、半分に裂けた。 そして、地面へ倒れる時に砕ける様に散乱する。 この無法地帯の森林の中に隠れた・・かどうか解らないが。 今、様々な意味で有名な最大の暗黒街、〔アラ=ファクト〕。 無法地帯の森に出来た悪党達の街の一つで。 そもそもの出来上がりが、他の街に比べて圧倒的に新しい集落である。 その成り立ちも、凶悪な者が掟も無視した、力と金だけで絶対的に成り立つ街を望んで作ったとか。 この街は、盗賊、山賊、ゴロツキ、無頼など。 とにかく今、悪党達の間で特に際立って有名だ。 “悪党の末路・行き着く最後の場所” 同じ悪党からこう云われる程で。 悪党やらゴロツキの中でも、本当に端にも棒にも掛からない極悪人だけが流れ着くらしい。 この街の存在は、周りの隠れた街でも毛嫌いされた存在である。 何故なら、このアラ=ファクトに住む悪党等は、周りの他の悪党が集まる街すらも平気で襲撃し。 金、食料を奪うだけでは無く。 家族持ちの女だけを奪ったり、暇だと女や子供に赤子だろうが標的にして殺戮を楽しむ為だけに襲撃したり。 そのやりたい放題の様は、他の街の悪党や山賊の間でも、掟云々を無視して国境向こうの国へ売ろうと云う提案が出る。 だが、こんな思惑など高値で取引される情報で。 金でその話がアラ=ファクトへ流れ出れば、次の襲撃の標的にされる始末。 他の暗黒街、亜種人や武装部族などと数え切れない諍いを起こし。 そうした集落を完全に潰しては、力を示して今や暗黒街でも一番の勢力を誇るまでに至ったと云う経緯が在った。 然し、そんな恐ろしい街なのに。 今日は、どうだ。 「たったた、助けてくでぇっ!!」 「死にたくないっ! 嫌だっ、ぎゃっ!」 軽く見積もって、2000人以上の冒険者から身を崩した無頼や悪党が居た筈のアラ=ファクト。 己がやりたい放題したいが為に、彼方此方から集まった悪党共。 それが今、つい少し前まで支配的立場に在った者共が、腰を抜かして逃げ惑うのである。 たった一人の、黒尽くめの男に襲われて…。 “殲滅・壊滅” まさに、この言葉が現状に相応しい。 他の暗黒街とは違い、誰も助からない。 もぬけの殻どころか、生きている者が1人も居なくなって行く様は、無惨な死体と相まってそう言えた。 さて。 その中でも1番に酷い有様は、街のど真ん中に出来た紅い屋根を持つ5階建てほどの円形となる建物だろう。 この建物は、この街に出来た兵舎と言えるらしい。 どうしてこの街に流れ着いたか、魔法遣いと武器を遣う冒険者の様な者で組織され。 他の暗黒街や集落を襲って住人を皆殺しにする、所謂の殺戮兵団といえる悪党の兵隊達が集まる場所だった。 そう、昼過ぎまでは、本当にそうだった………。 だが今は、もう生前にどんな姿をしていたか、それが解らないほどにこの建物に居た人間がズタボロの肉片の集まりと化して。 根城にしていた建物のドアや窓から、肉片と裁断された身体が、流れた血が混ざり、外へ溢れている。 人間をどれほど集めて裁断すれば、こんな風に血と肉片となり部屋から溢れるのだろうか。 その血肉の重さからドアが推し開かれて建物から漏れ出る血が、一筋の細い川となって低い方へ流れて行く。 夕方に成る頃には、この暗黒街の悪党達がほぼ全て、Kに刃向かう事も無く血肉と成った。 夕方を前にした午後まで、悪意や殺意を顔に表し、宛てがわれた女性を一方的に乱暴したり。 その家族の男を死ぬまで力仕事の強制をしたり。 売り物に成らない子供や年配の女性を逆さに吊りナイフを投げてはどれだけ耐えられるかと弄ぶ。 そんな他者を嬲り物にしていた者達は、その罪に似合う姿に変えられていた。 夕日が沈み始め、空が赤くなる頃。 アラ=ファクトの街の外側に、その事をやって退けたKは居た。 嘶く馬の繋がれた荷馬車には、5・60人ほどの様々な格好をした女性達が乗る。 その誰もが生気を失い、放心して涎を垂らす者さえいた。 そして、その馭者が乗る席には・・。 脅える髭面の男が、震える手で手綱を握って冷や汗を垂らしていた。 荷馬車の脇に佇むKは、その馭者の男を見もせずに。 「んじゃ、最後の女達の護送をお宅に頼もうか。 そうだ、先に言って置く。 別に途中で逃げたって、俺は一向に構わないゼ。 テメェの後々に、それが響くだけだがな」 普段なら、煮ても焼いても食えない悪党面をしているこの中年男だが。 今は、脅えるままに、真剣そのものと云える真顔に戻っていて。 白髪が混じる髪や無精髭をも、ガタガタと震わせ頷いた。 「い・いや・・、お宅のっ、いぃ・云う通りにする。 サッ・さろ・・サロザスの旦那のたたた・頼みでぇいっ!」 そう云った中年男に、非常に冷たい視線を巡らせたKは。 「ん~、義理堅いってのは、実にいい事だ。 近々、サロザスの跡目を継ぐ若けぇのが、目に余る悪(ワル)と一矢交えるとか云ってたぞ。 そうなると、テメェも此処に居るより、離れてた方が無難だろう?」 悪党と山賊の争いが起こると知った馭者の中年男は、不恰好な笑みを浮かべ出して。 「うっ、うひ・ひひひひ・・。 この辺のヤツラはさっ・最近、少々オイタが過ぎたみてぇだな。 ま、助けてくれるってなら、お言葉に甘えまして・・ね」 慌てて馬に鞭を入れる男と、それを見送るK。 この馬車を操る男は、惨殺された悪党達の末路を見てしまった。 その後で、馬車を動かして女性や子供達を国境の街まで運ぶ様にKから言われた。 もし、届けずに逃げ出した場合は、斡旋所を通じて賞金首に成ると言われただけだ。 この日までKに脅された馭者をする者は、誰1人として逃げなかった。 日にちはズレても、荷馬車を街まで送り届けた。 これは、後に解る事で在る。 然し、馬車が街を離れても何故かまた、アラ=ファクトの街にKは戻って行った。 この今、〔最低の街アラ=ファクト〕を支配する領主とは、とにかく残忍で金と女性に汚い人物だ。 人売りで得た多額の金で、腕の立つ剣士や魔法を遣える男を多数雇い入れ。 その者達を兵として組織化し、人の所業とも思えない殺戮をしてこの街の主権を乗っ取った。 以後、この街の支配者となったその男は、今日まで似たような性格の悪党コローダとつるみ。 旧大陸横断街道を通る馬車を襲っては、通行人を皆殺しにして金品を奪ったり。 子供から含め女性を攫って方々に売り飛ばしたり。 弄ぶ為に殺す、使役の為の人身売買と云う商売をかなり手広くしていた。 それがこの日に、突然だが終わったのだ。 街の中央の北側。 監獄の様な塀に囲まれた、木造の立派な館が在る。 その3階にて、でっぷりと太った白髪の男が、裸体で気を失っている少女をベットに残し。 顔に巻く包帯を外から射し込む赤い陽に染めた男に、一歩一歩と迫られていた。 「ヒィィィィっ!!!! たっ・しけ、助けてくれぇっ!!!」 左右に向いて、大声を上げる領主を見て。 実に詰まらなそうな視線を包帯の隙間から見せるKだ。 「悪いがな。 態と大声を出しても、此処には誰も来ないぞ。 下に居た護衛の野郎達は、もうこの世に居無ぇ。 街の真ん中に集まってた1000人近い武装した奴らも、見た目すら解らねぇほどに微塵に変わった」 白髪になった髪を短くし、肉体だけブヨブヨとした男。 アラ=ファクトの首領をする〔カバンダス〕は、指にいっぱい差したデカい宝石の付いた指輪を慌てて引き抜きつつ言う。 「たっ、頼むっ!!!! 金なら幾らでも出すっかぁらぁぁっ、オデの用心棒に為ってくれっ!!!! ア・アンタならっ、んっ、一億シフォンでも安いっ!!!!!!!」 人間大に丸々と太ったヒキガエルが、汗だくで口をパクパクしている様な…。 そんな感じをKの目の前で演じる太った男のカバンダス。 包帯の隙間から、その様子を冷ややかに見るKで。 「そういや~お前よ。 話し合いと称して呼び寄せたサロザスとその部下を、毒で殺そうとしたらしいな。 お前の息の掛かった裏切り者が用意した酒を少量呑んで、毒に気付いた後に逃げ出したサロザスは死ななかったが。 毒の後遺症で身体が不自由になった。 そんなサロザスを、お前は良くこの屋敷で笑ってたとか」 Kに睨まれ、蛇に睨まれたカエルか。 脂汗を流すカバンダスは、首を傾げて引きつった笑みを必死に浮かべ。 「はいぃっぃ? わわわわわたくしはぁぁ、そなんことしてななな………」 その、呂律も回らなくなってきた男を見下ろすKは、その冷たい目を微笑みに変えて。 「あの世に行く前に、一つ教えてやる。 サロザスと俺は、過去のとある悶着で知り合ってな。 そん時の事で、お互いに貸し借りが有るんだ。 だから、お前みたいなド腐れ野郎に金で流されるには、到底無理な大き過ぎる義理が有るんだ」 こう語るまま踵を翻すK。 抜く手を見せずに持った一番刃渡りの長い短剣に、血の一滴すらも付けずして。 「あばよ。 ・・あ、俺の好意で先に教えてやろうか。 焦って動く分だけ、早く死ぬゼ」 剣を仕舞うKは、カバンダスの指から抜かれた指輪を広い集め。 ベットの上に裸体で横に成っているうら若い女性をシーツで巻いて、外に連れるべく抱えて去ろうとする。 その中で。 「あひぃっ、手がっ・手が取れたぁっ!!! あっ・あびっ・あしぃがぁっ! 落ちたっ、指が、向こうにぃぃぃこ、転がっでぇぇい゛ぐう゛ぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!!!!」 絶命の叫びを上げ続けると云う、矛盾。 それを可能にした男の発する断末魔の悲痛な言葉が聞える。 Kが女性を抱え、部屋を出て階段を降りる頃には…。 「たぁぁぁしゅぅぅぅぅげぇぇぇぇてぇぇぇぇ………」 呼吸困難に陥った様な感じの助けを求める声がして。 その後に・・“ビシャ”っと、何かが床へ落ちた音がした。 その後に、カバンダスの言葉は無かったが。 Kは無視して、階段を降りて行った。 そして、その後の夜の帳が下りる頃。 「ケイさん。 終わったぁ?」 もう顔を隠す布を取ったリュリュが、シーツに包まれた女性を連れて来たKに近寄る。 「あぁ、もう終わった」 金髪を知恵の輪の様に結って下げる剣士ルヴィアは、抱えている少女を見て。 「助けた女性の全ては、国境の街に送る手筈では無かったのか? 何度も、森の奥へと逃げる女性や子供が居たぞ」 「いやいや、中にはアマゾネスや自然信仰を基本とする森の民も居たし。 亜種人の女や子供も多かった。 この奥の森の住人は、そっちに逃がした方が早い」 「ん? あ、それで大丈夫なのか?」 「確実とは言えねェが。 然し、彼らからすれば森は、慣れ親しんだ庭と変わらないサ。 一々国境の街に連れて経緯を説明をして、それから森の各集落へ帰すのは骨が折れるぞ」 「そうか……。 だが、何故に、この娘だけ抱えて来た?」 「それが、見ろ。 あの街の首領と言った野郎め、エルフのこんな若いオンナにまで手を出してやがった。 まだ歳も13・4だろうに」 魔法の明かりを指輪に灯して、白いシーツに包まれた女性を見るウォルターが。 「フム・・この尖った耳。 太陽の光を思わせる美しい金髪。 鼻の細く高い様子といい、確かにエルフそのものよな」 Kは、そのエルフの少女を見下ろしつつ。 「この娘、純粋なエルフと見える。 もしかするとエルフの里の住人じゃねぇのか。 それとも、何か策謀が絡んでの事か…。 ん・・何で捕まったか、な」 こう言った後、上の月を眺めて。 「しっかし、困ったな。 囚われていたアマゾネスやエルフの子供に他の亜種人の娘は、俺が見付からない様に逃がせたが。 この娘は、薬で深く眠ったまま。 揺すっても起きねぇ様子からして、朝までは起きれねぇ」 美しい少女を眺めるリュリュで。 「どぉーーするのぉ?」 「ん〜、この辺りでエルフが住むとしたら、この先の森の中に在るエルフの里か。 近い都市では、〔地下都市エリンデリン〕だろうよ」 「じぁっ、そこに行こうよぉ。 キレいなオネ〜〜さんがいーーーっぱいでしょっ?」 「お前なぁ」 女性が大勢居ると察して喜ぶリュリュ。 それに何でか嫉妬するオリヴェッティは、リュリュを抱き締めて避けると。 「ケイさん。 そのどちらかへ行くのですね?」 すると、面倒臭そうに他所を見るKで。 「ん"〜。 半島3国領土に近いダークエルフの里ならいざ知らず。 エルフの里は、ちっと行きずらいンだがなぁ」 腕組みしたクラウザーは、この男に行きずらいとは首を傾げる。 「何か、訳でも有るのか?」 こう問えば。 「いやぁ。 あのエルフの里の女王にな、見つかると面倒なんだ」 と、また面倒臭がるK。 この返しで、クラウザーはピンと来るモノが有り。 「おいおい、カラス。 お前って奴は、こんな場所でもおイタをやらかしてたのか?」 図星だったのか、バツの悪そうなK。 「うるせぇよ。 色々と在っただけだ」 「で? なら、その娘をどうする?」 「ったく、起きてりゃ他の女と一緒に逃がせたんだが。 強力な睡眠剤を飲まされ、このザマだ。 仕方ないから亜種人の集まる〔地下都市エリンデリン〕辺りまで連れてって、同族の者に保護して貰うか」 「その後は、どうするンだ?」 「エルフは、同族の仲間意識がとても強い。 今の彼処の斡旋所に居るのは、確かエルフの血を引く女だと思った。 どうせこの1件の経過情報を聴かなきゃならん。 主に保護さえさせれば、後は勝手に帰って貰えりゃイイ」 男装の麗人であるルヴィアは、そのいい加減な様子を見るに、呆れ果てたと云う様にして目を細め。 「こんな場所でも誰かに恨まれるとは。 御主、一体どれだけの非行を世界中で重ねているのだ?」 すると、Kは他所を向き。 「フン、向こうから誘われたから、ちっと激しく食ったまでだ。 ・・さて、行くか」 と、素っ気無く。 すると、聴いていたリュリュが面白がって。 「食った~、食った~、僕も何時か食ってみる~~~」 楽しそうに歌い出し。 その物言いに過剰反応したオリヴェッティから怒られる。 それでも、叱り方が甘い。 リュリュはオリヴェッティに抱き着いて笑っていた。 その方面に全く疎いビハインツは、悶々と何か考えながら歩くのだが。 「この男にして、その程度なら当たり前だな」 と、漏らすクラウザーと。 「フム、流石に我が友。 我が色艶の思い出も掠れるが如き」 と、讃えるウォルターが居た。 K以外の皆、この3日間はアラ=ファクトを含む暗黒街より遠く離れていて。 各暗黒街で起こった事を直接は知らない。 魔術師の2人とクラウザーは、森の中を逃げるアマゾネスや亜種人が大丈夫か、彼等を遠目から見守る役目に在った。 それでも、魔術師のオリヴェッティやウォルターは、暗黒街の中に満ちる人のオーラが消える事で、悪党達を始末した事は解っただろう。 だが、どんな殺し方をしたのか、それまでは知らない。 また、大男となる傭兵ビハインツやルヴィアやリュリュは、Kが逃す女性達の積まれた馬車が街道方面に行くか。 森の中から見張って居たが。 どの馬車も真っ直ぐに南方か、北方面の街へ目指して馬車を走らせて行く。 この様子を見定めた後で、クラウザーやオリヴェッティ達に会うと。 ビハインツは首を頻りに傾げては。 “平気で人を攫って売ってた奴らが、何でケイの云う事を聴いて女性達を街まで連れて行くのかね。 金か、罪でも許すとか、美味い事を言ったのかな” 遠くの暗黒街を眺めているクラウザーにこう言った。 その意見を軽く肯定して遣ったクラウザーだが。 本心では……。 (あのカラスの本気となる怒りに触れて、言う事を聴かない奴が何人居るか。 多分、問答無用で殺された奴は、まともな姿じゃねぇな。) こう思ったが、思っただけにする。 Kの恐ろしさは、普通の者には到底理解は難しいからだ。 それに、このアラ=ファクトの街に住む悪党達だけは、それぐらいの罪に問われても情けは必要無いと思った。 それほどに非道な者達と、あの街道の途中で寄った拠点の街で話が聴けた。 人を人と思わない処か、虫けら以下にしか思わず。 他の街の悪党ですらゴミの様に扱っていたらしい。 何より、街道を行く馬車の襲い方が、他の悪党とは違っていた。 奪い返した女性達が怪我人ばかりと言うのも。 家族を持って居たハズの女性達が、もう一人と嘆く事からして。 その襲撃の酷さが窺えた。 夜に成るとアラ=ファクトの街では、森の中で度重ともなる様々な獣の鳴き声が遠くまで木霊する。 また、夜なのに鮫鷹の仲間や吸血蝙蝠のモンスターが森の空を無数に飛んでいた。 そこから離れず、常に舞っていて。 数がどんどんと増える様子から、どうも大量の餌にありつけたらしい。 他の暗黒街では、少数の者が戻って遺体を片付ける。 それでも血の臭いは消せない訳で、肉食の生物やモンスターの襲来に備えたが。 今宵は、何故か呆れるほどに静かで。 金蔓となる人質が奪われた以外は、生き残った何割かの悪党からすると命が残っただけでも有難い処か。 只、悪党として街を守ろうにも、極悪なる首領の全員は殺された。 また、人殺しに喜びを見出す様な者も死んだ。 こうなると、暗黒街の新たな首領に成る事を考える者も居たが。 余りに衝撃的な事が起こって逃げ出す事を考える者が多数だった。 このとてつもない殺戮と恐怖の象徴は、真っ先に壊滅されられたコローダの塒を見れば判る。 それは、Kが奪還に動く2日目となる時か。 旧大陸横断街道の断崖の奥。 断崖上の森の中に築かれたコローダの塒に、杖を突いたサロザスと云う片目の老人と。 大柄で体格の立派な男性を含む2000人ほどの野党が踏み込んだ時に。 その開けた建物が在る一帯を観て、戦闘の意欲が消え去る処まで消沈した。 サロザスの後釜を次ぐ大柄な30代と思える男性は、精悍な顔付きに一抹の美男さが整うイイ男の雰囲気を持つ人物なのだが。 辺り一面に血肉がばら撒かれた様な景色が広がっていて。 「あ・あぁ…、カシラ。 これ、は・・なんで・すか?」 その残虐行為の現場を眺めるサロザスは、新たな頭目・首領となる若いリフティノンへ。 「リフよ。 覚えておくがいい。 あの顔に包帯を巻いた男は、誰からも恐れられた者で。 悪党組織から死神と言われる。 その実力が、コレだ」 「し、死神っ?」 「あの男は、世界の斡旋所の闇に眠る極秘な依頼をこなして回った男でな。 数千・・いや、時に万の軍勢が守る城や屋敷に単身で踏み込み。 誰1人にも見つからずに、狙った者のみを殺す事もして退け。 時には、5000人を超える悪党が集まった街を一夜で無人に変えた」 「ごっ、5000を1人で、一夜の内にっ?!」 「あぁ。 少し前は、闇の冒険者として生きていた頃は、コードネームとして〘P=パーフェクト〙と名乗って居た。 今は、その家業を捨てたらしいからな、K〔ケイ〕と名乗って居る様だが…」 「そ、そんな男と知り合いだったンですか?」 「知り合いと云うよりは、腐れ縁だ。 あのケイは、世界の彼処此方で悪党組織と事を構えて居てな。 俺は、壊滅を逃れる代わりに、奴へ情報を与えていたのだ。 逆らえば、この通りだからな」 「カシラ。 この後はどうしますか?」 「この塒を漁って、持ち帰れるものは持って帰る。 ケイとの約束だ。 コローダの持ってた秘密は、他国へ返すさ。 真っ当さを捨てれば、次は俺たちがこうだ」 「あ、はい」 こうしてコローダの塒を家捜しするサロザス達だったが。 もうKは居ないのに、生きた心地がしなかった。 例えば、この塒の真ん中には、人を焼き殺す為の焼却場が在った。 太い金属の棒が乱立し。 その下には薪を焚べる窪みが在る。 20人以上の人を棒に縛り付け。 火を付けて焼き殺しながら、ナイフや矢を撃ち込んで殺戮を楽しんで居た場所だ。 処が、今は其処に血肉が腐り始めて溢れている。 5人や10人の血肉では無い。 どうやったか、それは解らないが。 この場に集めて悪党達を皆殺しにしたらしい。 その他にも…。 木造の或る小屋に踏み込めば、跪く悪党が固まって居る。 子供と弟をコローダに殺された女性の野党が、その黒ずむ男の肩に手を伸ばし。 「おいっ」 と、触れた瞬間だ。 ﹣ グシャグシャ ﹣ 人が解れる糸の様に砕けて、その場に山を作った。 「あ・・嗚呼っ!」 驚く彼女に、入り口より様子を見ていたサロザスが。 「ランテ、外に出ろ。 此処は、もうイイ」 「はっ、はぁっ、は、は・・」 返事も出来なかった女性だが。 仇を取る必要が無くなったとも思って外に出る。 暖かい陽射しは、浴びると汗が出るほどなのに。 本日は、サロザスの部下となる野党達は時に外へ出て陽射しを浴びる。 心の底から怯えて冷えた身体を暖める為に…。 この後、サロザスは奪われた物で他国の重要物や貴族の品を返還した。 周りは、彼を真の義賊と称したが。 そこには、少なからず恐怖が混じっていた事は否めないだろう。 コローダの塒も吸収したサロザスだが。 魔法学院自治政府に対し、僧侶の1団を依頼として派遣する様に頼んだ。 浄化をしなければ、とても利用などしたくないと思ったのだろう。 逆に、魔法学院自治政府からは、旧大陸横断街道の荷馬車や乗り合い馬車の運行等を任せる傍ら。 野党からの脱却を提案される。 野党達は、違う生き方の選択を提示された訳だ。 こうして、〘無法地帯エグゼント〙は、名ばかりの廃墟に近いモノと成ったのである。 コローダ一味の滅亡も含めて、たった5日間の事だった。 此度は、Kの狂気とPの時の本領が発揮された。 後からこの場所に来る冒険者協力会の一団は、暗黒街に広がる惨状を見てどう思うのだろうか……。 【本編へ】 さて………。 無法地帯エグゼンドに途轍もない殺戮の嵐が吹き荒れて。 それから半日が経ち。 Kとオリヴェッティ達は、どうしていたか。 森の中でも、突き抜ける様に高い木が所々に存在する。 その巨木の下で、大きな根の上に寝そべるKと。 その下の地面で休むオリヴェッティ達。 軽く眠った皆だが。 やはり、暗黒街の間近に居た緊張感は中々に解れ無い。 一人、また一人と目を覚ますも。 まだ、エルフの少女は眠ったままだった。 ぼんやりするビハインツは、森の中が薄ら明るく成るのを見ている。 (朝、か…。 ふぅ。 悪党の退治も、時に冒険者への依頼に来る事が有るって聴いたけど。 こんなに緊張するモンなんだなぁ〜。 今回は、ケイがやったからイイが。 俺は、悪党でも人は斬りたくない…) エルフの少女を傍らにするルヴィアも目を覚まし。 (朝か? ん、もう直、陽が見上げるほどに昇るな…。 嗚呼・・救出された女性達は、無事に街へ着いただろうか) こう思って、まだ眠るエルフの少女を見る。 (モンスターも恐ろしいが。 人を人と思わぬ人間もまた、モンスターの様に恐ろしいな。 あのケイは、悪党達にどんな始末を着けたのか…) まだ若い2人は、同じ人間の悪との軋轢に心を悩ませる。 その間、ウォルターとクラウザーがKの近くの盛り上がった根に座って居て。 ウォルターより。 「クラウザー殿」 「はい?」 「船長として生きていた時に、このセレータス・アイランドの半島3国の所を通るのは、面倒が偲ばれるモノなのでしょうな」 「そうですな。 半島3国より下へ行くには、半島3国の海域を通らねば成りません。 前も申したと思いますが。 高い税を取られるのが何とも」 「ふむふむ、80000シフォンとは、懐に痛い。 実に、痛いですな」 「えぇ。 ですが、半島3国より下となる海岸沿いの街に用が無いならば、皆が陸路を選ぶのです。 魔法学院自治領内を荷馬車で繋ぎ、陸路で水の国へ」 「なるほど…。 では、誰も半島3国の海域を避けて、大きく迂回しては行かぬと申されるか」 「いや、ウォルター様。 其方を選ぶのは、正に死へ向かう様なものですぞ」 「ほう」 「半島3国の海域の外側となる海を通ろうとすれば、モンスターの蔓延る小さな諸島郡を抜けなければ成らず。 その先は、海流の複雑な〘巨大渦潮〙〔通称ボルテクサー〕が暴れる所。 もし、奇跡的にそこを抜けたとしても、その先は海賊が無数に暮らす諸島郡へ。 一難処か、三難も、五難も、いや無数の危険を回避しなくては成りません」 「ほほぅ、それはそれは恐ろしき道のりですな」 「はい。 命が幾つ有っても足りませんからな。 更に南へ下るならば、高くとも税を払った方が安上がりなんですよ」 「確かに、確かに…。 ですが、素人の目より地図を見ますに。 大きく迂回して大陸の南端。 古代3国の方から回り込む手段も有る、と見えますが。 其方は、何故に誰も?」 すると、クラウザーが手をヒラヒラさせて嫌がり。 「ウォルター様、それもまた大事です」 「ほう」 「あの古代3国は、フラストマド大王国の次に古い国々と世に知られていますが。 ほぼ完全に経済以外の鎖国政策をしております。 あの3国の海域に商船が入ると、海上を見張る軍船に捕まり取り調べを受けた上。 交易商船ならば、積荷を取り上げられますし。 商業客船ならば、罰金と云う多額の金を奪われます」 「何とっ?! あの古代3国の法とは、そんな横暴なモノなのか」 「はい。 然も、どの方向から古代3国の海域に向かうにしても、途中に補給地点となる交易都市が無く。 海には、不確定となる危険が山積みとなっております。 此方もまた、命が幾つ有っても足りません」 驚くウォルター。 だが、クラウザーの言っている事は、事実だ。 これは、少し前にKが言った情報となる。 “半島を支配する自治政府3国は、東の大陸の西側となる海上を行き交う船が立ち寄る事で、商業の中継国家として栄えて居る。 この半島から半島を通らずに南部に行くには、様々な難関を幾つも越える必要を迫られるンだ。 最も知られた難関の1つは、海賊達の占領する大諸島群の近くを通らなければならない事。 然し、難関はそれだけじゃネェ。 半島3国の海軍が全く監視もしない海域外の諸島郡は、嘗て〔悪魔の穴〕が開かれた場所の1つで。 大きく結界で封印されているものの、その中の領域に入ったが最後。 休む事なく5日から10日は、モンスターとの激戦を強いられる。 そして、その先は常に大荒れの海が広範囲に広がるンだ。 ンで、その先が武装した海賊が待ち構える訳だ。 高くとも、税を取られた方が安全って訳だ” このKが言った説明は、納得の行くものだが。 ビハインツは、もう1つ、疑問に思っている事が在った。 それは、この半島3国から南に向かう時、どうしても自然信仰王国の港町まで行く間に、数日間は補給の効かない海域を、海賊に怯えながら行かなければならない事。 大陸の海岸に沿って下れば良いのに、何で海賊の見張る海域まで近づかなければ成らないのか。 この質問にも、Kがクラウザーと答えを返した。 “半島3国を大きく迂回しようとすると、かなりの補給を必要として最悪の難路を行かなければならないが。 この半島3国でどの船も確り補給をする事にも理由が在る。 実は、半島3国の海域を抜けてから最短の海岸間近を行く海路は、自然やモンスターの脅威が恐ろしく通れない。 特に怖いのは、海の中の岩場に、大小の無数もの穴が空いていて。 その所を抜ける、吐き出される海流に因り、渦潮や突き上げる波が暴れる。 こんな所を船が通れば、どうなるかは解りやすいだろう。 だから、半島3国を抜けてより大陸の中南部に向かうには、大きく迂回する航路を通らなければ成らない。 こうなれば少しばかり補給が高く付こうとも、補給をする船が半島3国には多く来る。 その補給基点として拓く交易都市に立ち寄る船に多額の利用税を課し。 その税金で兵器の充実や軍備増強をして来た3国自治政府だ。 過去に、何度も悪党達から、海賊から、他の国から攻められても守り抜いて来たのさ” だそうな。 それから少し、雑談をするクラウザーとウォルターで。 それが耳に障ったか、Kも起きた。 「老人は、朝が早ぇな…」 クラウザーは、寝ていたKを見返し。 「この緊張した数日間を経て、ゆっくり眠れるとはお前ぐらいだ」 「フン。 悪党は粗方だが潰したんだ。 見張りを交代で遣ってりゃ、安全は確保されてるだろうがよ」 こう言ったK。 その話は、体感としてクラウザーは理解が出来た。 何度か、人から聴いた話だと。 エグゼントの周りの森では、アマゾネス以外の森の民は、森林地帯の中ほどへ追いやられ。 アマゾネスや戦闘の出来る亜種人が住む集落や街以外は、悪党達の縄張りと化しつつ在ったらしい。 なのに、この今まで逃げ惑う悪党すら見掛け無い。 Kとリュリュ以外が緊張していたのは、そうした逃げる悪党。 森を動いて見つけた亜種人や人の民を襲う悪党と出会す危険が有ると知っていたからだ。 (カラスは、かなりの悪党を始末したらしいな。 逃がされた女や子供を追い掛ける悪党が居ないのだ。 そうする者が居なくなるまで………) ウォルターも、その事については一切触れない。 此処に、下の地面からルヴィアが。 「なぁ、ケイ」 「何だ?」 「半島3国は、この辺りから先の森まで領地を持ってないと前に聴いたが。 悪党がこれだけ居たならば、半島3国の政府も悪党に気を使っていただろ?」 「いいや」 「何故だ?」 「半島3国の自治政府領土内は、他の国と変わらぬ街道警備が為されており。 世間的に云う“無政府状態”とは、とても同じとは言えない。 海路は、言わずもがな。 モンスターの襲来を撃退し、海賊の横行をも許さない警備体制が在り。 その高い安全性を認識するからこそ、船を持つ商人達も高い税を解っていても払う。 処が、半島から内陸に入った広大な森林地帯は、亜種人の生活圏で在り。 半島3国自治政府も勝手には手を出せない。 亜種人は、世界的に見れば人口の数は少ないものの。 彼等は人よりも魔法に長けた種族が多く。 その混雑した生活圏を護る為ならば、彼等は素早く団結して反抗して来る。 この状況を半島3国自治政府は逆手に利用し、彼等を緩衝役にする事で内陸からの侵攻を防いで来た。 森林地帯に侵攻の手が入れば、即座に協力すると言う密約を結んでいるがな。 その反面か、大森林地帯から内陸側の事には干渉しない様にしている」 「そうか。 セレータス・アイランドと言っても、その統治はマチマチなのか」 「そうだぁ」 「ふむ。 然し、そうなると。 やはり、私は解せない。 魔法学院自治政府も、水の国も、どうしてあの旧大街道を警備しないのか」 「それは、その面倒さがとんでもないからだ」 「“悪党”の存在、それ以外に、か?」 「そうだ。 この大森林地帯には、様々な固有生物やモンスターも生息する。 そして、この広大な内部の一角にはな、嘗て、この場所に来た人間が生み出した途轍もない危険な場所となる遺跡も幾つか存在する。 それに加えて昔より、亜種人達やこの広大な森林地帯を狙って悪党が、他の国家が侵略しようとした経緯が有ったり。 国の支配から逃れた貴族の勢力が。 悪党集団が。 国境から追われて逃げ込んだりしたのが、魔法学院自治領土と水の国の国境地帯となる荒野から大森林地帯の内陸側の縁で。 そんな奴らが住まう事で、モンスターや自然の脅威と戦う事で膠着し。 そんな場所を荒らせば、亜種人達から危険視される事なども考慮され、魔法学院自治政府も踏み込まなかった」 この話に、魔術師のウォルターが反応する。 「友よ。 それは、過去の何らかの悶着が有った結果か?」 「当然、前例は有るさ。 今は、魔法学院自治政府と水の国は、国家間の関係性も安定しているが。 その昔の一時は、セレータス・アイランドの事で緊張感がビリビリしていた頃も有った」 ルヴィアは、素早く反応し。 「それは、真にか?」 「まぁ、原因の大元は、古代3国の恐ろしいまでの支配的な絶対王政と貴族至上主義が嫌になり、半島を奪って支配した貴族や商人に在る。 だが、過去の奪われる時までは、水の国が今の半島3国の遣っている様な事をしていた。 寝込みを襲われる様な感覚だろうが、半島を彼らに奪われて、利益と面子を潰された水の国は、半島3国の土地を奪い返す為か。 その昔、大森林地帯を併せて攻め取ろうと考えた」 「あ、・・何と」 「いや、戦術としては、確かに正しい。 援軍を断つ意味でも、包囲するにしても、大森林地帯を押さえるのは理に適っている。 一応、魔法学院自治政府は他国間の諍いには一切の干渉をしない姿勢を貫くが。 例外も在り。 古代よりの神の教えや存在は尊ぶ」 「それが?」 「魔法の力の正しい導きをしたその神が、亜種人に土地を分け与えたのに。 水の国、海賊、悪党組織、北の大陸の国の一部、今のコンコース島に在った昔の国は、半島がまだ古代3国の支配下の頃から狙って居たらしい。 で、冒険者協力会や魔法学院自治政府も、大森林地帯の侵攻に関してだけは阻止する方向で干渉して来た。 だが、古き昔の或る時だ。 古代3国が海外に基点を造ると宣言して、セレータス・アイランドの半島に軍を派遣て上陸。 亜種人の支配が弱い半島のみだけを占拠した。 この後、その支配がジワジワと大森林地帯に及んだ。 神の指示を守るべきと、古代3国の王へ進言する貴族は多かったが。 神を軽視して、自分達が新たな神の様に傲る古代3国の王に不満を持った貴族達は、自分達の国を創ろうと反旗を翻した」 「あ、あ・・それが、半島3国の事変なのか?」 「そうだ。 その後には、最も間近に居た筈なのに、簡単にクーデターを許したと水の国は古代3国から酷く責められたらしい。 国の、王権の威信ってヤツが揺らいだ当時の水の国の王は憤慨して倒れて死去。 跡を継いだ弟は、半島奪還の為に手段を選ばず。 大森林地帯の亜種人達へ、降伏して森を空け渡せと迫った」 「何と横暴なっ」 怒るルヴィアだが。 クラウザーは過去の事なので。 「その昔は、戦争が多かったのか。 然し、何とも一方的よな」 頷くウォルターも。 「己の国も、海の女神が降臨した土地に因んで水の国と称したのに、の」 “全く”、と頷くK。 「んで、その強要を亜種人達が拒否するや、水の国は大々的に半島3国へ宣戦布告し。 古代3国とコンコース島に在った過去の国と連携し。 海賊まで抱き込んで、一斉に包囲侵攻作戦を展開したのさ。 だが、戦争となる亜種人より依頼を受けた冒険者協力会と魔法学院自治政府の協力した軍に、神聖皇国クルスラーゲの軍が応援となり。 最終的に、そこへフラストマド大王国も加わり、水の国は大敗をした歴史が有り。 また、知識・自然神の大いなる天罰と云う難事に見舞われた。 それ以降、水の国も敗戦国として独立を確保する代償として、大森林地帯を示して“この地だけは侵さない”、としてな。 その経緯から、今は国境を侵すことはしないのさ」 「ん、なるほど」 「ふむ」 老人の2人が納得した。 それでも、ルヴィアは不満が残る。 「だが、それならば尚のこと。 旧大街道は守って然るべきなのではないか?」 「ん、そう考えるもの、1つだろうな。 だが、これ程に悪党達が横行する様に成ったのは、過去にも在ったらしいが。 それでも相当前の頃、それ以来らしい。 何より、今は世界の人口も大きく増えた為か。 悪党が何千人、何万人と集まり、集落を幾つも形成していた状態だった。 水の国側も、魔法学院自治政府も、どう対処すべきか、考えあぐねて居たって処が正直な印象だろう。 亜種人達なり、武装部族なり、大森林地帯に住まう者達が率先して守ってくれた方が、両国も気を遣わずに済んだって処なんだろうサ」 「詰まり、過去の惨事を繰り返す糸口になりそうな事はしたく無いから。 何らかの手段へと繋がる事態が起こるのを傍観して待っていた訳か」 「悪く言ゃあ、その通りだ」 「国とは、そんな事の交渉も満足に出来ないのか…」 「魔法学院自治政府や冒険者協力会が率先すりゃイイがな。 基本的に両方の政府は、国家間や他国の事に進んで干渉はしない。 下手に率先すれば、何のイチャモンを着けられて戦争に成るとも解らん。 今の平和な世界では、遠い昔の事に思われるが。 この世界は、超魔法時代の前後を含め、戦争だらけの事が良く在った。 それは、誰しもが怖い。 酷い戦が大陸間の国々で起これば、その後に待つのは不死モンスターの横行。 俺が始末を着けたあの暗黒街も、放ったらかしで置けばそうなる」 オリヴェッティは、大きな街に出てその事を斡旋所の主へ報告する事にしている。 この依頼に合わせ、魔法学院自治政府が遂に、冒険者協力会、半島3国、亜種人達の里の長と交渉し。 あの旧大陸横断街道と周辺の森の警備を模索するとする。 悪党達の犠牲が国内に及び、魔法を人に向けて遣う事に成ろうと迫られた時に来たKで。 また、汚事の一面を背負う事を相談された訳だ。 クラウザーやウォルターに、オリヴェッティも悩んだ。 人の悪意の掃除をKにさせて、その悪く言われる部分のみをKに背負わせる事に。 それでも、Kは乾いた態度で応えてから引き受けた。 この男の背中には、どれだけのそうした穢れが背負われるのか。 この話し合いを聴いていたビハインツが。 「なぁ、過去に似た様な事が起こったって言ったよな」 「あぁ。 悪党が増えた事は、今回に限った事態じゃねぇよ」 「昔は、どうしていたんだ?」 「ん。 過去にも、そうした事は何度も在った。 が、モンスターの増殖や自然の災害と共に、増えた悪党は幾度も潰された。 お前も、不死モンスターとは戦ったりしただろうがよ。 ゾンビだのゴーストだのスケルトン辺りならば、聖水や駆け出しの僧侶を攫って当たらせりゃどうにか成る。 だが、中級より上の不死モンスターが相手となると、そんなやり方は焼け石に水よ」 「え"っ? そんな事態に、成ったのか?」 「書物に由るに、最も酷かったのは超魔法時代の頃の事例だ。 魔術師が首領となる悪党が1万数千の子分を率いて、この辺りを掌握しようとした事が在り。 その時の殺害された人、亜種人は相当な数で。 この森の一部に死の地帯を生み出した過去が在るそうだ。 そして、此処からずっと北西に向かった死者の遺跡より、悪魔や高位の不死モンスターを呼び寄せたらしく。 皆殺しにされた悪党達の死体や無念から、それは多くの不死モンスターが生まれたらしい」 「ひぇっ、ひえぇぇっ。 そんなの、ヤバい処じゃ無いぞっ」 「だわな」 驚くオリヴェッティで。 「その時は、どうされたのですか?」 「冒険者協力会に依頼が丸投げされて。 協力会が世界の冒険者に呼び掛け。 協力会も最高幹部となる精霊位枢機卿十傑と云われる、将軍職や魔術師師団を束ねる長が出張った」 「あ、それは…」 「あぁ。 今も、冒険者協力会の治めるアハフ自治領土の王、聖騎士ラフティーの部下の持つ軍団の長達の事で。 奴らの古い肩書きだ」 「そ、そんな方々が来られるほどに、酷い有り様と成ったのですか?」 「そうだ。 然も、不死モンスターを森から粗方ながら駆逐して、ヘイトスポットの浄化をした時までで40年以上も掛かったとか」 『40年っ!』 ビハインツ、ルヴィア、オリヴェッティが同時に声を出した。 いや、驚くのは、クラウザーやウォルターも同様で在る。 「カラスよ。 その時に、魔法学院自治政府はこの辺りを守備しなかったのか?」 「らしいな。 どの国にしても、その事態の時。 当時の治世者がどうあるか、それに因って事態は千差万別。 その時の学院長は、魔法の研究にばかり人生を傾ける奴だったらしく。 冒険者協力会に丸投げした後は、何の対策もしなかったらしい」 「な、何たる馬鹿者か」 これには、ウォルターも頭を抑え。 「能力と人間性は、常に付随するとは限らんものな。 然し、手を打つのが遅すぎたのぉ。 嗚呼っ、情けない」 決める姿のポーズをするウォルターで、それを真似るリュリュ。 だが、この時ばかりはオリヴェッティも注意する気では無く。 「では、歴史は繰り返したのですか?」 登り始めた橙色の陽射しが森に入り。 それを眺めるKで。 「まさに、だ。 そして、このままこの辺りが放置されると。 また、移動する商人が税の掛からないこの街道を通る様になり。 その商人との商売を求めて、亜種人や武装部族が集落を作る。 その集落が発展すれば、金、商品、異性、薬物が絡んで、野党や盗賊が来る。 ならず者、無頼、はみ出し者が溢れて来ると、悪党の集団が出来上がって、また集落を奪う事に成るだろうな」 ウォルターは、リュリュが真似る事も他所に。 「国家間の柵、土地や歴史の柵に解決を後回しへとした結果。 勝手をする者に良い様にされた訳か」 「だな。 ま、今回は魔法学院自治政府の長となるパスカが、ラフティーや半島3国の王。 エルフ他の亜種人の族長とも会談して善後策を探すとか。 それに前合わせ、冒険者協力会から治安維持の為の一個師団が来ると言ってたな。 少しは、解決に向けた歩が始まったンじゃないか?」 「ふむ。 遅過ぎるが、始まりを悪く言っても仕方ない。 それが、良い方へ向かう事を願おうか」 「だな」 歴史が解ると、クラウザーもエルフの娘を見下ろして。 「こう成って来ると、亜種人の側にも一言を言いたいわい。 もっと人を出して、守れないものか、とな」 「まぁ、その意見は賛成したい。 だが、亜種人達がこの辺りを放置するのは、そうした時代背景が在るからで。 数百年の周期で、この辺りでモンスターが湧く事が増える事。 それから、呪われた土地をエルフやドワーフは好まない。 精霊の力を強く宿す亜種人には、暗黒のオーラが蟠る場所は不毛な土地と同じなんだ」 「んん"〜。 何事も、難題は重なるものよな」 「んだ、な」 この時、森の中に生物のオーラが大きく動き始める。 「あ、何か移動してる」 リュリュが言うと、Kも。 「足手まといを抱えてる手前だ。 どれ、少し上に上がって、森の様子を探るか」 大木の上へと、軽々な身のこなしで飛び上がるK。 リュリュも、飛び上がって着いて行く。 それを見送るルヴィアは、まだ疑問が残る。 (あのケイは、少しの間は不死モンスターが湧きにくくして遣った………と言っていたな。 極悪人を始末したとして、どんなやり方をしたのだ? 多くの死体が出れば、ゾンビやゴーストは湧きそうなものだが……) さて、また少し陽射しが上がって射し込む頃か。 朝の森の中で、眠らされていたエルフの少女が目を覚ました。 この時、木の上で寝転ぶに余裕な大きな枝に寝そべるK。 風の力で浮きながら、木陰に居る小型のトカゲを突いてるリュリュ。 その大木の根元にて、気が付いたエルフの少女は半狂乱状態に成った。 だが、女性のオリヴェッティやルヴィアが傍に居たので、直ぐに異変を察知したのだろう。 説明を受け、次第に随分と落ち着きだしていた。 「どぉだ? 少しは落ち着いたか?」 こう言って水筒を差し出してくるルヴィアから水筒を借り、叫んだ後の喉を潤したエルフの少女。 「はい。 急に・・喚いてすみませんでした」 返される水筒を受け取るルヴィアは、笑顔を崩さず。 「気絶するまでの経緯が経緯だ。 それは目覚めたなら、誰でもああなるさ」 話の筋が見えたとオリヴェッティも加わり。 「あの、貴女のお名前は?」 「あっ、あ・・私ったら…。 お助け頂き有難う御座います。 私は、森の奥深くに在りますエルフの塔の集落に住みます。 名前は、シャンティです」 「シャンティさん、ですね? 私達は、冒険者です。 私が、リーダーのオリヴェッティ。 此方の方は、仲間のルヴィアさん。 貴女を助けたのは、木の上で寝るケイさんです」 上を見上げるシャンティは、目の丸い可愛げが際立った美少女だ。 神の作品であるエルフは、男女共に美しく生まれる。 年齢も長生きする割りに、20から30代で老化が止まる為か。 エルフを妻にしたがる男性も多数居るらしい。 さて、落ち着きを取り戻したシャンティは、非常に気になった人物を指差す。 「あの・・、あの子は?」 シャンティは、風の魔法を呼吸の様に遣うリュリュを指差した。 自然魔法を扱えるオリヴェッティであるから。 エルフである彼女なら、リュリュの強烈にして純粋な風のオーラを察知してしまうのは当然だろうと理解して。 「あの子は、リュリュ君。 素晴らしい魔力の持ち主よ」 名前を教えられたシャンティは、うっとりとした眼でリュリュを見つめると。 「・・嗚呼、なんて純粋な・・・風の力なんでしょうか。 丸で、精霊神様の様な・・神々しさが在ります」 その表現を聞いたビハインツやルヴィアは、“神々しい”と云うより、“騒々しい”と云いたいリュリュを見る。 ま、風の力で浮遊や飛行が可能なのは、自然魔法や精霊魔法を極めても、最強魔法を使いこなす霞の上クラスの者だけなのだが。 その意味を全く理解できない者には、特異体質ぐらいにしか思わないのだろう。 此処で、また一眠りしていたKが、朝も大分に明けた今になって降りてくる。 「さて、先に行くか。 集落を作るアマゾネスは、1日の食料を得たり、換金物を採取するのに、昼間に動いて狩りをする。 なるべくテリトリーに入らずに、森の中を行くぞ。 この辺は、凶暴なモンスターも少ないから比較的に安全だ」 何度も、Kに礼を述べたエルフのシャンティは、あの森の海に沈む地下迷宮へ行くと聞いて。 「それならば、及ばずながら私がエリンデリンの街まで道案内します。 この辺りは知りませんが、アマゾネスさんの居る森を抜けてしまえば何となく方角は解りますし。 道さえ見つければ、ご案内が出来ます」 オリヴェッティは、エルフの里の住人と聴いたので。 「それより、エルフの里と云う所へ帰らずに宜しいのですか?」 「ドワーフさんやホビットさんの棲むエリンデリンの街には、私の親の代わりとも言える伯父が店を出してますし。 エリンデリンの街は、エルフの里よりずっと近いのです。 是非に、そこまでは案内させてください」 その事を理解するKは、どうせ送り届けるつもりだったのて。 「それは、好きにしろい」 このKの一言で、そう決まった。 オリヴェッティの旅は、また新たな始まりを迎えるのであった。 ★ この何十年、悪党達の支配を度々と受けたセレータス・アイランドの旧大陸横断街道沿いの森林では、悪党達への殺戮が何者かにより行われ。 解放されたアマゾネスや森の民、エルフや天使種など亜種人達が間近の集落へ戻り。 何が起こったのか、不思議と驚きから混乱を来たし始める。 悪党達から逃れて集落を森の奥へ移動した人の森の民の或る集落では、突如として異変が舞い込む事に成った。 朝方に、痣や傷を負った裸の女性達や怪我だらけの子供が、裸に折っただけの木の槍を手にするアマゾネスに守られて戻る。 助けを求められて騒ぎとなり、一斉に集落の民が起きた。 子供や女性達を保護した集落の者より。 “どうして解放されたのか?” “誰が助けたのか?” “悪党達はどうなったのか?” 疑問が噴き出すも、とにかく助かった事を喜ぶ他の女性や子供達。 また、他の集落では、別の暗黒街から逃げて来た亜種人の女性達を採取の際に集落の者が保護して。 集落に戻ると詳しい話を聴くことに成っていた所も在る。 代わって別の集落では、20人を超える女性や子供が逃げて来て。 その逃げた女性を探して来た悪党の数名と戦いになり。 武器を手にしたアマゾネスや魔法の発動体を得て戦うエルフ等に、悪党達側が返り討ちと成る事も在った。 その結果、森の中の彼処此方の集落では、悪党達の中でも極悪人が皆殺しにされて、暗黒街がほぼ無力化された事を知る。 朝になる前に、こっそり確認をしに行く者も現れ。 昼頃に成れば戻り、その実態が本当のことと解る。 本当に壊滅させられた事を知れば、泣き出して喜ぶ森の民の声が集落の外にまで聞こえた。 実質、全盛期に比べると一割以下まで集落を壊され減ったとかで。 拐われたり、殺されたりした人々や亜種人の数は、この10年ほどでも少なく見て数万人に達すると云うほどだったから。 この話は朗報として、他の集落に伝わるだけでも歓喜すら上がった所も在った。 然し、この問題がコレで全て片付いたかと云うと、そうでも無い。 戻らぬ場合は、売られた者以外は、虐殺された人、攫われても殺された者となる。 悪党達の気分次第でズタボロにされて殺された者すら無数に居る。 刃向かう者は、女性や子供でも平気で殺していた悪党達だ。 この無念や骸から森の中では不死モンスターも増えて、大きな街となる所では冒険者のチームが討伐依頼を請けるも。 不死モンスターを浄化する為に目撃された現場に向かって、悪党集団の斥候部隊と鉢合わせし。 その末、殺し合いをする事も少なく無かったと言われる。 こうしたモンスターの影響も重なり、暗黒街と近い集落は多方面からの脅威に晒され。 人口が少なくなって守れないと判断された多くの集落は、仕方なしに放棄された。 この為、旧大陸間横断街道沿い側の森林地帯は、ほぼ全て悪党達の縄張りと化していたのに…。 同日。 代わって、見る所を変えると…。 水の国ウォッシュ=レール、魔法学院自治領土の国境の街では、奪還された人の女性達が続々と斡旋所に届けられた。 奪還が行われると報告を受けていた両政府は、それなりに兵士達を配置して受け入れ態勢を敷いていたが。 想定以上に女性達が戻って来て、女性達は分割されて保護された。 その姿を見ただけでも、どれほどに酷い事が行われたか察する事も出来たが。 これから戦となる可能性も有るので、出来る配慮をしながら事情聴取をする兵士達。 また、その様子を見た斡旋所の主は、極悪人となる悪党達の遣り方を聴いて怒りを覚えた。 然し、同時にどうやって逃げて来たのかを聴けば、既に無力化まで壊滅された事も伝わる。 姿の良く解らない誰かに惨殺された悪党達の様子も伝わると、その討伐した冒険者の知名度を上げる様にとか、追加の報奨金を出すと政府側より斡旋所に通達が来た。 この奪還をKへ依頼した魔法学院自治政府の統治者パスカは、自分の名義でその報奨金を一括して依頼した者へ指定して払うと冒険者協力会に言ったとか。 冒険者協力会、ウォッシュ=レールの政府間で魔法の伝書でのやり取りが行われ。 協議の結果、パスカの案を皆が受け入れた。 この日は、この奪還劇と壊滅の情報が瞬く間に人から人へと伝わる。 数日もすれば、両国の国内の大部分にこの情報が伝わり届くだろう。 旧大陸間横断街道が解放されれば、新たな人・物の流通の道が開かれる。 商人から冒険者まで、期待も膨らむ噂と成る。 では、この劇的な解放をして退けたKを連れたオリヴェッティ達は、この時にどうして居たか。 暗黒街の点在する森の東端側より森の中へ、西側へと入って行くと、所々にポーンと高く森から突き出す巨木が見える様になる。 〘カジュラス〙と云う俗名のお化け椨(たぶ)の木で。 そこらに生える見上げる様な巨木より、目を真上に近く見上げなければ、その林冠となる上は見えない程に高くなる変わった木だ。 その木の1つで、森の民が暮らす大きな集落もほど近い木にて。 聳え立つ榦の下枝より幾つか上となる枝から、遠く下の方を眺めるのはクラウザーだ。 「世界は広いな。 こんなに高くなる木が在るとは。 天辺の先は、低い雲に届きそうな位だ」 巨木の榦に抱き着いて、下を見ずに眼を瞑るのはビハインツ。 余りに太い榦の為、大きな家の外壁の一部に子供がへばりついて居る様な感じだろうか。 「た、たっ、高過ぎるぅぅぅぅっ。 怖い、怖いっ! 怖いよぉ!!!」 大男で筋肉の塊となるビハインツが座っても、左右にまだまだ余裕の有る枝の広さは街道の様だ。 その枝の真ん中に座って榦に抱き着く彼が泣き叫ぶも。 まぁ、そうそうに落ちる訳は無い。 1つ上の枝に寝そべるKで。 「煩ぇな。 下を見なきゃイイだけだろうが」 高所恐怖症のビハインツは、周りの森よりも高い場所では、下など見られる訳も無いと怯えて。 「無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理………」 図体のデカい大男が、その声を高く、細くして無理を繰り返すのだ。 クラウザーやウォルターも榦に座って居るが、子供を見ている様な気持ちと成って苦笑するしかない。 では、何故にKやオリヴェッティ達は、こんな巨木の所に上がっているのか。 実は、その理由は一昨日の事だった。 最後に壊滅させた暗黒街の在る辺りから離れ、西へ、西へと森を行く夕方。 森をコソコソと移動する怪しい人の集団を見付けたKとリュリュ。 Kを伴ったオリヴェッティが話をしようとするや、女だと襲って来た。 Kは悪党の一味と看破していたが、本当にそうだった。 リュリュとKが軽く・・では無い程に痛め付けると、この男達は自分達の事を話し始めた。 彼等は、暗黒街の悪党の一味で。 森を移動しながら集落を襲っては、女性や子供を奪ったり。 亜種人や森に住む部族の取引する所を襲撃し、物資を奪う組織的な強盗団の斥候役だった。 そして、暗黒街が壊滅した事を知ると命乞いを始め。 “この辺りには、アマゾネスや森の民と亜種人達が取引を行う〘広場〙と呼ばれた開けた土地が点在する。 他の襲撃部隊が新たな目星を探す為、その様子を見て回りながら森を移動していた。” こう情報が得られた。 まだ、他に悪党の残党と云うべきか。 集落を襲う強盗目的の襲撃部隊が森の中を動いていると知り。 その情報を先に知っていてKは、オリヴェッティに。 “この西側の先には、アマゾネスと亜種人の集まる大きな取引場所となる広場が在る。 もしかすると、其処が狙われているかもな” また悪い事が起こるのかと心配するオリヴェッティで。 “そっと、その取引される場所を見守れませんか?” “出来ねぇ事は無いが。 もし、何らかの異変が起こった場合は、女のお前やルヴィアがアマゾネスとの対面に出て話し合うしか無いぞ。 アマゾネスに男を見せれば、とてつもなく面倒に成る” “解りました。 それでも…” この遣り取りが在り。 その“広場”なる所に来れば、既にアマゾネスの部隊が駐屯していた。 様々な木箱の集まりが山積みとなる様子。 テントやコテージが展開されている様子から、Kの推測として他の亜種人との取引の日は目前と推察される。 そして、アマゾネスに見つからない場所を探して、この巨木に上がり隠れた次第なのだ。 何故、そうしたかは、アマゾネスの見張りが常に森を動いていたからだ。 森の民の1つとなるアマゾネスは、自然の中に残る小さな異変の痕跡を見付けるスカウト技能に優れて居る。 また、自然と共に生きるだけに、嗅覚や聴覚も優れ。 尿や体臭も嗅いでは、人を探す傾向が在るらしい。 下手に低い木に登って隠れても、直ぐに見つかる可能性は高く。 ウロや穴に入って夜営などすれば、煙等で直ぐに存在を悟られる。 この辺りになるとさ程に寒暖差は激しく無い訳で、病気を媒介する蚊やダニなどから身を守りながら警戒し。 尚且つ広場を監視するとなれば、こうした方が寧ろ良いとKは判断した。 さて、このセレータス・アイランドの中心と呼ばれる場所が在る。 その場所については、後々に綴るとして。 その中心と呼ばれた場所から東に広がる広大な森の中でも。 その所々には、人・亜種人族の作った集落や街が在り。 その間では、独特な交易が行われる。 その交易の中でも“広場”と名付けられし開けた場所では、〘女性武装集団部族アマゾネス〙が監視する中で亜種人との交易が半月に一度だけ行われる。 その交易に参加するのは、生まれは神が造りし亜種人達だ。 自然と共に生きる神・森の民エルフをはじめに、エルフと似た天使種族のエンゼリア。 大地や自然と共に生きる〘ドワーフ〙と呼ばれるずんぐりむっくりとした、身体の立派な男女のモンスターの様な亜種人族だったり。 また、ホビットと云う11~15歳位の少年少女の様な姿をして。 耳が尖り、小さい牙を持ち、指が長く、尖がり帽子を被った亜種人。 また、人型のトカゲとなる〘リザードマン〙の一部。 青い肌に鱗が生え、金色の眼が独特な人型の魚人族サハギンの一部などである。 前日の夜から木に登ってオリヴェッティ達が見張ると。 周囲を森に囲まれる中で赤い大地が剥き出しとなる広場には、こうした種族が次々と集まって夜営をしていた。 集まる種族は、それぞれにテントや簡易的なコテージを組み上げて、1日とせず集落が拡大して行く様子だった。 その様子を白銀の縁となるモノクルと魔法の水晶で観るウォルターは。 「これは、中々に珍しい様子だ。 あれ程の亜種人が集まると、近場で潜むのは難しいだろう。 我々の生命オーラは、自然の中では異質。 警戒する者が周りを彷徨くならば、直ぐに居場所は判明してしまうの」 既に目覚めたシャンティからも。 「確かに、アマゾネスさんの近くでは、人の男性は気をつけた方が良いですね。 アマゾネスさん達は、我々の様な亜種人や人の女性には対等で優しいですが。 男性となると態度が一変するそうです。 森の民の男性も、時にアマゾネスさん達に捕まってしまうとか。 冒険者の方でも男性は目に触れない方が良いと、前に父から聴きましたし」 この話に合わせてKからも。 「異変は、起これば直ぐに解る。 リュリュやウォルターが見張るなら、俺たちは休んでいて構わねぇよ」 だが、真面目な性格のオリヴェッティがそれをする訳も無く。 度々に休みながら、リュリュやウォルターと様子を窺っていた。 そして、見張りをして2日目の朝となった今。 上半身が裸で、土色の化粧を全身に施し。 腰にライトシャムシールソードと呼ばれる、剣先の幅が広いやや湾曲した剣を腰に帯び。 木柄の長槍を装備したアマゾネス達が護る広場で、食品、薬、武器や防具、日用品に始まり。 金製の装飾品を目玉として塩や薬の原料などが取引されていた。 集まる亜種人の取引相手は、アマゾネスだけでは無い。 各々の亜種人同士も、取引を行って居る。 然し、本日はその様子がとても盛況に思えた。 食事を作る為の煙も多く、鳴り物の音が良く聴こえる。 その取引の様子を高い木の上から見ているK達。 空に浮きながらモジモジするリュリュで。 「ケッ・ケイさんっ。 女の人が・・みんなオッパイ見えてるよぉ~~」 こう興奮するリュリュは、Kの近くで宙に浮かんではしゃいでいる。 同じく、魔法の掛かったカバンに座り。 宙を浮遊するウォルターも。 「〘遠視の水晶〙で見ているが。 どの女子(おなご)も、まだ若いのだな」 そんな2人を太い太い枝から上目遣いに一瞥した後。 「全く、男と云う生き物は…」 と、他所を向くルヴィアが、大木のやや中段の枝に居たり。 「おぁ~~、こ・此処まで高いと・・。 何か、ケツの穴がし・閉まる様な恐怖感がぁぁぁ」 と、脅えてるビハインツが、幾つもず~~と下の枝に居たり。 面々の居る枝より高い位置の枝に居るKは、少し下に居る木の幹にしがみ付く様なオリヴェッティへ。 「下に降りてアマゾネスの集落に近付くと面倒だから、此処から云うが。 あの女傑部族アマゾネスは、武装する戦闘女集団だ。 アマゾネスの集落では、女だとしても基本的に腰周りを隠す腰布以外は着けられない。 女王と、その政治を助ける幹部の他は、テリトリーを護る戦士に選ばれから初めて武装が許可され。 土色の化粧の他、口紅やアイシャドウは一兵卒から抜きん出た昇格をするか。 何かの手柄で特別に許されて後、少しづつ出来る様に成る。 そして、衣服を着る女王以下、幹部だけが胸を隠すことを許される。 つまり、上半身を晒すのは女王の下僕、“下級”と云う意味だ。 そして、何よりも先に武装が許されるのは、羞恥より戦う方が大切と云う意味が在るらしい」 オリヴェッティと同じ場所に居るエルフのシャンティは、かなり高い場所に居ても怖くないらしい。 遠目に小さく見える広場のやり取りを眺めながら、Kが良く内情を知っていると驚き。 「ケイさんっ。 貴方は、学者さんですかぁ?」 「まぁ、な」 離れた場所からでも聞き取ってそう答えたKは、更に話を続け。 「ついでに云うと。 あの広場で行われる交易には、あらゆる人種が参加する事が出来る。 ルールは、アマゾネスの主導で、物々交換が出来る事。 それが条件だ。 物々交換が掟なのは、アマゾネスは俺達みたいなシフォン貨幣の流通を持たないからだ。 また、人間の男以外は、あの広場を出ない限りはアマゾネスの防衛範囲に入った客となり。 女性ならば手厚く饗(もてな)して貰える」 此処で、浮遊するウォルターが、 「のぉ、友よ」 と、声を掛けた時だ。 「え?」 と、リュリュが広場に目を凝らし。 森の一部を観たKも。 「ん、ありゃ何だ?」 と、幹に背を預ける姿を崩した。 眼鏡をして手に持った水晶で、広場の様子を見ながら話しかけたウォルター。 ボンヤリとして枝から眺めていたのに、急なKの態度に驚き。 「どうした? 何が在った?」 するとリュリュが。 「ねぇ~ねぇ~。 変な人が森の中をコソコソと、あそこに近付いてきてる。 ケイさん、どうするのっ?!」 と、交易が行われている広場を指差す。 高く一つ上に抜けた枝に座っていたKは、突然に降りる構えをしながら。 「ケッ。 あれが斥候役の奴等から聴いた“森の山賊”ってか。 森を移動して悪さする山賊の連中が、今から交易を襲撃するみたいだな。 サロザスが云ってた、最近に出来たって云う悪党一味の持つ襲撃部隊の一つだろう」 目を凝らしたウォルターは、水晶を森に向けながら。 「我が友よ。 あの輩は、そんなに悪どいのか?」 「あぁ。 痺れる毒の入った枯れ草を焚いて、亜種人の男や刃向かうアマゾネスを皆殺しにするらしい」 「それは酷いの。 相手は、なかなかの麗しい女性ばかりだと云うのに…」 「それは、アマゾネスの部族としての集団性格が原因だ」 「それは、掟の様なモノかな?」 「そうだ。 あのアマゾネスって部族は、仲間を助ける気持ちが執念の如く強い。 中でも特に面倒なのが、戦闘部隊の先陣や広場の護衛をする役目を与えられた女で。 戦う事に秀で、気の荒い者が選ばれる。 傷付いても死ぬ事を臆せずに、命懸けで刃向かうからな。 悪党達は無理に攫ったりせずに、その場で犯してから殺すらしい。 だから最近では、アマゾネス側も人間との交易を強く警戒しているらしいな」 その話に、また悪事が行われると驚くシャンティで。 「あわわわ・・、降りてアマゾネスさんに知らせないと~~~~」 と、慌て出す。 それは大変だとオリヴェッティも慌て。 「皆さんっ、降りますよ~」 と、おっかなびっくりで木を降りる。 このお化け椨の木〘カジュラス〙は、上へ伸びると榦に着いた瘤や傷も移動する。 大きく、太く、高くなる表皮には、こうした瘤や傷が多く。 それが天然の足場に成る。 木登りが得意な者ならば、高さを怖がらない限りは難なく昇り降りが出来るのだ。 そして、この木に絡まる蔦は、縦に絡まり育つ習性の在るもの。 それがとても丈夫なロープの代わりともなり、体重の有るビハインツや不慣れなオリヴェッティでも昇り降りが出来た。 が、先に動こうと飛ぼうとしたリュリュへ、Kが。 「待て、リュリュ」 「なぁに?」 「 いいか、アマゾネスには姿を見せるな。 直接に広場へ行って手を貸す様な事もするな。 もし、森をコソコソとする奴らが毒の煙を焚こうとしてたら、風向きを変えて異変を知らせるだけでいいぞ」 聞いたリュリュは、大きく頷いて。 「解った~~~」 と、森へ向かって一直線に飛んでいく。 それを見届けてからKは、まだ居るウォルターに。 「ウォルター。 皆を深追いさせないように、一緒に行動してくれ。 森の中で悪党と対峙するのは構わないが。 アマゾネスに見つからない様に、特に広場に踏み込む事は絶対にしないように強く云ってくれ」 「友よ。 アマゾネスに姿を見られる事とは、そんなに不味いのか」 「あぁ。 アマゾネスは、気性が荒い半面に直情的で惚れっぽい。 助けたのが男と解れば、必ず襲われる。 俺は、余裕で逃げれるが。 ビハインツやクラウザーは、種付けの雄として連れてかれかねないぞ」 「な"っ、なんとっ。 アマゾネスの婚約とは、そうゆうものなのか?」 驚くウォルターだが。 眼が真剣なKで。 「アマゾネスにとって、種付け道具の男は哀願奴隷に近い。 普通ならば死ぬまで、種付けで交わる為に生かされる動物にされるだけだ。 そこに、助けられたと云う感情が入り込めば、交わる愛玩動物として死ぬまで拘束されるぞ」 「ん、なるほど。 ふぬ、解った」 木の真下へとカバンで降りて行ったウォルターを見て。 (ふぅ。 さぁて、面倒に至らなきゃいいがな) そうなって欲しいと祈って、Kは宙へと飛び出した。 その直後。 森の薮に隠れて近づきながら、それぞれの役割に別れた悪党達の先陣部隊が、広場に近付いて吹矢を撃ち始めた。 枯れ木を柵型に組んで、棘のついた蔦を絡めて壁とし防衛している広場だが。 その隙間を狙って吹き放たれた針が、見張りのアマゾネスの肩や腹に当った。 「ナニモノだっ?!」 「シュウゲキだ! キをつけろ!」 見張りのアマゾネスが発した大声で、広場からその一声と共に。 “わぁーーっ” だ、 “ぎゃぁーーーっ” と、亜種人達の悲鳴が聞える。 だが、ドワーフやサハギンやリザードマン等は、武器を手に戦える民族でも在るし。 非力な方となるエルフ、エンゼリア、ホビットは、魔法を遣って戦える。 荷物を纏めたり、逃げ惑う者の中には武器を、杖を構えて戦う姿を見せる者も居た。 悪党等の襲撃先陣部隊は、見張りに目眩を起こす毒の吹矢を見舞ってから。 痺れの効果が有る煙が焚かれ、広場へと吹き込むまでの応戦を担当するらしい。 煙の毒に対抗するための薬を服用し、顔を奇妙な仮面で隠す先陣部隊。 処が、蔦や縄を伝い地面へと降りたオリヴェッティやクラウザーとビハンツが、先に降りていたウォルターの言う注意事項を聞く時。 広場を包囲する為にこっそりとやって来た後続の襲撃部隊と鉢合わせになる。 「んっ? お前達は何者だっ!!!」 見付かるなり、悪党等にこう云われてしまう。 「うるせぇ~いっ! お前達みたいな卑怯者に、名乗る名前なんざ無い」 ハンドマチェットを構えたビハインツは、数人の覆面をした男達と対峙。 ルヴィアやクラウザーも愛用の剣を抜いて同調した。 一方。 勝手な悪事を行う流れで、森の中で度々に火事を出す悪党集団は、森が燃えようがお構い無しの輩ばかりだ。 「おい、煙の準備は出来たか?」 「あぁ、火を貸せ」 3人組の覆面を被った悪党が、枯葉を集めて何かの黒い草を燃やそうとしていた。 風向きは、今は正に西風で。 煙を焚けば、広場に向かって行くだろう。 それを空中で見つけたリュリュ。 その周りに居る仲間も含めて、一気にやっつけてやろうと。 「悪そうな奴をみーーーつけ! よぉ~~しっ、風よっ」 風を呼び出したリュリュは、枯れ草に今にも火を点けようとしている者達の周囲に、竜巻の様な渦巻く突風を発生させた。 すると…。 「うおおおおおーーーっ!!」 「何だっ、急に風がぁぁっ!!」 「やば・・やばい、松明が消えちまうよっ!」 思いも寄らない突風が、円を描く様に吹き荒れる。 その男達が火を着け、煙が広場に向かうのを見届けようとしていた山賊の頭目も。 その周りを固める手下も、風の力によって周囲の木々へと吹き飛ばされた。 全速力で走る馬車にでも跳ねられたか如く、激しく木に激突して動かなく成った男達。 死んだ訳では無さそうだが、骨折は確実。 誰も、直ぐに動けない。 それを見たリュリュは、 「やぁ~~~ったぁっ! ラクショ~って云うヤツ~~~」 と、宙で喜んだ。 襲撃部隊の後続が行おうとしていた包囲網は、オリヴェッティ達の応戦で分断され。 襲撃の成功・失敗に関わる“毒煙”も、リュリュに阻止された。 そうなれば…。 「う゛っ、煙が来ないぞっ」 「ヤメっ、ぎゃあっ!」 「不味いぞっ! 逃げ道も無いっ!」 広場になだれ込んだ襲撃先陣部隊が、後続の応援や煙の発生も無くて。 応戦するアマゾネスや亜種人に数で押され負け始める。 襲撃したものの成功を確実とする次の手が起きないと、一部の後続部隊が仕方なしと助太刀に入る。 然し、痺れる煙が来なければ、戦いは実力勝負となる訳で…。 「複数で、女や亜種人を一人一人を殺すんだ!!」 「煙まで耐えろ!」 こう悪党達が云うも、彼等の戦力を集中させない様に分断するのはアマゾネス。 その見た目の姿は、ほぼ裸の女性となるアマゾネスだが。 その身体能力は高く。 武術の腕も経験を数年積んだ冒険者に匹敵する。 そうした訓練は日々に欠かさぬアマゾネスの戦士達。 過去にはアマゾネスの掟を捨て、冒険者として名を馳せた者も居たほどだ。 「ムコウを助けるゾ」 「アマゾネスっ、魔法で援護するわ!」 「数はヘッテルぞ! あの強そなニンゲンに当たれ!」 悪党達の横暴で、こうした交易に来る者の中には戦う事に秀でた亜種人達も居る。 自然魔法、精霊魔法、中には魔想魔法も使いこなす者が亜種人には居る。 屈強な戦士も居る怪力のドワーフを始めに、俊敏な動きの戦士も居るリザードマンやサハギンの者が悪党達の雪崩込むことを防ぐことに協力。 また、エルフ、エンゼリア、ホビットは得意となる魔法で後方から援護。 そんな武装種族を相手にするのは、凶暴な欲望を意欲にする盗賊や悪党。 然し、武器を遣うには慣れているが、精進した修行や経験は無い者が半分。 多勢に無勢も在ってか。 総勢20人超の襲撃者は、次々とアマゾネスや亜種人に打ち破れて行った。 悪党達の襲撃は、煙の発生が失敗に終わると急速に決着が付く。 何人か、逃げた者も居たが。 魔法で、弓で追撃を受けて怪我をし、散り散りとなった。 そんな中だ。 アマゾネスや亜種人達の活躍を空に浮いて見て喜ぶリュリュを、後方へ少し離れた所から見つけた1人の悪党が居る。 この人物、他の悪党に比べると出で立ちがちょっと違う。 着古して綻びが見えるが、刺繍派手やかな青いロングコートを羽織り。 黒いブレストメイルを下に着込んだ剣士風体の者だ。 その男、垢がシミに為っている肌は、日焼けもして色黒く。 また、見た目が荒くれている所為か、リュリュを睨み付けた顔は中年位としか年齢が良く解らぬ。 だが、無精髭を生やす割には、中々に渋い面構えの総髪男だった。 (ケッ。 ガキが宙に浮いて、発動体も無しに自然魔法だと? 特異体質か何かシラネェ~が、何ておっそろしい。 ずらかる前に、此処で殺しとくか) 男は、リュリュの特殊な様子に苛立っていた。 腰の剣をそのままに、金属と丈夫な木材を組み合わせたガッシリした骨組みで作られた〘嶽弓〙(ガクキュウ・ゴウキュウ)を構える。 この〘嶽弓〙(商品名:レペクリカ・ボウ)は、その造りや観ての形状は少し弩弓の造りに似て見える。 普通の狩人が遣うシンプルな造りの弓とは、その飛距離や威力が違うのだ。 近年、冒険者と鍛冶屋が協力して生み出された武器で。 普通の弓と同じく縦に構えながらも弦を巻いて引き絞る為、狙いが難しい上に腕力を必用とする玄人仕様の弓である。 「・・・」 森の間から静かにリュリュを狙って、男は鋭く長い針の様な弓矢を放った。 そう・・・、リュリュを狙って放ったハズだった。 だが実際には、矢は番えて固定した所から下に落ち。 ギリギリと引き絞った弦が、音も、抵抗も無く切れていた。 「なっ・・」 何が起こったが解らず、驚く男の視線の中で。 クタクタと切れて落ちる弦の切れ目は、鮮やか至極の斜め。 刃物で切れたのは間違いが無い様子で。 「誰だっ?!」 嶽弓を手放し、剣に手を掛けて云う男。 「誰だ・・何処だっ?!」 男の視界では、遠くではしゃぐリュリュが自分に気付いている様子は無く。 別の誰かの仕業である事は、明白だった。 「宙に浮いてるガキの仲間だろう? 姿を見せろ」 と、男が言うと…。 「ハイデン。 5年前は、腐っても冒険者だったのに・・。 堕ちる所まで堕ちて、悪党のお抱え剣士サマってか」 下の方から声がした。 (チッ。 下かっ) 木の下へと降りて行く男は、途中から地面へと飛び降りた。 「ぬっ、誰だっ!! 俺様の名前を・・何処で聞いたっ!?」 すると、“ハイデン”と呼ばれた剣士の背後の巨木の影から包帯を顔に巻いた人物、Kが現れた。 細身のKが、ユラ~リと佇む。 ハイデンと呼んだ男に対し脇を向いて、である。 慌ただしく周りを見て、見付けたKをギラっと睨み剣を抜いたハイデン。 然し、Kの佇まいを見ているうちに…。 「ん? お・お前・・、まさか。 あの時の・・・剣士か? 確か、名前は・・・パーフェクトとかっ?!!」 揺れて佇むKは、何時の間にか短剣の刃渡りが一番長いものを左手に持っていた。 「フン。 俺の名前は・・どうでもいいさ。 それよりハイデン、逃げたいか? 逃げて生き延びたいなら、俺を倒して行け。 数年前は、俺に仲間を嗾けて逃げたっけか? だが・・・今日は、嗾ける切り札は………」 語るKに向かって、ハイデンは走って斬り掛かった。 然し、2人を確認できたのは、そこまでだろうか。 リュリュの元へ歩くKの周りには、ハイデンなる人物の姿は何処にも無い。 在るのは、血塗れとなる鎧の細切れと衣服だけ………。 「ケイさん、終わったよぉ」 「おう。 コッチも、終わった」 一方、この後だ。 襲撃に加担した悪党を倒して捕まえ。 オリヴェッティとルヴィアが、シャンティを伴ってアマゾネスの門番をする兵士に面会する。 毒の矢を受けて気絶させられたアマゾネスの警戒係の兵士2人も助けて居て。 捕まえた悪党達を彼女達へと引き渡す。 アマゾネスの守備隊の兵士は、気絶した仲間を受け入れ。 引き渡された悪党達を更にキツく縛る。 隊の中の指揮官か、口紅と頬の化粧が明るめの綺麗な長身アマゾネスが来て、にこやかに対応してくれる。 「なんと、なかまもたすけてくれたのか。 つよいおんなよ、ありがとう。 ほんとうにありがとうだ。 なにか、こまったことはないか? たすけをしてやりたいぞ」 少し片言になるも、会話は成り立つ。 旅の目的を聴かれて、悪党に攫われたシャンティを送り届ける途中で、この襲撃に遭遇してしまったと云う話にした。 この広場を仕切る部隊長のアマゾネスは、赤い口紅を引く筋肉質の麗人で。 濃い栗色の髪が癖っ毛となる者。 指揮官のアマゾネスから話を聴いて、広場なる場所に招かれたオリヴェッティ達の所に走って来てくれ。 「お、なんとうつくしいぼうけんしゃだ。 すけだち、たすかった。 ぼうけんしゃよ、つよいおんなは、だれでもかんげいするぞ。 とまってゆくか? さけもあるぞ」 特に女性を相手にすると、非情に友好的なアマゾネス。 その上、危ない所を助けられたと解ると、その態度はとても穏やかで。 また、彼女等は文化として、勇敢な女性を讃える。 握手をして感謝されたオリヴェッティやルヴィアだが。 特に、男女のどちらとも見れる美しいルヴィアには、金の飾り指輪と云う高価なものを差し出し。 その強さと容姿を讃えてくれた。 また、この場所を仕切る隊長なる女性は、自分のマントまでシャンティの着替えに使えと渡してくれる。 だが、どうしてか。 何故か頻りに、頻りに辺りを見て回しながら。 「おとこは・・いないのか? おとこも、カンゲイだ」 度々に聞いてくるアマゾネス。 この森を女性たった3人だけ抜けようとしているとは、やはり思ってないらしく。 森の方を何度も見て、男性の存在を確認しようとしてきた。 その話を躱すルヴィアは、捕まえた悪党をどうするのかと部隊長に聞いたのだが。 襲撃してきた者は、女王の前で刑に処すらしく。 どうやら、公開処刑する様子が窺えた。 悪党達が悪どい事をし、アマゾネス達を殺す前提で襲撃した訳だ。 部族を守る為、彼女達も掟に沿った刑を行うのだろう。 少しだけ饗(もてなし)を受けて、午後には旅立つと別れる事に。 共に戦った亜種人と挨拶をしながら、門の外へ出た。 其処へ、部隊長の女性は10人以上の兵士を集めて門の前まで見送りをしてくれ。 「たすかった、ほんとうにたすかった。 よければ、かえりもこい。 たくさん、くわせてやるぞ。 それから、きをつけてゆけ。 これをやろう」 旅の安全の為に、患部に貼る傷薬まで寄越し、別れの挨拶もしてくれたアマゾネス達。 この部族にKは何をしたのか。 彼女達に好感を抱いたルヴィアは、完全にアマゾネスの肩を持つしか心は動かなかった。 また、戦いに参加したエルフやリザードマンの亜種人となる者も何名か現れ。 見送りに付き合ってくれた。 さて、オリヴェッティやルヴィアを待つ為、離れた物陰よりその様子を見ていた男性達だが。 ビハインツだけ、膝をすぼめてモジモジとしている。 どうしてそうなるのか、解っているクラウザーだから。 「ビハインツよ。 見ていて堪らないならば、アマゾネスに姿を見せるか?」 「あ、あい、はい。 あっ、いや、愛玩奴隷は・・ちょっと………」 軽くニタリと笑ったウォルターで。 「お主は若い。 精力もあふれているから、可愛がって貰えそうだの」 吹き出しそうに成るクラウザーで、素早く横を向いた。
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