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「姫。」
青年は人魚を姫と呼ぶ。単純に人魚姫のイメージからだ。
「そろそろ帰るから。」竿を返してと言ったら、人魚には珍しく渋った。もう充分に大物を釣っているのに。
よほど楽しいのだろうか。歌まで口ずさんでいる。そして、その歌を聞いた途端に青年は崩れ落ちた。
ドサッという音に人魚は驚き、青年が船の上で意識を失っているのを見た。
「おい、人間!」人魚は船のヘリにしがみついて青年を叩くも、ぐったりとして動かない。
「しまった、歌か。」そこでようやく自分の歌が人間には毒なのを思い出した。
人魚は船上に上がり、青年を介抱してやった。
青年が起きたのは2時間も経ってからだった。
ーーー
「ふんふふんふふ~♪」
次の日。人魚は船の回りで鼻唄を歌っていた。昨日のような事がないように青年がどの程度平気なのか試すためだ。
「いいよ気にするなよたまになら気を失っても大丈夫だからっやめてくれぇ…!」
鼻唄でも影響はあるようで、青年は船のヘリにしがみついて顔を青くしていた。
そうは言っても倒れた時に頭を打ったりされては困る。人魚は耐性を付けていくのも含め、確認のためにしばらく鼻唄を歌い続けるのであった。
ーーー*ーーー*ーーー
「人間が来ない。」
海が荒れている訳でも、豪雨な訳でもないのに青年が来ない。
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