第1章

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意を決して港でぼーっと釣りをしているジジイに話してみた。昔からたまに話す相手だ。 泣きそうな人魚に何事かと思ったジジイは、話を聞いて笑いだした。 青年は里帰りしているそうだ。少し長めの休暇で、明日には帰って来るそうだ。 人魚はポカーンとした後、顔を赤くして沈んでいった。 「よう。そんなに寂しかったか?」次の日。青年は普通にいた。 ニヤニヤと見てくるのは、ジジイが昨日の事を喋ったからだろう。 人魚はムカついて青年を海に引きずり込んでぎゅっとしてやった。 青年はもがき苦しみながらさりげなく人魚の背中をポンポンしてやった。 そう言えば初めて会った時も引きずり込まれたな。なんて思いながら。 ーーー*ーーー*ーーー 「ふられた……。」 秋刀魚に脂がのってきた頃。青年は背後にどんよりとした雲を背負いつつ船の上でぼーっとしていた。 「ざまぁw」 人魚はそういって青年の横でワンカップを煽っている。 青年が失恋したらしい。なんでも5年も付き合っていた彼女にプロポーズしたら逃げられたのだとか。 「何が悪かったんだ……」 今は連絡も取れないそうだ。人魚は感情が抜け落ちたような青年を励ますような器用な事は出来ない。そばで酒を飲むくらいだ。 「姫に気絶させて貰った方が楽か……」 なんだか物騒なことを言う青年は殴っておいた。
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