第1章

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結局呼び名はとりあえず「友人」にすることになった。 ーーー*ーーー*ーーー 2月14日はバレンタインデー。 菓子会社が熾烈な争いを繰り広げている最中。青年は目の前の人魚をどうしたもんかと悩んでいた。 「機嫌直せよ。」 その言葉に人魚はピクリとも動かず、うつ伏せで海面に漂っている。知らない人が見たら顔を青くするだろう。 「明日は持ってきてやるから。」 青年は人魚を竿でつつきながら、毎年この日にチョコを持ってきていたのを思い出していた。 あれは元カノに貰っていた手作りチョコで、毎年自慢しに持ってきていたのだ。人魚はチョコが好きで、毎回半分ほど食べられていた。 「ゴボボッ……」 「いや、顔出してくれないと聞き取れないから。」 苦笑する青年に、人魚は顔を上げることが出来ないでいた。 青年が失恋したのをすっかり忘れてチョコをねだってしまったのだ。 最近やっとぼーっと空を眺めることも無くなったのに、思い出させてしまった。 謝るのもなんだか余計悪化しそうで、人魚はすぐに海に顔を漬けたまま。かれこれ1時間。 青年は人魚がチョコを欲しがっていると勘違いしてくれているので乗ることにした。 「……ロイ○のラム酒味がいい。」 「待て、それ近くに売ってないからな!?車でかなりかかるからな!?」 ざっと見積もっても寝る間がない。人魚は慌てる青年にニヤーっと笑った。 青年ははぁ~っと溜め息をついて人魚を見る。笑いかたがぎこちない。そんなに気を使わなくてもいいのに。 「わかったよ、明日な。」 苦笑している青年を見つつ、人魚は申し訳なさでいっぱいだった。
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