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その日は空が曇っており、晴れ間が無かった。
学力レベルは都内でも平均以下という評判の藤見学園は、市内の少し外れの高台にあった。
その屋上で一人の女生徒が屈(かが)みこんで何かをやっているのが分かる。
今は午前中の授業時間だ。
各教室では生徒達が熱心に授業を受けているのが、教室の窓からも見える。
女生徒の名前は牧田亜理紗。
何かをぶつぶつと呟(つぶや)いている。
良く聞いて見ると「洋子ちゃん・・・・ごめんね・・・・洋子ちゃん・・・・ごめんね・・・・」と繰り返しているようだ。
また屋上の彼女の周囲には、赤黒い液体で何かの大きな記号のようなものや文字のようなものが描かれて並んでいるのが見える。
牧田亜理紗は左手に何か西洋の書物をもっており、そこに記載されている記号や文字を書き続けていた。
牧田亜理紗が立ち上がって書き上げた記号のようなものや文字を確認する。
「洋子ちゃん、できたよ。これで敵(かたき)はとるから。麻美たちの味方しちゃってごめんね。私、ヒドイ奴だよね。これで・・・許してくれる?」
牧田亜理紗の右手には赤黒い液体を垂らしている書道用の筆があり、その傍にはカッターナイフが転がっている。
牧田亜理紗の左手首からは、赤黒い液体・・・・・否、血液が垂れていた。
屋上に書いた大きな記号のようなものや文字のようなものが、全て彼女の血液で書かれたのであるとすれば
もはや彼女は失血死寸前ではないかと思われる。
事実、彼女の顔が青白くなっていた。
彼女は朦朧とする意識の中で自我を保ちながら、書物に書かれてある内容を声に出して読み上げ始めた。
先月、藤見学園で大きな騒ぎが起きた。
大橋洋子という女生徒が電車のホームから線路に飛び降り、特急列車にはねられて死亡したのだ。
大橋洋子は藤見学園の生徒であり、遺書などは見つからなかったが学園内でいじめを受けていたのではないかという噂が飛び交っている。
女生徒の自殺というショッキングなニュースが報道され、藤見学園の学園長は記者会見に出席したが
「全生徒、全保護者、全教師に確認はしたが、当学園にはいじめがあったという事実は確認できていない。」
と宣言した。
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