第1章

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彼女の本名は常盤幸子。 彼女には、双子の姉が居た。 姉の名は優衣。 自分の彼女だった。 二人は双子なだけに、声も、容姿もそっくりだった。 勉強や運動神経は、妹の幸子の方が上だった。 優衣は、時折幸子を羨ましがっていた。 逢う度に幸子の話が増していっていた。 それは憎しみにも似た羨望だった。 『何故、双子でこうも違うのか』 『何故、自分だけこんなに周囲から言われなければいけないのか』 『何故、姉妹で比べられるのか』 兄弟間、姉妹間で比較される事はよくあることだが、双子となれば尚更それが顕著に表れる。 関係が対等故に、劣る方への攻撃は容赦がない。特に、それが兄、若しくは姉の場合精神的に来る程である。 妹がこれだけ出来るのに、何故お前は出来ないのか。 妹を見習え。 たった少し、産まれた時間が違っただけで、何故こうも言われなければいけないのか。 親としてはその言葉をバネに伸びてもらいたいと思っているのだろうが、多感な時期の子供には、それで心を抉られ一種のトラウマになる場合がある。 厳格な両親の元で育った優衣は、心に傷を負ってしまった。以来、テストや体育の授業時には決まって休みがちになっていた。 後に一人だけでテストを行っていた事から、周囲からは『ずる休みする最低な女子』と侮蔑の目を向けられていた。 そんな中、自分だけは彼女に軽蔑の目を向ける人達に反論していた。 彼女にも事情がある。それを理解しないで罵倒するのはおかしな事じゃないのか、と。 当時の自分はクラスの中でもリーダー的な立ち位置で、発言力はクラスの誰よりもあった。 その甲斐あってか、彼女を軽蔑していた人達は表立って言うことはなくなっていった。 だが、対照的に優衣の様子が日に日におかしくなっていった。
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