第1章

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優衣は、周囲の人達の事、両親の事、そして幸子の事を悪く言い始めた。 まるで自身がこんなに悩んでいるのは全て他者のせいだと言わんばかりに。 特に幸子の事は酷く言っていた。 あまつさえ『殺したい』とも言うようになった。 リストカットもするようになった。 登校拒否になり、家に見舞いに行った際には、そのあまりの変わり様に驚いたのを今も覚えている。 頬は痩せこけ、目付きは悪く、髪もボサボサで、見ていられない程だった。 虚ろな目で恨み節を呟く彼女は、酷く痛々しかった。 『あいつなんて、とっととこの世から消えればいい。』 幸子の事を言っているのだろう。 姉妹という関係が、これ程まで人を貶める事になるとは、世の不条理はここまで酷いものなのか。 自分は、満身創痍の優衣を強く抱き締めた。 十何年も悩み苦しんでいた彼女の力になれなかった後悔に駆られ、自分は涙を流していた。 彼女の冷たい肌に触れた瞬間、自分の心が突き刺されるような感覚に陥った。 自分はただひたすら、彼女に謝り続けた。 彼女の家を出て、自分はこれから彼女に何が出来るか模索した。 だが、現実はそれを待ってはくれなかった。 その翌日、彼女が死んだのだ。 自分と別れてすぐ、彼女が突如錯乱し、家中を暴れ回り、キッチンにあった包丁で幸子を殺そうとしたらしい。 幸子が取り抑えようと優衣に近付いたその時、包丁の刃先が優衣に向いていた事に気付かず、結果、優衣が自身を刺した形となったとのこと。 自分がその報せを聞いた時には、既に優衣は棺の中で眠っていた。 何故連れ出してまで救おうとしなかったのか。 何故もっと理解してあげられなかったのか。 後悔の念で、押し潰されそうになった。 だが、後悔していたのは自分だけではなかった。 双子の妹・幸子も、姉の死を悔やんでいた。 この一件は公にはされず、寧ろ何事もなかったかのように終息した。 それは何故か? 幸子が、姉・優衣になり、優衣は生きている事になったからだ。
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