第1章

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幸子は自身を捨て、『優衣』として生きる事を選んだ。 代わりに『妹・幸子』は海外に留学した事にし、『幸子』の存在を日本から消した。 顔も声も体型も瓜二つな二人だ。周囲の人達は全く気付く由もなかった。 ただ、自分と、自分以外では、幸子の親友であった女子生徒・神原美穂子だけは、はっきりと見分けがついていた。 幸子は『優衣』として、また、優衣が望んでいた姿として、常に親に褒められる存在であり続けた。 それが、死した姉にしてあげられる唯一の罪滅ぼしだと思っていたのだろう。 幸子の懸命な姿に、自分は心を打たれた。 自分は、幸子に告白していた。 その後、自分と幸子は付き合うこととなった。 周囲からは『ずっと続いてるカップル』と思われていただろうが、実際は『今日から付き合い始めたカップル』だ。 自分は、幸子を目一杯愛した。 『今の優衣』を幸せにすることが、『かつての優衣』に、そして『今の優衣』にしてあげられる唯一の罪滅ぼしだと信じて。 良好な関係が続いていたが、ある時を境に、『優衣』があまり話してくれなくなった。 一体何故なのか理由が分からず、『優衣』の親友の美穂子に聞いてみたが、美穂子も分からないという。 親友も、彼氏である自分も分からないという事態に、自分の脳裏にある人物が過った。 『かつての優衣』だった。 『かつての優衣』も、周囲に話そうとはしなかった。自分には話していたが、それも一時だけ。最後は変わり果てた姿になっていた。 まさか、『かつての優衣』と同じ事になっているのではないか-- そう思った自分は直ぐ様『優衣』の家に行った。 チャイムを鳴らすと、両親が出てきた。 その姿に、自分は驚いた。 まるで何かに怯えるように、顔が真っ青になっていた。 ドアノブを握る手も、真冬でもないのに震えていた。 何かが起きている--そう確信した自分は、家に上がらせてもらい、『優衣』の部屋に向かった。 自身の震える手をもう片方の手で何とか止め、ドアノブを握り、ドアを開けた。 目の前の光景に、自分は息を呑んだ。
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