第1章

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正に、地獄絵図だった。 床に散らばっている服や本はビリビリに破かれ、 壁には鋏かカッターで切りつけたであろう痕が無数についており、 箪笥や化粧台が倒れ、割れた鏡の破片が散乱していた。 自分は言葉も出なかった。 だが、ベッドに座っている彼女は違った。 「いらっしゃい。」 ニタァっと笑う彼女の顔は、最早人のそれではなかった。自分は、その様相に見覚えがあった。 『かつての優衣』だ-- 『今の優衣』は、『かつての優衣』と同じ状態になっていた。 予期していた事が現実になり、自分は愕然とした。 何故、自分の愛した人がこんな事にならなくてはいけないのか。 自分は、『かつての優衣』の時と同様、直ぐ様『優衣』に駆け寄り抱き締め、謝罪の言葉を何度も何度もかけた。 「今更遅いわよ。」 『優衣』が、今まで聞いたことがない様な低い声で呟いた。 「優衣姉ちゃんが何で死んだか、分かる?」 口元は笑みを浮かべるも、目が笑っておらず、寧ろ怒っているような目をしていた。 『優衣』の問いに、自分は『自分のせいだ』と直ぐには言えなかった。いや、言えないように口止めされたようだった。 「優衣姉ちゃんはね、自分から死んだの。」 形上だけでなく、自ら死を選んでいたということは初耳だった。 「優衣姉ちゃんは、私と貴方が付き合っていると思って私に嫉妬してたの。まぁ、私への嫉妬は前からだけどね。 それと同時に、貴方も恨んでた。 自分と違って比較されない人が、自分の事を理解してるつもりだった事が気にくわなかった、 周りが敵ばかりの自分と違って、周りが味方ばかりの貴方が恨めしかったって言ってた。」 持てるものと持たざるもの--双方の歩み寄りは、時に間違った方向へ傾く事がある。 『かつての優衣』にとって、自分はどう映っていたのか、予々気になってはいたが、まさか憎まれていたとは知らなかった。 「嫉妬心から優衣姉ちゃんは私を殺そうとした。けど、出来なかった。優衣姉ちゃんは、私を許してくれたの。そして、自分で刺した。 私の分まで生きてって言って。」 死ぬ間際、『かつての優衣』が、本来の優しさを取り戻した。それは、自分が取り戻させる事が出来なかったもの。しかもそれが自ら命を断つ直前にやっと-- あまりにも悲しい結末に、自分の頬に、一筋の涙が伝った。
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