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僕は無我夢中で、六畳間のボロアパートに逃げ帰った。部屋がびしょ濡れになるのもかまわず、そのまま座りこむ。ぐちょぐちょになったダンボール箱を横に置く。箱には、かつての面影はなかった。軽く指で押せば簡単にへこむし、滑らかだった平面はしわだらけであちこち破れている。戦利品どころか、ただのゴミと化していた。もう価値はない。
冷蔵庫から缶コーヒーを出し、ちびりちびりと飲む。次第に、気分が落ち着きだす。同時に、僕の心を不安と恐怖が包みこむ。
僕は、見られていた。おそらくは。僕はあのとき、白い紙に舞い降りた一点の黒いシミと同じだったに違いない。これでは、いくら視線から逃げようとしても同じだ。
不安の種が芽吹き、妄想は成長し、与太話に鮮やかな花を咲かせる。ショップにいた店員たちに目撃情報を聞けば、彼らはきっとこんな証言をするだろう。
ショップ店員Aの場合。
「ええ、見ました。あのどしゃ降りの中、傘も差さず走っていましたからね。いやでも目につきますよ。箱? はい。確かに持っていました。折りたたんで傘代わりにしていましたよ、確か」
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