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全てのものには期限がある。
物だけじゃない。人の命や感情にも。
永遠の愛だ。なんてロマンチストは言うけれど、そんなの幾十年後にどうなっているかなんてわからない。
もちろん早乙女(さおとめ)篤(あつ)はそんな幻想を信じていなかった。
しかし、彼は思う。
それらはきっと限りあるから美しくて儚いのだろう、と。
だからこそ人は永遠を求めるんじゃないか。いや、永遠であってほしいと思うんだ。
あの時、この場所で、優月(あいつ)といたことを。その事実を。永遠にしたいんだ。
なんて、性に合わないことを考えてみる。
これを聞いたら優月(あいつ)は笑うだろうか。
愚問だ。間違いなく爆笑する。
腹を抱えて「くっさー! 身震いがするー! 死ぬぅぅぅー」とか叫びながら、篤を小馬鹿にするような目で数時間は笑い転げるだろう。
思い出しただけで左手はデコピンの構えを作った。
しかし、その笑顔にもやはり終わりは来たのだ。
そして、終わりが来ることには相対して始まりがある。
篤はそこに来ていた。始まりのその場所に。
右脇には今どき珍しい筒入りの卒業証書。左胸には桃色のチューリップが刺さっている。
見渡した桜並木に花はまだ咲いていない。
桜にだって花を咲かす期間はある。基本は春限定で、今は三月も頭。だから相変わらずこの場所は寒々しい。けどいいのだ。その日も桜は咲いていなかったから。
高校一年の十月末。それはすごく中途半端な時期だった。年間の行事もほとんどやり終え、一段とこの並木が寒そうに風に靡いていたその日。
優月(ゆづき)は篤に言った。
まだ、互いの事をまったく知らないというのに、優月は不敵に笑って言ったのだ。
「――一ヶ月限定であたしの彼氏になりなさいっ!」
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