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不良。自分の見てくれを一言で表すなら、それが一番似合っていることは篤自身もわかっていた。
いつも怒っているような鋭い三白眼。引きつった頬に薄い眉と黒の短髪。無愛想に結ばれた口元には先日練習試合でもらった青あざがまだ残っている。身体も筋肉質に引き締まっているし、背だって百七○を余裕に超えて威圧的だ。これで中指でも立ててみた日にはそこらのゴロツキとは比にならないほど素行に難ありの人間。
人ごみを歩けば自分の周りにだけ空間ができるし、教室の戸を開けるだけで一瞬空気が静まり返る。クラスメイトも敬語で話しかけてくることが多い。それが早乙女篤だった。
だが、そんな篤にも穏やかなパーツはある。すっきりとした鼻筋にやんわりとした二重の瞼。瞳だって目つきが悪いだけで、しっかりと見開けば黒目が大きく可愛らしい目をしている。全て母親譲りだ。
だが篤はそれが嫌いだった。理由は簡単である。母親譲りだからだ。
篤がもう一度ため息をつくと、洗面所の脇においてあった携帯電話が光る。唯一の友人とも言える妹尾(せお)竜也(たつや)からのメールだ。
『転校生の子、可愛いといいなぁ! 楽しみすぎて早く起きちまったよ!』
「――あのバカ」
思わず言葉がこぼれる。
そういえば昨日の帰りに担任が今日付けで転校生が来ると言っていた。女だそうだ。教室はやたらと盛り上がっていたが、篤にとって気持ちの良い話ではない。同じ空間に嫌いなものがひとつ増えるだけ。
「……チッ、胸糞悪い」
篤はタオルを投げ捨てて、もう一度サンドバックに向かう。今日はぎりぎりまで撃ち込むことにした。
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