ー忌憶ー

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その声にみんな顔を上げる。声の主は佐々木だった。 「樋山先生は僕達の為にああやって対応してくれたんじゃないか。もしも、あのまま北沢が逆上して僕達に手を出したら、もはや遠足どころじゃない。樋山先生には感謝すべきだよ。」 佐々木は微笑んでそう告げ、みんなは各々顔を見合わせた。 「確かに…。北沢の近くにいたから、俺ももしかしたら危なかったかもしれないし。」 「樋山先生は別に私たちには何もしてないもんね…。」 佐々木のあの言葉でみんなの樋山先生への恐怖が和らいでいく。だが、みんなは何も気付いていない。 佐々木は最初“何を怖れているんだ”とみんなに疑問を投げかけた。それはあの樋山先生を見て、“何も感じなかった”ということ。 背筋がぞわっと震え上がる。佐々木には恐怖という感情がないのかと。 その答えは私には分からないが、少なくとも佐々木はあの程度では何も感じない異常な人間ということだ。 ーーそのことが、私にはとても恐ろしく思えた。
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