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episode174 酔狂サーカス①
始まりは
真の暗闇だった。
両手をくくられ
視界を塞がれたまま。
「いるの……お兄様……そこにいるの?」
どれぐらいそうして
放って置かれただろうか。
時間の感覚はもちろん
自分が自分である感覚さえ失われてゆく中で。
「――いるさ。ずっとここにいる」
頼りは時折遠くで
あるいは耳元で聞こえる淡々とした声。
「もっと近くに来て……ああ、そうだよ。征司お兄様の匂いがする」
そして敏感になった嗅覚だけだった。
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