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わざと騒ぎながらみんなが遠ざかる。それが静まった辺りで校舎の外へ出て、ここからは一人の下校だ。
校庭に向かい、チラチラ朝礼台を眺めて進む。
予想はしていたけれど、人がいる気配なんてない。
七不思議とかの噂なんて、しょせんそんなもんだよな。
そう思った瞬間、不意に肩を叩かれ、俺は飛び上がりながら背後を振り返った。
「何してるの?」
そこにいたのは見たことのない女子だった。
背が高い。多分、百六十はあるだろう。百四十台の俺の前に立たれると自然と見上げてしまう。
「何してるの?」
もう一度問われるなり、何故だか俺は、素直にクラス総意の企みを語り出していた。
「ここに、ウチの学校の七不思議一つである、朝礼台関連の幽霊が出るらしいんだ。今、それの検証してるトコ」
ウチの学校の児童なら、みんなが知っている怪しい噂。これを口にすれば変なことをしていても切り抜けられる。
そう考えた俺の目見通り、目の前の相手は『そうなんだ』と頷いた。でもその対応は納得してくれたからのものではなかった。
「その話、変だと思わなかったの?」
「変て、何が?」
聞き返すと、相手は、俺とまったく同じ疑問点を指摘してきた。
ああ、やっぱり俺だけじゃなかった。きちんとそう考える奴もいたんだ。
そう考えた折も折、やたらと背の高いその女子は、何故だか朝礼台の上に上った。そこからグラウンド全体を眺め回す。
「そそもさー、それ、気にかけるポイントがおかしいんだよ」
「ポイント?」
「朝礼台って、基本的に先生が立つ場所でしょ? つまり、そこに化けて出るならそれは先生。でも、先生が幽霊になったとして、ただ立ってるならともかく、近寄ってきた一人きりの子を手招きするとか、すると思う?」
…ああ。確かに。
今の言葉で目から鱗が落ちた。
言われてみれば、朝礼台なんて、ほぼほぼ児童が立つ場所じゃない。そこに立つのは常に先生達で、こっちはせいぜい掃除をするだけ。場所に固執するようなことはないだろう。
「そこに立つのは先生だけ。それも、名前の通り、『朝礼』の時には、校長以下、入れ替わり立ち代わりでそこに立つの。…話を聞いてる側の辛さなんて考えずに」
ふと、隣の相手の口調が変わった気がした。それに少しだけ戸惑って相手を見ると、さっきより遥かに苦しそうになったその顔は、ひたすらに朝礼台を見据えていた。
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