きみにクローバーの花束を

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「ありがとう、いただきます」 「どうぞ、召し上がれ」 焼き上がったトーストをそのままこちらに渡しながらシオンが言う。いつもバターをつけてから渡してくれるのにおかしいな、という疑問はすぐ解消した。 「あ、デニッシュ?」 「すきだろう。ここのところ食が進まないようだから、好物なら食べるかと思ってな。バターはくどくなるからそのまま食べろ」 あっさりと応えて、シオンは向かいの椅子に腰かける。彼の背後の棚に置かれた紙袋には、おいしいデニッシュを通販しているパン屋のロゴが印字されていた。 ポットからマグカップに紅茶を注ぎ、さらにミルクを注意深く注いでいく。自分は紅茶なんて飲まないのに、私の好きな茶葉とミルクの分量まで把握して。 最近食欲が落ちているからって、わざわざ私が好きなデニッシュを取り寄せて。 ぎゅ、と胸が締め付けられる、そんな音がした。 その大小さまざまな言動、そのひとつひとつか私の胸を圧迫して、食事が通らないようにさせているということを彼はまったく気づきはしないのだ。 だから私はデニッシュにかぶりついて咀嚼しながら自分に言い聞かせる。 『勘違いするな』
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