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“さすがに由宇は、半分こできないな”
なぜ、秀次郎に気付かれた。
俺でさえ、自分の気持ちに気付けなかった。由宇が離れていくまで、気付けなかった。
なぜ。
「兄ちゃん、顔に出過ぎ。なんでわかったのか、って聞きたいんだろ?」
「あ、なん…」
くそ。言葉にもならないぐらい驚いてるってことかよ。
そっちに驚くわ。
「兄ちゃんは、優しいね。俺が由宇のこと好きなの知ってたから、言えなかったんでしょ?」
「秀次郎、待て。俺は別に由宇の、」
「苦しいよ、今更言い訳するのは」
苦しい、だと?
お前に何がわかる。
言い訳じゃない、これは俺のシールドなんだ。
認めたら、すべて終わりだ。俺が築き上げてきたものすべてが、なくなる。今までだけじゃない、これから得られるもの、築き上げるもの、未来に待つすべての幸せが、なくなる。
俺の、幸せが。
俺の幸せって、何だ?
「だんまりってことは、認めるってこと?それとも、口を開いたら言いそう?由宇が好きだ、って」
「秀次郎、黙ってくれ」
「黙らない。見ててイライラするよ、兄ちゃん」
兄貴に向かって、イライラする、だと?口を慎め、弟よ。
「兄ちゃんだから、我慢する?弟に譲る?違うよな。女は物じゃないんだ」
「秀次郎、勘違いしてる。譲るも何も、俺は由宇のことを好きなわけじゃない。あいつはずっと、可愛い妹みたいなもんだし、今は部下だよ。お前が勘繰るようなことは何もない」
「じゃあ、俺が由宇とどうなっても何も思わない?」
「どうなってもって…秀次郎、酷だが由宇には男がいる」
「それでもいい。俺、兄ちゃん以外の男には負ける気がしないから」
由宇が好きだという気持ちだけで突っ走る秀次郎を目の前にして、なんて男らしく育ったんだろうと思う。
やっぱり、同じ血を分けた兄弟。いい男だな。
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