嘘で自分を守る男

9/10
127人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
「告白…されたの?」 「…はい」 「好きなの?その男のこと」 「…は…い」 自分の中に落とし込むために、そっか、と小さく呟いた。自分を、納得させるため。 うん。間違っていない。 由宇の選択は、間違ってなんかいない。 「信じてもらえないかもしれないけどさ、本当に嬉しかった。由宇とこうしてまた、当たり前のように一緒にいられて」 「なんの…ことですか?」 「うん。ほら、俺たち、というか俺が、昔あんなことしたからさ」 由宇の姿が、霞む。周りの視界ははっきりしているのに、由宇だけが、霞んで見える。 後悔、しなかったって言ったら嘘になる。あの日のこと。でも、我慢なんてできなかった。できるわけがなかった。 初めて会った日から、あの瞬間から、俺の五感は俺に言っていた。 運命だ、って。 「だってお前、可愛すぎ」 ちゃんと、笑えているだろうか。いつもの、間宮藤次郎だろうか。 「この会社に入ってきれくれたことも、俺と普通に接してくれたことも、俺に抱かれてくれたことも、全部。全部、すげえ嬉しかった」 トラウマになっても、おかしくはなかった。大切な初めてを、急にやって来た隣人に奪われた。 嫌悪されてもおかしくはなかった。いくら上司だとはいえ。 それでも、由宇は拒否しなかった。 もしかしたら、本当に“神様”ってヤツはいるのかも、って。 一度も信じたことのない俺も、思ってしまうほど。 「俺はね、由宇。馬鹿だから。外見で苦労したことなんてないし、それなりに良い大学も出たし、仕事も順調だし、女の子にも不自由したことはないけどさ…」 でも、大切なものに気付くのは、すごく遅かったみたいだ。 「多分、初めて会ったときから…俺は、由宇のことが好きだったんだよ」 本当、遅いよな。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!