月下美人

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 「面接ってどうするの?」  さっちゃんが素朴な疑問を口にした。そうか。ここにいる女性達は面接経験がないんだ。 私は確か日日新聞社に入社する時に面接を受けたけれど、作家や古書店の店長だと面接をする機会がないのだから仕方のない話だ。  「名前、年齢、学歴、特技、志望動機などを訊かれますのでそれを答えていく形になります。第一印象も大事ですが」皆の方を一瞥する「それは心配ないでしょう」  嗚呼、私も色々訊かれたな……。  「私…学歴ないんじゃがどうすればええかいね?」  さっちゃんが急に慌てふためいた。  「学歴が…、ない…?」  「東京の親戚に預けられてから、家庭教室の先生に勉強を教えて貰っとったんよ。じゃけ、早稲田だの東大だの学校には通ってないんよ……」  恐らくは原爆が広島に落とされたのが影響しているんだろう。これ以上、さっちゃんの過去を訊いてはいけないような気がした。  「私もよ。小さい頃から本屋の仕事手伝ってたし。焼かれた後はホウコウして建て直すお金を工面してたから学校どころじゃなかったわよ」  種村さんも、お店建て直すのに苦労したんだろうな……。  「兎に角、訊かれた事に、すみやかに、はきはきと、正直に答えれば大丈夫だと思いますよ」  「と言う訳だ。皆、心の準備はいいね?」  出海さんはワゴン車のフロント硝子に見えて来た月下邸を指差して言った――
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