種村奈緒

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 鍋からぐつぐつとお出しが沸騰する音が聞こえて来たので、丸い木の蓋を開けてみる。天辺の青菜達はくたくたになりながら震えていて、その下では玉葱や人参などの野菜が煮え、四角い豆腐がぷるぷると踊っている。鍋からこれら食材の芳醇な香りと一緒になってもくもくと立ち上って来る湯気の臭いもまた食欲をそそる。  「お肉もあるけど、何のお肉かしら?」  さっちゃんはお鍋の中にお肉を発見した。  「それらは猪や熊の肉です」  「牛や豚じゃあないんだ。この界隈でよく出没するんですね」  さっちゃんは珍しそうに箸で摘んだお肉を眺めてから口に入れると「旨いっ!」と唸る。  「猪や熊は農作物を食い荒らすので大変ですよ」  野良猫や野良犬なら都心部ではよく見かけるが、猪や熊は私も見掛けた事がない。  「猟銃も持ってらっしゃるのね」  さっちゃんの悪い癖が出た。  「熊や猪が出る片田舎で銃声が聞こえたら、誰もが猟だと思うけれど、それを利用して男は女を山の中に誘い込み射殺する。これを雪だるま殺人事件の最初の手口にすると繋がりそうね」  ワゴン車の中での話と繋げてしまってるし。他のにするんじゃなかったのか、さっちゃん。  「ははは。なかなか想像力が逞しい人ですね。推理作家さんですか?」  月下氏は笑いながらそう言った。  「ご明察です」  「因みにまたも推理は破綻していますが、猪と熊は冬は冬眠するのでその口実は使えないと思います」  綺羅さんが再びさっちゃんの推理を指摘した。  「どこから猟銃が出て来たの?」  松枝さんが続いた。  「月下さんは猪や熊が出ると言ってたわよね。素手やそこら辺の道具で対抗出来ない筈。だから猟銃を持つ必要もあるし、ある程度の腕も必要になる」  先程の月下氏の言葉から物語を構築したようだ。
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