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「モデルの募集があなたの目的ですか?」
私は、月下美人氏に単刀直入に訊ねた――
世間に顔と声明を出すことのない稀代の春画家として知られる月下氏は、その名前から私は女だと思っていたが、男だったとは驚きだ。
そんな月下氏は私が勤務する日日新聞社に話しがあるから屋敷に来て欲しいと電話で呼び出して来たのだ。
何でも、前の絵画のモデルが突然屋敷から姿を消してしまったらしい。
「新城孝子(あらき たかこ)君だったか。察しが早いな」
月下氏は煙管の紫煙をくゆらせながら返事をした。氏はどうやら屋敷の屋根裏をアトリエにして絵画を描いているようだ。
三角に尖った屋根裏部屋のあちこちから絵の具と墨、それから氏の愛煙する煙管が入り混じった臭いがこちらに伝わって来るし、氏の描いた春画のモデル達の視線が私の背中に突き刺さってくる――
こんな取材は新聞社に勤めて初めての経験だ。
「お誉め頂き、有り難うございます」
今回の取材は私自身が非常に気になる点が幾つかあるが、それは私が訊いていい質問かどうかと考えると、躊躇してしまうのだが。
「私に訊きたいことがあるようだね。例えば“前のモデルはどうして屋敷から消えたのか”とか――」
私の訊きたかった事を。訊く前からさらりと言われてしまった。
「先に回答しよう“それは答えられない”…何故ならば君は自分の置かれた境遇をきちんと弁えた人と見受ける。本来ならばそれは君ではなく“警察がする質問の類”だからだ。それに答えてしまうと君の信条に反する事になるから答えないこととしておくよ」
「お察し頂き光栄です」
「変わりにもう一つの疑問には答えよう」
「何故、私が呼ばれたのか、ですね?」
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