月下美人

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 「仰る通りです」  日日新聞社のことを考えると、気分が滅入りそうになり少しだけ目を伏せてしまった。  「やはりな…。私の絵画のモデルにぴったりの逸材ではないか。君さえよければ私のモデルにならないかね?」  月下氏は椅子から立ち上がり、私の前までやって来た。氏は冗談の積もりで言ったのだろうか。私をモデルにするだなんて。  「月下さん。話が本題から逸れてますが、モデルの募集の件ならば明日の新聞に直ちに掲載致しますが、掲載事項に何かご要望はありますか?」  私は話を軌道修正して月下氏に訊ね返してみた。  「判ってる、そうだったな。ふむふむ。あんまり大勢来られても選ぶのが大変になりそうなので募集は六名までとしておこう」  「畏まりました」  「それから、これは冗談抜きで言うのだが、君のような優れた美人はもっと高く評価されるべきだと私は思うんだよ…。新聞社で骨を埋めさせるのは実にもったいない」  「少し買い被り過ぎだとは思いますが」月下氏から概ねの要件は訊いたので私は屋根裏を立ち去ろうとしたが、やはり気になる。 氏はモデルの失踪に関して何かを隠しているように感じるのだが、今回の取材で終わらせてしまうと、二度とその真相を調べることは出来なくなりそうな気がする。  「月下さん…」  「なにかね?」  「モデルの採用試験ですが、私に取材させて貰えないでしょうか?」  次にこの屋敷を訪れる理由を作っておくことにした。  「勿論。新城君なら歓迎しよう」  「それと、アトリエの様子を写真に収めたいのですが、宜しいでしょうか?」  そう訊ねると、月下氏は少し黙って考える素振りをした。
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