月下美人

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 「良いだろう。君にだけ特別に撮影を許可しよう。好きなだけ撮りなさい」  「…………」  月下氏はアトリエの撮影を許可してくれたが、隠したものが私にはばれないと言う自信でもあるのか? 或いは隠した場所は此処では無いのか。或いは本当は何も隠していないのか……。雑多な疑問が頭の中を駆け巡るが。 私の経験から言わせると人間は嘘を吐くが、写真は嘘を吐かない。  「有り難うございます」  私は月下氏のお言葉に甘んじて屋根裏部屋に飾られた春画の数々や、一枚の画板を木の椅子二つで挟んだ感じのアトリエの様子、それから月下氏が描画に使う絵の具やパレットや筆などの道具を撮影させて貰った。 なかば、私の推理は杞憂だったのかも知れないと思いながら―― 例えば、アトリエのこの雑多なものが一色譚にしたような独特の臭いは、此処に隠した遺体の臭いを隠す為のカモフラージュなのかも知れないと。 それに、屋根裏部屋は遺体を隠すには格好の場所だとも思ったのだが……。 ともすれば月下氏は、屋根裏から毒を垂らして前のモデルを殺害したのだとか、はたまたパレットナイフを凶器に使ったのだとか行き過ぎた推測をしてしまいそうなので、一通り撮影し終えると「良い写真が撮れました。有り難うございました」  一礼して屋根裏の蓋から月下氏の寝室に抜けようとした。
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