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「新城君。これを持っていきなさい」
月下氏は親切にも火の点された蝋燭立てを私に手渡してくれた。
11月の初旬ともなると、日没も早く外は既に真っ暗になっていて、灯りなしでは迷ってしまいそうだ――
それに、外は雪がちらちらと降っていて切りつけるように寒たい、和服を着ていても冷たい空気が肌に染みる程だ。
私は月下氏から受け取った蝋燭立てを手に、氏の寝室を抜けると、一階に降りて、広々とした客間と厨房に挟まれた廊下を静かに渡り、月下邸の玄関口を目指した。
月下美人がモデルを募集していると言う記事は、新聞社の男達はきっと横取りして来るに違いないだろうなぁ。
でも今回は、今回の取材だけは新聞社の男達の誰にも渡す訳にはいかない。厭。誰にも渡したくない――
頼まれても。脅されても。幾らお金を積まれても……
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