第1章

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都立玉子高校3学年に高谷岳人(たかやがくと)がいる。 彼はスポーツ万能で、頭脳明晰である。 部活はサッカー部でポジションはフォワードだ。 彼の異名は高校名から取られ、”高谷王子”と呼ばれる。 そして、模試では都内で学年トップ20に入る、 学校きっての秀才である。 一年生の頃から顔も頭も体型も完璧な彼は、 入学してすぐに一躍ヒーローになった。 街を歩けば、女子高生から奥様、 幼稚園児も彼を振り返る。 「きゃー、なにあの人ちょーかっこいい。」 「やだ、私と目が合っちゃった。」 「あの子が息子ならずいぶんと幸せよね~」 そして、 今日も羨望のまなざしで女性を虜にする、高谷である。 久々の休日で、私服も髪型も決め、 モデルのスカウトに声をかけられたが、断る。 彼はそういうものを好まないらしい。 通り過ぎる女性たちから黄色い声が高谷にかけられる。 カップルの彼氏は焼きもちを焼いている。 すると、目の前にいる少女が持っていたハンカチを落とした。 高谷はそれに気付き、 50メートル5秒台の俊足を飛ばし、拾う。 「はい、落としたハンカチ。気をつけてね!」 辺りの空気が変わった。黄色い声が止まる。 顔を青ざめる女性たち。彼氏は驚いている。 周りの視線が高谷に集まっている。 そしてハンカチを受け取った少女が口を開く。 「まぁーまぁー、  このお兄ちゃん声高くてきもいよー!  こわいよー!」 「どうもありがとう。まゆちゃん、ささいきましょう。」 母親がそう言い、親子は足早に去った。 百年の恋も冷めたのか。 唖然とする女性たちを置いて、高谷は街を歩く。 そう完璧な彼の欠点は少女並みの声の高さであった。 その声の高さは部活で対戦する相手、審判を驚愕させ、 付いた別名が”イケメン少女”。 学校内では女子よりもオタク男子にモテモテであった。 そう、神は二物を彼に与えなかった。 なんとも言えない悲劇である。 生まれるならどっちがいいだろうか。 凡才か? 才色兼備の天才(声が異常に高い)か? もしも後者なら、たった一言で世界が変わるだろう。
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