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都立玉子高校3学年に高谷岳人(たかやがくと)がいる。
彼はスポーツ万能で、頭脳明晰である。
部活はサッカー部でポジションはフォワードだ。
彼の異名は高校名から取られ、”高谷王子”と呼ばれる。
そして、模試では都内で学年トップ20に入る、
学校きっての秀才である。
一年生の頃から顔も頭も体型も完璧な彼は、
入学してすぐに一躍ヒーローになった。
街を歩けば、女子高生から奥様、
幼稚園児も彼を振り返る。
「きゃー、なにあの人ちょーかっこいい。」
「やだ、私と目が合っちゃった。」
「あの子が息子ならずいぶんと幸せよね~」
そして、
今日も羨望のまなざしで女性を虜にする、高谷である。
久々の休日で、私服も髪型も決め、
モデルのスカウトに声をかけられたが、断る。
彼はそういうものを好まないらしい。
通り過ぎる女性たちから黄色い声が高谷にかけられる。
カップルの彼氏は焼きもちを焼いている。
すると、目の前にいる少女が持っていたハンカチを落とした。
高谷はそれに気付き、
50メートル5秒台の俊足を飛ばし、拾う。
「はい、落としたハンカチ。気をつけてね!」
辺りの空気が変わった。黄色い声が止まる。
顔を青ざめる女性たち。彼氏は驚いている。
周りの視線が高谷に集まっている。
そしてハンカチを受け取った少女が口を開く。
「まぁーまぁー、
このお兄ちゃん声高くてきもいよー!
こわいよー!」
「どうもありがとう。まゆちゃん、ささいきましょう。」
母親がそう言い、親子は足早に去った。
百年の恋も冷めたのか。
唖然とする女性たちを置いて、高谷は街を歩く。
そう完璧な彼の欠点は少女並みの声の高さであった。
その声の高さは部活で対戦する相手、審判を驚愕させ、
付いた別名が”イケメン少女”。
学校内では女子よりもオタク男子にモテモテであった。
そう、神は二物を彼に与えなかった。
なんとも言えない悲劇である。
生まれるならどっちがいいだろうか。
凡才か?
才色兼備の天才(声が異常に高い)か?
もしも後者なら、たった一言で世界が変わるだろう。
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