2259人が本棚に入れています
本棚に追加
「ふぅっ……。温まったな~。」
「今、夕飯出来るから待っててね。」
お父さんがお風呂から上がるタイミングに合わせて、ガスコンロの火を止める。
グツグツとお鍋の中で音を鳴らす、今日のメインディッシュはカレーライス。
料理が得意とはいえない私の、唯一自信があるメニューだ。
「お、美味そうだな。」
ソファにいた筈のお父さんが、いつの間にか私の隣に立っていてソッと鍋を覗き呟いた。
立ち上る湯気で銀色フレームの眼鏡が真っ白に染まってる。
さっきまで、ビシッとセットされていた髪の毛も半乾きであちこちに毛先を向けていてなんとなく頼りなさそうに見える。
普段は規模は小さいながらも、建築会社の社長さんとして真面目に働く私の父も、
「あ、那緒。また、人参抜いただろ~?」
「だって、嫌いなんだもん。」
「まだまだ、那緒はお子ちゃまだな~。」
家に帰ればこうして目尻を下げ、優しく笑う子煩悩なお父さん。
「お父さんも。ますます、シワが増えたね?」
「なんだと~?……はっはっは !!」
世間では、私の年頃だと思春期で「パパあっち行って~。」なんて言うのかもしれないけど、少なくとも今のところ私達家族の仲は良好だったりする。
最初のコメントを投稿しよう!