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遠慮がちに、家に足を踏み入れる、千秋の肩を抱き寄せて、やや強引に自宅に招き入れてあげた。
恐々とした、表情を浮かべる理由は明確だ――以前ここに、ホスト時代にお世話になったお客様と、鉢合わせをしたから。彼女がいるのではないかと、キョロキョロしている、千秋の背後から腕を回して、ジャンパーのチャックに手をかけながら、こめかみにキスを落してやる。
大丈夫だよ、俺たち以外、誰もいないから――
そんな気持ちを込めて、してあげた。
さっさと手にしたものを脱がせて、自分もコートを脱ぎ、キッチンに足を運ぶ。
「夜中だけど、コーヒー飲むかい?」
「あ、スミマセン。前と同じく、カフェオレでお願いします」
千秋の華やいだ声に、顔だけ振り返ると、口元に嬉しげな笑みを浮かべた姿があって。
俺が淹れたカフェオレを、初めて飲んだ事でも、きっと思い出しているんだろうな。
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