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☆
「………う……ぅ…あ」
俺は暗闇の中、一人の少女を追っている。腰まで伸びた髪を左右に振り、俺の前を走っている。俺は追いつこうと必死になるが肩を並べるどこか、途中で膝を追ってしまう。少女は異変に気付いたのか走るのを止め、俺に手を差し出してきた。背景はいつ間にか光輝いていて逆光で彼女の顔が見えない。しかし、俺は彼女の手を掴み大声でその名を呼んだ。
「ーーーーー!!」
目が醒めると深みのある青い瞳と目があった。彼女は「わっ!?」と驚き、俺の手を払った。その後、自分のした行為に後悔したのか申し訳なさそうな顔になって、謝罪してきた。
「す、すまぬ。唐突だったので強く払ってしまった。」
「い、いえ。こちらこそ申し訳ない。」
「わしは布都。物部布都だ。治療してそんなに時間は経っておらぬ。まだ寝ていたほうがいい。」
彼女は自己紹介をした後、俺に寝るように促した。俺はまじまじと布都を見つめた。銀色に近い灰色の髪のポニーテール。頭には包帯が巻きついたような鳥帽子を被り、白装束に紺のスカートを履いていた。手足の首には色とりどりの紐を巻いていた。
俺は寝ていた身体を起こし、姿勢を正して頭を下げた。
「此度はご迷惑をおかけして、誠に申し訳ありません。」
俺の土下座を前に布都は両手をばたつかせ 慌てる。
「いえ。わしは看護をしただけで、助けたのは太子さ……、あっ!太子様!!」
布都が言い終わるうちに太子様とよばれた人物が襖を開けて入ってくる。着ていたマントを綺麗に畳み布都の横に座った。
「目が覚めたのか。あの傷の具合なら後三日近くは眠ると思ったのだが。おっと、自己紹介が遅れたな。私は豊聡耳神子。大怪我をして倒れていた君を治療したのも私だ。」
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