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自分の胸に手を当て自慢気に話す。
布都は心の中で、傷薬を塗ったのは私なのに、と納得のいかない顔をしていた。
改めて、自分の身体を確認する。薄紫の浴衣を着ており、左目を隠すように包帯が巻かれていた。
「一体……」
先程まで笑っていた神子は神妙な顔つきをして聞いた。
「ところで君は自分の名前がわかるか?できればどうして此処にいるのかも教えて欲しい。」
自分の身に何が起きたのか、どうして此処にいるのか、痛くなる頭を包帯の上から圧力をかけて抑えようとする。全く思い出せない。
わかるのは……、そうだ、名前……
「す……な、り」
頭痛が激しくなる中でようやく言葉が出る。
「俺は…鈴鳴……。」
どうしてもその先が出ない。必死に思い出そうと目を閉じるが暗闇が広がるだけだった。
「ふむ……」
神子は俺の異常を直ぐに察したのか、それ以上は聞かず考え込むように顎に手を当てた。
「とりあえず怪我人を放り出す訳にもいかないだろう。布都。彼の面倒は任せたよ。」
「えっ!?太子様!?」
布都が呼びかける前に神子は高笑いしながら、部屋から出て行った。気まずい沈黙が流れる。
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