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〔1〕
「そう、書類もダメだとなるといよいよお手上げね」
その女性は如何にも残念そうな素振りを見せる。
「仕方がないので、一度東京に戻って連絡を待つ事にします」
そう言って卓司は立ち上がるが、若干の目眩(めまい)を覚える。
「…(あれっ?)」
「どうかしました?」
「いえ、なんでもないです。長々とありがとうございました」
「お役に立てずにごめんなさいね」
「いえ、いえ。では、失礼します」
卓司は深々と頭を下げて602号を出るが、今度は吐き気が込み上げて来る。
「…(う~っ、気持ち悪っ)」
そして、よろけながらもエレベーターの前まで何とか辿り着くも、ついには目も回り出した。
「…(取り敢えず、階段にでも座って気分を落ち着かせよう)」
そう考え、壁に手をつきながら階段の方向に歩き出した時、突然、後頭部に激痛が走る。
「うおっ !!」
卓司は呻き声を上げ、頭を右手で抱え込むようにしながら、そのままその場に崩れ落ちる。その瞬間、微かだが何か赤いものが目に飛び込んで来る。
「…(ハイ…ヒール !?……でも、なぜ !?)」
一瞬、女性のハイヒールを見たような気がしたが、あとは気を失って5階と6階の踊り場にそのまま倒れ込んでしまう。
「…(あ、頭が…割れるようだ)」
どれくらい経ったのか定かではなかったが、目を開けると見た事もない白くて綺麗な天井がそこにはあった。
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