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「できたわよ」
見れば部屋の中央にあるガラステーブルの上にお粥とお新香が並んでいる。卓司はベッドから這い出してテーブル前で胡座を掻く。そうして、『ありがとう』と礼を言ってお粥を蓮華で掬い、口元に運ぼうとするが、
「あ痛っ!!」
なぜかしら、口の中も切っているようであった。
「無理しちゃダメよ。ゆっくり、ゆっくり……そう、そう……」
その女性は卓司の前に屈み込んで、卓司の食事をする様子を見守っていた。
「そうだ、まだ名前を言ってなかったね」
「私立探偵の紺野卓司さんでしょう」
「どうしてそれを !?」
「お財布に名刺が入ってたから……」
「そうだったんだぁ」
得たいの知れない男の世話をしているのだから身元を調べるぐらいは当然の事であろう。この時、卓司はある事を思い出す。
「お金とバッグ !?」
卓司の狼狽振りを見た、その女性は立ち上がると玄関に向かい、シューズケースの上から卓司のショルダーバッグを持って来る。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
差し出されたバッグを受け取り、まずは中に入っていた財布の中身を確認する。
「…(15万円はちゃんとある……という事は物取りではないのか)」
それから、バッグの中を確かめるが、
「ない !!」
あのビルで入れた筈の書類が見当たらない。
「えっ、何が?」
「書類が……」
「私は知らないわよ」
「いや、別に君を疑っているわけじゃないよ。ただ、あるかどうか確かめただけだから……」
「だよね~っ」
「…(それにしてもどうなってるんだ。なぜ、届けに来た書類がなくなっている?……それが目的か)」
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