第2章 『記憶』

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何がなんだかサッバリ分からないままバッグの中から携帯を取り出すが、当然電池切れであった。 「君の名前をまだ聞いてなかったね」 「あたし? あたしは『野村沙也加』……みんなはなぜか私の事を『のさっぷ』って呼ぶの」 「のさっぷ !?」 「うん。野村の『の』、沙也加の『さ』で『のさっぷ』」 北海道のノサップ岬に関係があるかと思ったが、どうやら違うようであった。 「ふう~ん、おもしろいね。札幌の人?」 「ううん、出身は仙台」 「宮城県か……俺、福島」 「え~っ、福島なんだあ、奇遇だね」 「同じ東北6県という意味ではね。で、何してる人、午後3時に自宅にいるってのは?」 「うん、キャバ嬢をやってる。あと1時間で出勤なんだ」 「そうか、キャバ嬢なんだ」 最初に見た時に普通のOLや女子大生とは異なったオーラを放っているとは思ったが、聞いて納得である。 「ところで、俺が君の世話になった経緯は?」 「うん、今、コーヒー煎れて来るからちょっと待ってて」 そう言って沙也加は台所に立って行った。卓司は沙也加の後ろ姿を見ながら蓮華をゆっくり口に運ぶ。                     「………ご馳走様。とっても美味しかったよ」 「御粗末さまでした……はい、コーヒー」 「おっ、ありがとう」 「熱いから気を付けてね」 先程までは警戒をしてからか、沙也加は腰を下ろす事はなかったが、今ではその警戒も緩るんだのか、テーブルを挟んで卓司の真向いに腰を下ろしていた。 「あれは一昨日の夜中の2時頃だったかしら、仕事を終えて帰宅したらマンションの入り口の所に倒れていたの……」 「俺が?」
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