第13章 『野望』

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〔1〕                      9月を迎え、まだまだ残暑も残るものの秋めいた風が吹く日が徐々に多くなるとともに、政界も慌ただしくなって来ていた。 テレビや新聞などのマスメディアは来年の2月に予定されている、日朝国交回復条約と基本条約の調印の問題について毎日のように報道していた。 条約は内閣が自由に締結できるが、条約を調印する前に国会の承認を得なければならない。この承認がなければ条約を締結できないが、事前に国会の承認を得る事ができない場合でも、例外として後に国会の承認を得れば条約は有効となる。ただし、与党内閣の場合、国会と内閣の結びつきが強いので承認は殆ど得られる事になる。 世論の見解は、一般的に日朝国交回復条約の調印には反対の見解が多かったが、財界からは調印支持の意見が強かった。 日本国民には北朝鮮の実体が殆ど分からない事、拉致問題が未解決である事が反対の理由を占めている一方で、日本海にある北朝鮮との国境付近で発見された豊かな油田の存在が財界からの賛成を得る要因となっていた。                                         【首相官邸】 「……総理、河田官房長官がお見えになってますが……」 第一秘書の青山が河田官房長官の到来を合田総理に伝える。 合田は宮城県出身の当選6回の衆議院議員、62歳で昨年6月に、東北からは2人目の総理大臣になっていた。政治的性格としては、鷹派(*)で国益優先主義、前内閣が失敗した憲法改正、特に憲法9条の改正には積極的であった。 (*)鷹派 話し合いや馴れ合い主義を嫌い、どちらかと言えば攻撃的な政治姿勢を言う 「うん、分かった。執務室に通して……」
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